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少年よ、○○を抱け ~風木和真の場合~  作者: 大山
第一話 人選は的確に
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異世界の洗礼 その1

 長が美人と評する彼の妻の容姿。

 女とは考えもしなかった相手を例にとり、同じく、長が極上の女と評した、これから会うであろう女たちに恐れを抱いた和真だが、そんな思いも長くは続かなかった。

 何せ、件の女たちと顔合わせするに当たり、身奇麗にする必要があると、和真は放り出されてしまったのだ。


 湯殿という、未知の領域に。




**********



 脱衣所と思しき場所に押し込まれた和真に対し、控えていたらしい二人の少女が、恭しく頭を垂れた。

「この度、湯浴みにて姫のお世話を仰せつかった、アロマと申します」

「同じく、アルエと申します」

「へ? え、あの……げっ!?」

 和真は最初、何の事かさっぱり判らないと、入ってきたばかりの扉と二人を交互に見比べるものの、二度目に視線を彼女らへ移した途端、その姿に呻いて大きく一歩、後退してしまった。

 年の頃は和真と同じくらいだろうか。

 アロマは赤みがかった茶、アルエは黄みがかった茶の髪を、頭に巻いたタオルの中へ隠している。

 上がった頭により判明した瞳はどちらも同じ青で、どちらも似たような、それでいて可愛らしい顔立ちをしていた。

 たぶん、双子なのだろう。

 だがしかし、和真が後退した理由は、そんな生易しいものではなかった。


 二人の着ているシャツと短パンが、明らかに薄手だったせいだ。


 しかも色は全て白。

 頑張って薄目にしてみたところで、衣向こうの色の濃淡は明らかだった。

 和真は一気に沸騰する気分を誤魔化すように、くるり二人へ背を向けると、多少なりとも上擦った声で叫ぶ。

「な、なんつー格好してんだ、お前ら! 服着ろ、服!」

 対する双子の反応と言えば。

「服、と申されましても」

「これが私どもの仕事着でございますが」

「…………」

 恐れながら、という言葉が付きそうなほど、かしこまった二人の言葉に、クラクラする頭を抱えながら、和真はゆっくりと振り返る。

 そうして今度は、遠慮を忘れたようにじろじろ、彼女たちの格好を見やった。

 下から柔らかな丸みが見え隠れするシャツの左右には、ツンと上向く二つの突起。

 腰よりも下のラインに添う短パンの紐は、今にも外れそうな蝶々結びを左右に飛ばしている。

 そこから伸びる薄手の布の前、礼を取るためなのか、それとも恥じらいゆえか、重ねられた両手はしかし、全てを隠すに至っていない。


(……こういうのも、猥褻物陳列罪とか言うんだろうか)

 目前に控える少女たちを認めたくない頭が、ふと、そんなどうでもいい感想を述べていく。

 と、ここで、和真は二人の手が震えていることに気づいた。

 視線を上向かせれば、下唇を軽く噛み、何かに耐えている様子の同じ顔が二つ。

 薄っすら上気した頬と潤む瞳が、彼女たちの羞恥を如実に訴えていた。

(これってつまり、あれってヤツか)

 推測するに、この二人は異世界の男が来るに当たって、その世話を押し付けられたのだろう。

 それも世話相手が姫と呼ばれる身分を考えると、本当ならこんなことをしなくてもいい家柄の、いわゆる良家のお嬢様的な存在だったに違いない。

 しかもこの反応は、完全に嫁入り前。

(つっても一人、嫁入り前でも平気で似たような事する奴はいたな……俺はあれを女と認めたくねぇが)

 親父より中年オヤジな姉。

 過去、風呂から上がる際、「パンツ忘れたー」とか何とか言って全裸で登場した奴のせいで、居合わせた父は盛大に酒を噴出していた。

 二次被害を受けたのは、遅い夕飯を取っていたために、父の唾液入りの酒を頭から被った和真とその周辺。

 ぽっと浮かんだ嫌な思い出を消し去るように、和真が溜息をついたなら、前方で佇む二人がビクッと身体を揺らがせた。

 いつの間にか落ちていた視線を上げれば、再び唇をきゅっと引き結び、辱めに耐える二つの同じ顔が出迎える。

「……とりあえず、風呂に入ればいいんだろ?」

 極力二人から視線を逸らし、呆れたようにそう言えば、「は、はい」と小さな声が帰ってきた。

 これに深呼吸がてら大きく息を吐き出した和真は、すたすた歩き出しては、慄く二人を素通りし、籠に入った服らしき白い布を見て振り向いた。

「で、上がったらコレを着るんだな?」

 後ろは後ろでくっきり映る、二つの綺麗な桃の陰影をぼかしつつ、どう着るのかいまいち判らない布を指差せば、ぽかんとした二人が慌てて姿勢を正し、こくこく激しく頷いた。

「は、はい」

「す、すみません、ただいま」

 初対面の異世界人、それも男に、誰にも見せたことのない肌を見せる――その恐怖心から役割をすっぽかしてしまっただろう二人が、顔を青くしながら慌てて駆け寄ってきた。

「いや、いい」

 すかさずこれに手の平を向け、制止を求めた和真は、顔を逸らした状態で言った。

「なんつーか、その、あんたらの仕事を奪うようで悪いんだが、俺は誰かの手を借りて入浴とか全く慣れてないんだ。だから、そのままで頼む」

「で、ですが」

 怒らせたとでも思っているのか、追い縋るような声を死角に聞いた和真は、何とか笑みを見繕うと、なるべく穏やかになるよう努めて続けた。

「けど、使い勝手も違うからさ。判らないところは教えて貰えると助かる」

(だからマジで頼む。それ以上、俺に近づかないでくれ)

 常日頃、女の黒い部分だけを見て育ってきた和真だが、女に全く興味がないかといえば、そうでもない。

 かといって、こんな訳の判らないところで、自己犠牲精神を全面に出した少女に手を出す、なんて事はしたくなかった。


 いや、もっと正直に言おう。

 キスの経験もない和真にとって、処女というのはすこぶる面倒臭い相手だった。

 特に、ワンクッションとなるはずの感情もないのに、「痛い」だの「止めて」だの騒がれた日には……。

 熟達の女から手ほどきを受け、全部終わってすっきりして、その後で「へたくそ」とただ一言突きつけられるよりも性質が悪かろう。

 無論、全ては知識だけの妄想ではあるが。

 だからこそ彼女たちに背を向けた和真は、学ランに手を掛けつつ、心の中で小さく愚痴った。

(くそっ! 女だけが見られて恥かしいと思うなよ!? 背中に二人分の視線を受けながら脱がなきゃならねぇ、こっちの身にもなってみろ!! 露出狂じゃないってのに、何でストリップ紛いのことをしなきゃならねぇんだよ、おい!! ああくそっ! いっそ見るんじゃねぇって啖呵が切れりゃ、どれだけマシか)

 実際言ったなら、間違いなく小者扱いされる。

 たとえ夢だとしても、よく知りもしない相手から、そんなことで変なレッテルを貼られたくはなかった。

 そんなこんなで全てを脱ぎ終えた和真は、隠すために身を丸めるでもなく、背中を向けた状態で後ろにいる二人へ声を掛けた。

「湯はこっちでいいんだな!?」

 少しばかり声が引っくり返ってしまったが、右手にあるそれらしき扉を指差し、自棄気味に怒鳴れば、アロマかアルエか判別できない声が「は、はい」と返事をしてきた。

「よし」

 偉そうな頷きは、己を鼓舞するために。

 短い距離ではあるものの、もしかしたら移動中、二人に見えてしまう可能性があるのだ。

 すっかり萎縮している突出部は勿論、がちがちに強張っている顔や、体育会系に縁遠い肉体が。

 男性経験があろうとなかろうと、男性的な魅力が大いにあるとは言い難いこの身体に、二人がどんな感想を抱くのか。

 考えれば考えるほど恐ろしくてしょうがない。


 ゆえに和真は二人を見ずに扉を開くと、襲い来る白い蒸気もなんのその、自ら進んでその中へと入っていった。







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