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少年よ、○○を抱け ~風木和真の場合~  作者: 大山
第二話 二度あることは
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最悪の選択 その1


 生臭ファンタジーはただ生臭いだけなく、血生臭いファンタジーでもありました――。


 そんな、ですます口調の優しげなナレーションが、深恵姫の声で和真の頭を過ぎっていく。

 が、和真に忌まわしいリセット機能がついているというのは、未だ仮定の段階。

 結論を急ぐ頭を軽く振った和真は、至近で睨みつけてくる深恵姫を見つめ返すと、その肩を掴んで確証を求めた。

「きゃっ!? 何を――」

「なあ、他の姫って灰心姫と明澄姫のことか? 灰心姫は白っぽくて長い髪の小さい女の子で、明澄姫は俺と同い年ぐらいで乳がデカい?」

「ち、乳? デカい……って、殿方はどうしてそういう! あの子がそれをどれだけ気にしているか、知りもしないで!!」

 身を捩って和真の手を振り払った深恵姫が、更なる怒りを瞳に込めた。

 気を失っている時にしか会っていないはずの二人の容姿を、和真は正確に言い当てたらしい。

 非難までもが深恵姫の中で膨らんでいけば、苦手な女のヒステリーを前にした和真は、怯みもせずに自分の考えに没頭する。

(また、合っていたってか。じゃあやっぱり……いやでも、予知夢の可能性がない訳でもねぇし)

 普通であれば現時点では知らないはずの事象。

 これがことごとく合っていたからといって、即・リセットされたとは結びつかない。

 しかし、予知夢にしては、深恵姫の反応があまりに夢と違っていた。

 というか、ここまで外しているのに、果たして予知夢と言えるのかどうか。

(……案外、予知夢じゃなくて、あれは実際にあったことで、けどこうして生きているってのは、殺された俺が、ジジイの仕掛けた幻だった、とか。でもって、今こうして同じ時間を繰り返しているって思ってんのも、ただのドッキリ、なんて話だったりして)

 全ては和真をからかうことで、姫たちの心を和ませ、彼に親しみを持たせるのが目的――。

 ない、とは言い切れなかった。

 媚薬や惚れ薬まで使って、自分たちの目的を果たそうとする連中である。

 可能性としては十分在り得る話だろう。

(ふざけやがって)

 そんな別口の結論に達せば、和真にも漲ってくる怒り。

 反面、リセット機能の可能性もあるというのに、和真がドッキリ案を押すのは、偏に怖いからだ。

 感じてしまった、死の恐怖。

 それを繰り返すかもしれない可能性は、ただただ恐ろしい。

 かといって、ないものとして片付けるのも難しい。

 ゆえに和真は、ドッキリ案を実証すべく、ある事を思いつく。

 人工的とは言い難い太陽の光が、最初の目覚めと同じ位置にあるのを前提に、あれは昨日の事だったという仮定の下――


(……まさか、二日続けて同じ下着を付けている訳ねぇよなあ?)


 湯殿時もそうだったが、普段色々と抑圧されることの多い和真は、一度キレ始めると収集が付かなくなり、 目的が達成されるまで、暴走するタイプであった。

 もしも深恵姫の態度が穏やかなままであったなら、和真ももう少し冷静でいられたかもしれない。

 しかし、今の彼女は気絶する和真を全裸にしたことを棚に上げ、符合した情報からその時には気がついていたのだろうと勝手に決め付け、挙句、自分に脱がせたと非難してきたのだ。

 和真にとってはほとんど言い掛かり、よって気遣う必要はどこにもなかった。

「何か仰ってはいかがです!?」

 これだけ近くにありながら、不穏な気配を察せない深恵姫が、黙ったままの和真に詰め寄ってきた。

 迎える和真は、表情の一切を失くして深恵姫を見下ろした。

 刹那。

「きゃあっ!!?」

 無防備だった腕を引いては、背後のベッドに押し倒す。

 突然のことにもがく身体が仰向けになる前に、放置されていた着替えの帯を使い、深恵姫の両手首を後ろで拘束、こちらを向く足の付け根に跨った。

「まずは上から」

「いやっ」

 伸びる和真の手を前に暴れる深恵姫。

 しかし、どれだけ上げても彼女の足は和真の身体を叩けず、振り下ろす腕は後ろ手に縛られたまま。

「やっ、止めて、止めて下さいまし!」

 情に訴えかける声は、胸のボタンを外す和真の指を止められず、暴かれた青いスリップに少年の両手が這えば、顔を背けた深恵姫が屈辱に顔を歪ませた。

「酷い……幾ら春告(しゅんこく)の姫とはいえ、こんな、くっ」

「すっげぇツルツル。イイ生地使ってんなぁ、これ」

 深恵姫の訴えに耳を貸さない和真は、刺繍が本物か確かめるように親指で擦りながら、手中の丸みを(もてあそ)ぶ。

 緩慢でぎこちない動き。

 歪む深恵姫の頬に、怒りか羞恥かその両方か、悔しげな朱が差していく。

「青いスリップにこの刺繍……大体同じだな。じゃあ、次は下か」

「っ!」

 和真の言葉に反応し、太腿の内側に伝わってくる深恵姫の緊張。

 程よい体温と言い知れぬ感覚に、自然と顔をにやつかせた和真は、尻をずらしつつ再び暴れ始めた両足を振り返ると、抵抗をあざ笑うように付け根からスカートを片手でたくし上げていく。

「やっ、いやっ!!」

 腹筋だけで起き上がる上半身があれば、その胸に右足を押し付けて倒し、深恵姫の身体が左右に揺れれば、露になった隙間へ指を沈めた。

「ひっ」

 途端に硬直する深恵姫や硬く閉じられた膝とは違い、その隙間はどこまでも温かく柔らかい。

 心地良さと比例する深恵姫の恐怖心に煽られた和真は、手の平を押し付けると、探るように擦っていく。

「ひ、ぃ、っや」

 といっても、隙間に入れるのはせいぜいが指の一、二本。

 それでも続けていけば、やがて疲れてきたのか離れ出す膝。

 和真の為すことに全神経を尖らせているのだろう、深恵姫がそれに気づいた様子はない。

「ああ!?」

 ゆえに適度に開かれた隙間へ、一気に手の平を潜り込ませた和真は、薄い布越しの歪なくぼみに中指を置くと、抜け出させた親指でスリップと同じ柄の刺繍の先をなぞった。

「ガーターベルトにパンツも同じ……ってことは、二日連続で同じ下着着てんのかよ、あんた」

「なっ!?」

 視線を深恵姫に戻し、嫌悪感たっぷりに言ってやれば、目を剥いて顔を赤くした深恵姫が怒鳴り散らした。

「初対面の人間にこのようなことを強要しておきながらっ! 濡れ衣もいいところです!」

「なるほど? ってことは、同じ下着を二着持っているってか」

「そ、そのようなこと、貴方に答える筋合いは――ひゃんっ」

 吠える深恵姫に合わせ、中指の爪を立てて引っ掻く。

 浮こうとする腰を押さえるように、胸を足裏で押し潰した和真は、それでももぞもぞ動く深恵姫へ、呆れたように言った。

「別に尋ねてなんかいねぇよ。けどまあ、どの道この反応じゃな。……ドッキリじゃなくて、リセットが濃厚か。クソッ」

「はぅっ!」

 悪態と共に中指を無理やり引き抜けば、深恵姫が殊更大きく跳ねた。

 しかし和真はこれを見ることなくベッドから降りると、一度は着た覚えのある服に身を包み、サンダルのような靴を足に引っ掛けて寝室を後にした。

 帯のない服からは、深恵姫を好い様にしていたとは思えないほど、貧弱な身体が覗いているものの、和真の足は気にせず、真っ直ぐ長と二人の姫がいるであろう扉の先を目指す。

 ドッキリ説が流れたと判った瞬間、色々触ってしまった自分に、嫌な汗を取り戻しながら。







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