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少年よ、○○を抱け ~風木和真の場合~  作者: 大山
第一話 人選は的確に
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夢を夢見る少年

 その日、一人の少年が”異世界”なる場所から召喚された。

 黒髪黒目、容姿は端麗でもなく平凡、もっと言えば貧相、そして童顔。

 辛うじて少年を、この世界で通用する男としていたのは、それでもギリギリラインの身長だけ。

 だからこそ、彼を一目見た者は全員が落胆した。

 召喚した責任者が言うには十七らしいが、それにしたってこんな子どもが、果たして自分たちの益になるものか。

 が、何の前触れもなく、知らん土地に召喚された少年にとっては、益以前の問題である。

 というか、彼はまず、召喚された先が異世界、というこの現実を否定した。でもって彼は兎に角、これは夢である、という主張で自分を納得させた。

 でなければ、半狂乱に陥っていただろう。

 何せ彼は、つい先程まで友人らとゲーセンで遊んでいた真っ最中。

 それがいきなり、厳つい銀の鎧を纏ったむさ苦しいコスプレ野郎と、明らかに外国人風の老人が数人、黒だか白だか判らん魔術めいた怪しい服を着て、自分を取り囲んでいるのだ。

 直前まで格ゲーに勤しみ、座っていたがために、したたかに尻を打つ羽目となった自分を、得体の知れない変質者集団が上から見下ろしてくる図。

 周りを見渡しても石造りの部屋が広がるばかり、あれだけ大音量で鳴り響いていたゲーセンの音も一切がかき消されていたなら、本当にもう、どうして良いのか判らなくなるってもんだろう。

 代わりとばかりに、ぺちゃくちゃ唾液混じりの音が至る所で聞こえてくれば、それが彼らの言葉と理解するまでに数分かかり、その数分で少年は、これは夢だ、と半ば強引に自分を納得させたのだ。

 何よりも自分自身(主に精神面)を守るために。

 そうこうしている内に、厳ついコスプレ野郎で両脇をがっちり固められてしまった少年は、魂を半分、空想のお花畑に飛ばしながら、ある広間まで連行されていく。

 とんっと背中を押され、ふらふら歩けば、目の前にはこれまた外国人な、王様コスの渋いオッサンが、絶妙な距離感と高さのある場所で、立派な椅子に座っている姿があった。

 しかもこのオッサン、なんだか威厳っぽいものまで感じられて仕方がない。

 常日頃、母親に喰われ気味の父親を見てきた少年は、そんな男らしい姿に「おお……」と意味もなく声を上げると、なんとなく正座してみせた。

 オッサンは少年の行動に、なにやら感嘆詞っぽい声を上げると、満足げに笑んで言葉を発した。

 それはそれは、見た目通りのイイ声で。

「えるまねるももたん、にょるにゅ」

 それはそれは、オッサンの全てに似つかわしくない、気の抜ける言語で。

「…………」

 破壊力は、抜群だった。

「えるまねるもも、にゃにゃうにらん?」

「…………」

 再び、理解不能、というか理解をあまりしたくない言語が、男の目から見ても格好良いと思えるオッサンからやって来た。

 あごひげを擦る姿は、かなり様になっているというのに、疑問符をつけたことによって、より一層、頭が沸きそうな感じに仕上がっている言葉の響き。

 どうにも我慢できず、少年が助けを求めるように辺りを見渡せば、王様コスのオッサンの横、今になって気づいた、こちらを胡乱げに眺めている美少女が、翳した扇越しに何事か言う。

「るれいろろな、りりやれめむらわ、へそ」

(……へそ?)

 聞いたことのある音に合わせ、少年の視線が学ランの上から自身の腹に向けられる。

 するといきなり周りがざわめき、何だ何だと顔を上げれば、怪しい魔術師装束の老人が、酷く慌てた様子で近づいて来た。

 凶器となりそうな、棍棒紛いの木の杖を持って。

 思わず仰け反れば、思い切り振り被られるソレ。

(殴られる!)

 そう思った瞬間、少年の脳裏に浮かんだのは、辞世の句でもなければ、今生との別れの予感でもない。

(って、何で他の屈強そうな奴じゃなくて、こんなヒョロいジジイに黙って殴られなきゃならねぇんだよ!)

 今までは夢だからと成り行きに任せてきたものの、そこだけは譲れなかった少年。

 杖が振り下ろされるのとほぼ同時に、ジジイに向かい、正座で少し痺れ気味の蹴りを繰り出せば、枯れ木のような腹に命中する。

 直前、ピタッと止まった杖からチカチカした光が降り注いだのを、遅れて認識した少年は、杖は殴るためではなかったと、蹴った後で知った。

 と同時に、いきなり耳に入ってくる、聞き慣れた言葉の数々。

「長ぁっ! 長が、長が春告(しゅんこく)の姫に!!」

「ご乱心、ご乱心! 姫がご乱心なされた!!」

「おお、この国はもう終わりじゃ!!」

「世界の破滅は、すぐそこまで来ているというのか!」

「くっ、長! 貴方の跡は私が必ずっ!!」

「し、死んどらんわ、愚か者どもっ……! それ以前に、何故、誰もワシに手を貸さんっ……!?」

 わーわー騒ぐ周囲に対し、少年に蹴られたジジイこと長が、痛みに掠れた声を上げた。

 しかし、元々ない声量は騒ぎに掻き消され、聞いてしまった少年は罪悪感交じりに、長へ手を差し伸べた。

「お、おお、申し訳ございませぬ、春告の姫」

 すると長、蹴り上げた少年に礼を述べて手を取ると、恭しく頭を下げてきた。

 何なんだと訝しく思えば、煩かった周りが、しん……と静まり返っていることに気づく。

 改めて辺りを見渡した少年は、もう一度、何なんだと怪訝な顔をした。

 長が頭を下げた途端、広間にいる全員が全員、膝をついて頭を下げてきたのである。

 先程は高みから椅子に座って出迎えたオッサンも、席を立って他同様、頭を下げていた。

 唯一頭を下げていないのは、扇で顔を半分隠したままの美少女のみ。

 まるで、オカルト集団からご神体扱いされているような現状に少年は慄き、答えを求めるように、態度の変わらない美少女を見やれば、何故か睨まれた。

 自分とそう齢の変わらなさそうな少女とはいえ、まずお目に掛かれない類の美少女の眼力は、少年を更に怯ませる。

 と、これに気づいたオッサンが美少女を見咎め、そのまま地響きになりそうな声で言った。

「ライシオーネ。一介の()が、長の認めた姫を前にして面を上げたままとは何事か」

(……ああ、なるほど。さっきの光は、俺がコイツらの言葉を理解するための)

 それまでのふにゃふにゃした言語とは違い、オッサンの見た目をなぞる、威厳溢れる言葉を聞いた少年は、ようやく杖から出てきた光の正体を知った。

 全ての事柄において、一歩遅れを取る少年だが、これはただ単に、目の前で起こっている事象を夢で片付けているせいであり、決して彼の理解が遅いわけではない。

 かといって、そんな少年の、表に出ない混乱をライシオーネと呼ばれた美少女が判るはずもなく。

「ふんっ」

 それだけ残して、広間の奥、椅子の後ろへとライシオーネが引っ込んでいったなら、「ライシオーネ!」と窘めたオッサンが、立ち上がりかけた身体を、慌てた様子で再度少年へ向けて膝を折ってきた。

 どうやら娘らしきライシオーネを追うよりも、少年への義理立てのほうが優先されるらしい。

 悪い気はしないが、居心地はすこぶる悪い。

 広間を出る際、こちらを凄い目で睨んできたライシオーネを見てしまったなら、尚更であった。

(っつっても、夢だろ、コレ。いい加減、目覚めてくれねぇかな、俺)

 ライシオーネに、またしても怯えてしまった自分を誤魔化すように、少年はそんな事を思いつつ頭を掻く。

 と、一定の距離を保って近づいてきた長が、頭を下げたまま言ってきた。

「春告の姫……重ねて申し訳ございませぬが、これは現実でございます」

「……は? 何言ってんだ、じーさん?」

 まるで心を読んだかのようなタイミング。

 ついつい素で聞けば、じーさんと呼ばれた長は、更に頭を低くして言う。

「姫の御言葉、確かに御尤もではございます。ございますが……どうか、諦めて下され。姫は我らが希望。ゆえにこの地へお招きしたのです」

 そんなこんなで長は、未だ眼前に広がる全てを夢で片付けようとする少年に、彼を召喚した旨と、そうしなければならなかった理由を、かなり端折って説明してきた。

 続き、この世界において、召喚までした少年に頼みたい事を告げる長。

 対し、少年の答えたるや――。


「これは、夢なんだあああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」


 制止を叫ぶ声を避け、入ってきた扉を蹴破った少年は、今し方聞いた事を掻き消すように耳を塞ぎながら、長い廊下を駆け抜けていった。




初めまして、大山と申します。


少年主人公の長編を今回初めて投稿してみました。

のんびり進めていく予定です。

書くまでもありませんが、のっけから殻に閉じこもってしまった彼が、今作の主人公。


少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです。



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