最初の試練
___死ぬ
身体中の細胞が、全力で警鐘を鳴らしていた
その警戒よりも先に感じたのは「昨日までの勇者」がここで死んだと言う事実だった
いや、1人だけではない。きっとこの部屋で何人もの勇者が散っていったのだろう
「…は、」
転送先の部屋についた瞬間、4人は一体の魔物から逃げ惑っていた
勇者の目線の先にいたのは、竜
否、街一つ呑み込めそうな厄災そのものだった
「いったぁ!ちょっと、女の子に何をするのよ!」
「落ち着きなさい、レギナ。うるさい」
魔法使いが剣士を睨みつける
「はーい、お嬢ちゃん達ストップ!今はとりあえず何をするかを___」
僧侶の言葉は怪物のような呻き声で掻き消される
ドラゴンの口元には、まだ新しい血がこびりついている
「212…」
勇者がドラゴンを見つめていると喉の奥が一瞬きらりと光った
「…ッ!?お前ら避けろ!!」
その瞬間、4人の視界を灼熱の炎が塗りつぶした
「…炎!?あ"つ…!」
魔法使いだけ一瞬反応が遅れた
彼の足は焼け爛れ、まともに立てそうにない
「任せろ、"治せる"」
僧侶が言うと魔法使いを担いで後方に下がる
残されたのは、勇者と剣士の2人
(この子…手が震えている…)
俺だって怖い…しかし、自分より五つほど年が下に見えるこの少女の恐怖は計り知れない
でも、立ち向かっている。
こんな姿を見たら誰だって自分も戦わなければいけないと言う使命感に駆られるだろう
「…勝てそう?」
「努力はするわ」
それだけ言うと勇者は自分を囮にするようにドラゴンに向かって走り出した
「かってぇな!、こいつ!」
ドラゴンの足元を狙って長剣を振りかざすが衝突音が虚しく響くだけだ
次の瞬間、ドラゴンは埃を払うかのように尻尾を軽く一振りした
「かはッ…」
勇者が吹き飛ぶ
その表情は悔しげだが、彼の視界には希望が映っていた
「頼むぞ、剣士!」
「任せなさいな!」
ドラゴンの後ろから剣士が飛び出し、斧のような太い剣を振り下ろす
「__烈火!」
強烈な一撃。ドラゴンの外殻の一部が剣士の一撃により音を立てて割れた
「…魔法使い、!」
「任せて…アクアスピリタス…!」
ドラゴンにできた傷跡がじわじわと広がる
「次は俺が___」
勇者が走り出し、傷跡に向かって剣を振り翳す
「死ねよ__化け物が!」
剣が金色に輝き、傷口を深く抉った
致命傷には届かなかったが、血飛沫が上がる
「勇者!そのままトドメを!」
僧侶が叫ぶ
___しかし、そんなに甘い相手ではなかった
勇者の視界に「赤」が広がる
一つは炎。そしてもう一つは…
自身のことを庇った剣士の血
「剣士…ッ!?お前何を…!」
「ゲホっ…あんた、私より強いでしょ…?…庇うくらいはさせてよね」
(……俺が生き残る、1番価値がある人間だ…)
一瞬脳裏に浮かんだ黒い思考を飲み込み剣士を見つめ直す
腹部を裂かれ、剣士が膝をつく
血が止まらない
名も知らない少女に助けられた勇者は怒りを糧に走り出した
「…うわぁぁぁああ"!!」
剣を構え攻撃を仕掛ける
遠くから「無茶だ!」と焦ったような叫び声が聞こえたが関係ない
(仇を打つんだ…!)
傷跡を狙い飛び上がる
「奥義___」
「そこまで」
小さな声が響く
その瞬間、突風が吹き荒れたかと思うとドラゴンが跡形もなく消滅していた
「見込み有りと判断され、貴様らは先刻国王陛下から"勇者パーティ"として任命された。さっさと次の門をくぐれ」
目の前に見覚えのある軍服を着た少女が現れた
少女ははぁ、と小さくため息をつくと何かを地面に捨てる
「ドラゴンが復活するかもしれない、そうしたら私とて骨が折れるからな」
「復活…?まさか、完全に消したのではなく、一時的に封印してるのか?」
僧侶の呟きを少女は無視する
少女が指を弾くと目の前に先ほどよりも豪華な門が出現した
一瞬ちらっと剣士の方を向いたかと思うと鼻で笑い挑発するような笑みを浮かべる
「…この女はともかく、貴様らには期待している、精々頑張ると良い」
(こいつは今剣士をバカにしたのか…?)
今にも飛びかかりそうになった足を止める。
こんな正義感あふれる剣士が認められないなら、俺はなんだ?
「1番価値がある人間」
そんな言葉が頭をよぎる。
(やめろ、考えるな。俺たちは"罪人"だ。初めから価値なんてなかっただろう)
ぐっと眉を顰め少女に向き直る
少女が指をもう一度鳴らしたかと思うとガツン、と頭を殴られたような衝撃が走り、俺の意識は暗闇へ沈んだ




