第六話の1 本末転倒って知ってます?
珍しく続き物ですので、お手数ですが第五話を先に読了下さい。
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ。
ひや、ひや、人の心はかくも複雑
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
日も暮れて、その日のショーも終わり、芸人らは裏へ引っ込み、ドタバタと片付けが行われていた。
仮面の男は受付でぺこぺこと、帰宅する人たちにお礼を言いながら頭を下げていた。
少し欠けた月が天に上り、ようよう静まり返ってきた頃であろうか。
テントの裏に歩いてくる人影があった。
フードを深くかぶり、だれであるかもわからない。
きらり、とマントの陰から月明かりに反射したものがあった。
裏手では酒を手に芸人たちがわいわいと話していた。
ショーの緊張感から解放され、酒を飲み、ソーセージや干物をかじりながらみな口々に今日の成果や客にこんなのがいた、と雑談をしていた。
男も女も少年も少女も楽しそうに身振り手振りを加えながらひと時を過ごしていた。
「アイリーンさん、疲れたでしょう。お先に食事をどうぞ」
「いえいえとんでもない!フェルナンドさんが片付け終わるまで手伝いますよ」
元気な声が荷馬車から聞こえてきた。
荷物を片付けようとしている音が聞こえてくる。
「おーい、食いものなくなっちまうぞー」
赤ら顔の男がふらふらと荷馬車に近寄ってきた。
そして男はそこに立つ人影に気づきそちらを見た。
「お客さんですかぃ?今日のショーはお」
「うるさい!!」
響き渡る声に、騒いでいた連中も話すのをやめて振り返った。
荷馬車の中にも届いたとみえ、アイリーンとフェルナンドがひょこんと顔を出した。
「どうしたの」
状況が呑み込めないながらもアイリーンは梯子に足をかけ、降りようとした。
その梯子を人影が勢いよく蹴り飛ばした。
梯子そのものは外れることはなかったものの、不意の衝撃にアイリーンはそのまま数メートルを落下した。
「アイリーンさん!!」
あわててフェルナンドも梯子を下りてくる。
「あんたのせいで私はいい笑い者だわ!」
フードの下から現れた姿は、リュシカであった。スカートのすそはボロボロに擦り切れていた。
「リュシカ…」
美しい顔は端々に擦り傷がつき、痩せこけているように見えた。
マントから覗く足も青あざや傷があちこちにあった。
「目がさめたら村中に私のうわさが広まってたんだよ!芸人に言い寄って捨てられ置き去りにされた女ってね。あんたの仕業だろう!」
「え…私は知らないわ…」
倒れたままのアイリーンは首を振った。
「恥ずかしくて村にはもう住めなくなったんだ。思い知らせてやらないと気が済まなくてこうして一団を追いかけてきたのさ」
アイリーンの視線が、後ろに回っていたリュシカの右手に向いた。
「あんたのせいで!!」
ナイフがアイリーンめがけて振り下ろされた。
「危ない!!」
そのナイフをわが身で受け止めたのは、果たしてフェルナンドであった。
アイリーンを背にかばい、そのナイフは深々と左胸に刺さっていた。
いや、刺さったはずだった。
パキン、と音がしてフェルナンドの姿が消えた。
代わりに地面に落ちていたのは木製の人形だった。