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第五話の1 恋の三角関係?なんですかねえ

ギィ、ギィ

さあ始まるよ。

見世物小屋が始まるよ。

皆様、恋のお話はお好きかい?

お代は見てのお帰り

喝采、喝采


「あの、ショーに出ていた方とお話をさせていただくことは可能でしょうか」

 真っ赤な顔をした愛らしい女性が、どやどやと人が出ていく中、舞台の掃除をしていた仮面の男に話しかけてきた。

「えぇ? 誰でしょうか」

「あ、ごめんなさい!私はアイリーンと申します! 靴屋ルーフルの娘です!」

「おや、おや、これは失敬。うちのどの者でしょうか」

 仮面の男は誰宛にというつもりで聞いたのだが、アイリーンは自分が名を名乗りもしないで話しかけたことをとがめられたと思い。あわてて自己紹介をした。

「ええと、あのナイフ投げをされていた方です」

「ほうほう、フェルナンドですね。ようござんすよ、呼んでまいりますのでね」

「ありがとうございます!」

 アイリーンは勢いよく頭を下げた。

 勢いが良すぎて頭から髪飾りが吹っ飛んでいったくらいだ。

 彼女はあわててそれを拾いに走った。

 ほどなくしてフェルナンドがやや小走りにやってきた。

 背はそれほど高くはないがすらりとしたからだつきで、髪は茶色がかったウエーブの好青年であった。

「あ、あの、アイリーンと申します! 靴屋ルーフルの娘です!」

「フェルナンドです」

 フェルナンドは何で呼ばれたかわからないという戸惑いを見せながらも笑顔で応じた。

「あの、あなたのナイフ投げ素敵でした!」

「ありがとうございます」

「あの、あの」

 アイリーンはこれ以上はないというくらい顔を真っ赤にしていた。それからしてもあまり男性と話した経験はないのかもしれない。

「また、見に来てもいいでしょうか? かっこよかったんで!」

「それは、うれしいです。ありがとうございます」

 フェルナンドは笑顔で頭を下げた。

「じゃ、じゃあ私はこれで!」

 両手をぶんぶんと振りながらアイリーンは走り去っていってしまった。見れば入り口に二人、同じような年ごろの女の子がこちらを覗いていて、アイリーンに向かって手を振っていた。

「これはこれは」

 仮面の男は何かを確信したようにうなずいた。


 アイリーンはそれからフェルナンドが出るショーにはほぼ顔を出すようになった。

 といっても主張するわけでもなく、目立とうとするわけではなく、目をキラキラとさせてフェルナンドのナイフ投げに見入っていた。

 友人と一緒のこともあれば、一人の時もあった。

「あの子、ずっと応援してくれてますねえ」

「いい子ですね。周りの人に迷惑にならないようにしてますし」

 仮面の男と受付の女性はこんなことを話した。


 その夜仮面の男はフェルナンドと何かを話していた。


 その街での公演もあと数日を残すばかりとなった時であった。

 フェルナンドを訪ねてきた女性がいた。

 ちょうど彼はテントの裏側に設置された倉庫のような場所で、ショーに使うものを整理しているところであった。

 ゆっくりと入ってきたその娘はリュシカと名乗った。

 長い黒髪にいかにも女性らしい体つき。胸元が強調された服だった。

「アイリーンの友人です」

「ああ、あのお嬢さんの」

 フェルナンドはホッとしたように緊張を緩めた。

「何か御用でしょうか」

 今日フェルナンドの出演予定はなく、そのためアイリーンも今日はテントを訪れていなかった。

「あのう…よかったら私と付き合っていただけませんか」

 リュシカは立ち尽くすフェルナンドにすり…と体を寄せてきた。

 薄い服の下にあるふくらみを擦り付けるようにしてリュシカはフェルナンドの腕に絡みついてきた。

「アイリーンと一緒にここにくるうちに、あなたのことを好きになってしまったんです。アイリーンは見ているだけで満足って言ってたから、ねえ?」

 リュシカは伸びあがり、フェルナンドに口づけた。

「私ならこんなこともしてあげられるわ」

 男慣れしているのか、リュシカは恥じらった様子も見せない。

「いえ、僕はそんな」

「いいのよ、どうせ公演が終わったらよその町に行くのでしょう。その間に楽しむくらいいいじゃない。アイリーンには黙っておけば憧れのままでいられるわよ」

 近くの木箱に腰かけたリュシカはするり、と服の前を開き、広げた。

 フェルナンドは一瞬手を伸ばしかけたがくるりと背を向けた。

「ちょっと、何よ!女がここまで誘ってあげてるのに!」

 リュシカの目が吊り上がる。

「少し遊ぶだけでしょ!」

 フェルナンドの背に追いすがろうとしたが、どこから現れたのか、仮面の男にリュシカは阻まれてしまった。

「困りますねえ、お客さん。あのお嬢さんの友人というからお通ししたのに」

「何よ! 別に問題ないでしょ!」

「あの心優しいお嬢さんを裏切っちゃいけません」

 冷たい声にリュシカはギョッとしたように動きを止めた。

「アイリーンは気持ちを打ち明けるつもりはないって言ったのよ! だったら私がもらってもいいじゃない!」

「こいつはモノ…うーん…モノではあるんですが、あなたの思い通りにしていいモンじゃないんですよねえ…」

「何をわけのわからないことを言ってるのよ」

「とにかくこのことは秘密にしますから、お引き取り下さい」

 駆けつけてきた女性らになだめられるようにしてリュシカは服をもとに戻し、追い出されるように倉庫を出て行った。

「やれやれ、最近の人は積極的なんですねえ」

 困ったように仮面の男はつぶやいた。


人のものだと横取りしたくなる人、いますよね。

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