第十六話の6 バラシ
「王様は…」
「あなたのおかげで助かりましたよ」
ヨルはテントの裏にひっそり運ばれていた。
「無茶をしたんですね」
仮面の男の言葉にヨルは震える手で首の袋をさわった。
中を見なくても石が粉々に砕けているのはわかった。
「人ひとりの命をつなぎとめるほどの力を使っちゃったからね。仕方ないさ」
「見ず知らずの人間でしょう。どうしてそこまで」
「あんなに慕われてる人を失うわけにはいかないでしょう。この国のために」
ヨルの呼吸が浅くなっていく。
「後悔しちゃいないよ。アタイはいつだってアタイのしたいようにする」
弱弱しい呼吸の中、ヨルは笑ってみせた。
「…ボクイ共和国のヨストル聖女」
「…」
「髪の毛の色が変わっていて日焼けしていたからすぐには気づけませんでしたよ」
「いままで気づいた人は、いなかったのに」
「国を守る結界をヨストル聖女がずっと張り続けていてくれたにも関わらず、その価値に気づけなかったぼんくら王子が平民の女にうつつを抜かして冤罪をかぶせ聖女を追放。聖女はそのまま行方知れずだとか」
「10年近く前のこと…なんて…よく…覚えてたもんだね」
ヨルは目を軽く見開き、鼻で笑った。
「ボクイ共和国は結界が消滅、聖女にかまけてろくに対策もしてなかったため、魔族に蹂躙されてそのまま滅びたそうです。ただし」
仮面の男は記憶を探るかのように上を見上げ、「聖女が追放されて異常を察した国民は早くに逃げ出していてほとんど無事だったそうです」
ヨルはほっと息をついた。
「…そうかい。よかったよ…。王族はどうでもよかった。が、…私を頼ってくれていたみんなのことだけは…、どこにいても、何をしていても気がかりだった…」
ヨルはあちこちで人を救う旅をしてみたくて国を出たのだ、と、とぎれとぎれに告げた。
そうしている間にもヨルの顔色は土気色に近くなりつつあった。
仮面の男は少し考えこんでいたが、
「…私と契約しますか」
「?」
「少なくとも今ここで命を終えることにはならない」
「あんた一体…」
ヨルは仮面の男をじっと見たが、やがて自嘲するように笑った。
「アタイは自由に生きる方があってんだ…」
「そうですか」
「また…どこかで出会ったら声をかけてよ」
「そうします」
仮面の男が握りしめていた手がするりと落ちた。
満足そうな笑みをたたえたまま、ヨルは動かなくなった。
「また、どこかで」




