第十六話の4 アンコール
二人の男女が入ってきた。
質素ではあるが上品な服を身にまとっていた。
ひとつしかないイスをお互いに譲り合い、最終的に女性が座り、男性はその後ろに立った。
それを口出しするでもなく、ヨルは見ていた。
「相談したいのは息子のことでございます」
女性が言った。
「ひと月前に馬車の暴走に巻き込まれ、馬に蹴られかけた子を助けた時に自分が蹴られてしまい、歩けなくなりました。医者の見立てではもう二度と歩けることはないと」
「こちらの団長様からヨル様のお話を伺いまして。何とか治療できる医者、効果のある薬のありかでも見いだせないものかと」
男性が続ける。
そうして懐から袋を取り出した。
「ここに金貨があります。この国で両替していただければ1万ギル程度にはなるかと思います。どうか、どうか」
「ぶしつけとは思いますが先ほどの貴族の方とのお話が聞こえてまいりまして。何かしら要望をかなえる薬がありましたら」
二人そろって頭をさげた。
ヨルはふう、と息をつくと袖から小箱を取り出した。
それは先ほど貴族の男に20万ギルで売りつけたものと同じだった。
「10ギルでいい」
男女が目を見開く。
「そんなわけには…」
「薬の値段はアタイが決める」
ヨルは立ち上がり、箱を女性の手に押し付けた。
「いいかいよくお聞き。この薬は一瓶を全部一度に飲ませるんだ。そうしてぐっすり寝る。わかったね」
「は、はい…」
「一度に全部飲み干して、寝るでよろしいのでございますね」
「ああ、アタイにそんな言葉づかいは無用だよ。あんたらだって隣の国のお貴族サマだろ」
「え、どうしてそれを」
「わかるんだよそういうのはね。礼を尽くす人には礼を返す。それがアタイの主義なのさ。さあ、さっさと帰って息子さんに飲ませておやり。効果が出たなら誰かにでも言づけて10ギル支払っておくれ」
二人が何度も頭を下げるのへ、いい、いいと手を振りながらヨルは部屋の区切りになっている幕を閉めた。
もう列に並んでいる人間はいない。
「ひやー、今日もお疲れ様でしたねえ」
もみ手で仮面の男が現れた。
「儲かるとなったらこれだよ」
口調とは裏腹にケラケラと笑いながらヨルは、儲けの2割程度になる金を渡した。
「あの薬、きくんですか」
「さあね」
そういってヨルは振り返った。
「貴族の男に渡したのはインチキ、あの男女に渡したのは一応本物だよ。なんでも治せる秘薬だ。ひと月に一本程度なら、石の力で作れる」
「それじゃあ値段が」
「アタイが決めるからいいんだ」
ヨルは金の入った袋をカバンにしまい込み、「じゃまた明日の夜にね」と帰っていった。
「私完全にわき役ですねえ」
仮面の男の残念そうなため息を聞いたものはいなかった。




