第十六話の3 ソワレ
その貴族はうわさを聞いてか、割り込むことはしなかったものの使用人を列に並ばせ、自分の番がきたと知るや「どけどけ」と観客を蹴散らしながらドスドスとやってきた。
テーブルをはさんでヨルと向かい合うようにしてどっかと座った。
「なんだこの固い椅子は。もっとマシなものはないのか」
「ごめんね貴族さん。ショーの一角を貸してもらってるもんでさ」
気にした風もなくヨルは言った。
「なるほど、もっと富と権力を手にしたくて相談にきたんだね」
「…わかるのか!」
貴族の男は驚いたように目を見開いた。
「アタイの力でお見通しだよ。話は早いほうがいいからね。ではアタイたち一族に伝わる秘薬を分けてあげるよ」
ヨルは服の袖から小さな箱を取り出した。掌に乗るサイズのその黒い箱は、角度によってはきらめいていた。
ゆっくりとヨルが箱をあけると、少量の煙とともに、中に収められた薬瓶が見えた。
赤い色の液体が入っているようだ。
「これを毎晩一滴ずつ飲みな。いいかい、必ず一滴ずつだ。それ以上飲むと劇薬になる」
男がごくりとつばを飲みこむ。
手を伸ばそうとするのを制してヨルはサッとふたを閉じた。
「買うなら20万ギルね」
「おい…! それだけの金を出す効果は本当にあるんだろうな!?」
「信じなければそれでいいよ。じゃ、次の人を」
「待て待て待て!」
男は慌てたように手をふり、執事に何かを告げた。
執事が早足で外に出て、すぐに戻ってきた。
トレイの上に袋が乗っている。
「10万ギルある。残りは用意がないからしばらくして効果を確かめてから支払おう」
「いいよそれで」
あっさりヨルはうなずき、袋を受け取った。
中を確認してニヤリとしたあと、「注意事項としては毎晩一滴を必ず守ること。そして」
人差し指を男の鼻に突きつける。
「この薬はうそを嫌う。誠実に生きることだね」
「フン、それくらい簡単なことだ」
ヨルから小箱を受け取り、鼻息荒く男は出て行った。
「ごめん待たせたねー! 次の人―」
今までのやり取りなどすっかり忘れたかのように、明るくヨルは声を張り上げた。




