第十五話の2 おばちゃんと息子
「そもそもどういうことなんです?」
木の椅子に座り、出された茶をすすりながら仮面の男は聞いた。
「僕が話すよ」
ジャンが手を挙げてみせた。
ジャンはこの町のギルドで雑用をこなす孤児であった。
その身分からあからさまに馬鹿にした態度をとる人間もいたが、ジャンは一生懸命に働いていた。
今日もギルドからこの女性──エレーヌが隣町で兵士として働いている息子クロードにあてて出した手紙を預かり、隣町にいったのだという。
ところが。
「その、兵士になってたはずのクロードが酒場の裏でタチの悪い仲間とともにいたんだ」
「ほう」
「たまたま酒場にもっていく荷物も預かっていてね、重いからそちらを先に片付けようと立ち寄ったら、クロードたちがいた」
クロードはごろつきどもに囲まれて脅されているようであった。
「いつになったら金を返すんだ!」
「この半年、1銅貨たりとも支払ってないぞ」
「奴隷として売り飛ばしてやるから覚悟しろ」
それだけは…!と地面に頭をこすりつけて謝っているクロードは、やがてハッと顔をあげた。
「うちの家! ババアがたんまり金をため込んでいるはずだからそれで支払う!」
「はあ?」
「父親が軍人で戦死したから、その報奨金?とかいうのがあんだよ! それに遺族年金ももらってるからため込んでるはずだ」
「へえ、そんなにあるのか」
ごろつきの一人が初めて興味を示したようだった。
クロードはこれ以上暴力が振るわれないよう、必死にまくし立てていた。
それを聞いたジャンはその足でこの街に駆け戻ってきたのであった。
「うちのクロードはね、月に一度うちに戻ってきては、兵士の仕事を報告してくれるんだよ。ちゃんと制服もきてるし、そりゃ給与は少ないからうちに仕送りする金はないというけどね、あたしゃそんなことは気にしなくていいといつも言ってるんだ」
エレーヌがジャンを睨みつける。
「働いているところを見たことは?」
「兵士だからね、身内がいっても機密情報があるからとかいって会えないと言ってたね。無駄足になるのも困るし、クロードがたびたび顔を見せてくれるから信用してるよ」
「うーん…」
仮面の男は頭を振りながらどうしたものか考えこんでいるようであった。
「ジャンさん、クロードさんがここにやってくるのはいつか聞きましたか?」
「一日も待てないから今夜来るって言ってた」
「んじゃあこうしましょう」
仮面の男はエレーヌのほうを見て「今夜私とジャンさんは外で待っていることにします。息子さんがこなければそれでよし、きたら…その時に考えましょう」
「あんた、いいのかい。いきなり引っ張ってきちまったのに」
「ショーは明日からの予定ですから問題ないですよ」
「ところで」
ジャンが言った。
「あんた誰」
仮面の男は盛大にイスから転げ落ちた。




