第十五話の1 おばちゃんと少年
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ。
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「だ―かーらー、本当に見たんだよ!」
「嘘をつくんじゃないよ!配達を忘れたからそんないい加減なことを言ってるんだろう!」
「急いで知らせないとと思って戻ってきたんだよ!配達はこれからもう一度いってくるって!」
言い争う声が聞こえてきて、仮面の男は足を止めた。
雑貨屋で必要なものを仕入れた木箱を抱えてテントへ戻る途中であった。
見れば通りに面した家の前で、そこの家人とおぼしき女性と、みすぼらしいボロボロの服をまとった少年が言い争いをしている。
通りかかる人はちらちらと見るが関わらない方がいいと判断したのか、足早に通り過ぎていく。
仮面の男は木箱を地面に置き、興味深そうに眺めた。
「ちょっとそこの人!」
仮面の男の視線に気づいた女性がどかどかと足早に近づいてきた。
質素な服にエプロンをつけている。どうやら家事の途中であったようだ。
「こっちきて!」
女性は強引に仮面の男を引きずってくると、フン!と鼻息を荒くした。
「この人に判断してもらおうじゃないか!」
「いいぜ! 僕は嘘なんていってないからな」
「…なんの話です?」
はて、と仮面の男は首を傾げた。
「この子が、私の息子を泥棒呼ばわりしてるんだよ!」
「呼ばわりじゃなくて本当にやってるからこうして知らせに」
「おだまり!」
「さっきからおばさんはそうやって話を聞く気がないじゃないか!」
「あんたが嘘ばかり言うからだよ!」
言い争いがヒートアップしてくるのを見て仮面の男はきょろきょろと二人を見比べていた。
やがて何かを思いついたようにパン、と手をうち、道に転がっていた桶を拾い上げると近くの井戸から水を汲んできて、二人に向けて思い切りよく中身をぶちまけた。
「「何すんだ!」」
二人の声が重なった。
「いえ、話が進まないので頭を冷やしてもらおうかと」
全身から水を滴らせ二人はしばし沈黙した。
「ええいもう、着替えるからあんたら二人うちに入りな。ジャン、お前にも息子の着替えくらい貸してやるから」
「だいたいおばさんが僕の話を普通に聞いてれば…」
「うるさいね!」
完全に蚊帳の外であるにも関わらず、こうして仮面の男はジャンとともに、その家へ引きずり込まれたのであった。




