第十四話の2 愛
城にて。
大きな木箱が車輪のついた台に乗せられ静かに運ばれていた。
大きな扉の前に到着すると、立っていた兵士らが背をただした。
アッバスはよい、という風に手を挙げると木箱を開けるように命じた。
椅子に座った人形が中から姿を現した。
流れるような銀髪が腰のあたりまであり、少し幼さを残した顔は笑みをたたえている。
身にまとったドレスは黄色をベースにふわりと広がって、先から靴がのぞいている。
人形だといわれなければ誰も気づかないほどの出来であった。
思わず使用人や兵士も「ほう」とため息をついたくらいである。
「では慎重に室内へ入れてほしい。整ったら私から父に声をかけよう」
アッバスが言う。
そろそろと椅子ごと人形が部屋へ入れられ、ヴァルターの眠るベッドからかなり離れた、それでいて認識はできるような位置にすえられた。
メイドがおそるおそる、といった様子で不自然なところはないか、服は乱れていないか確認し、整えていった。
仮面の男はそっと扉の横で目立たないよう立っていた。
室内にはヴァルターの手を取る妻ゾフィー、そしてルーファスとその家族がいた。
みなアッバスから事情は聞いているようで、人形が運び込まれても何も言わなかった。
「あなた、アッバスが婚約者を連れてきたのよ」
ゾフィーがゆっくりと声をかけた。
ヴァルターが目をあける。
「アッバス…」
「はい、父上」
ゆらゆらと視線がさまよい、ベッドの横に立つアッバスをようやくとらえた。
「息災であるか」
「はい。今日は父上に紹介したい者がいるのです。ようやく安心させられます」
アッバスは身を斜めにして、後ろにいる人形が見えるようにした。
「彼女はそう高い身分ではないため、このように遠くからの謁見になること、お許し下さい」
元とはいえ国王に対し、椅子に座ったままなのはどう見ても不自然であったが、そうするしかなかった。
「そうか。お前もようやく…。よかった」
弱弱しい声でヴァルターは言った。満足そうにうんうん、とうなずく。
「お嬢さん、名はなんと」
「えっ」
アッバスが慌てたような声を出した。
「あ、ええと彼女は」
「フリーデリケ・クラムです」
仮面の男が言った。
「そうそう、フリーデリケと言います。ええと…あ、クラム家は辺境の地を治める貴族のため、父上には覚えのない家名かもしれませんね」
「そうか、そうか。よい人と出会えたのだな」
ほう、と一同は胸をなでおろした。
「父上。アッバスもようやく身を固めることになりました。安心ですね」
ルーファスが声をかける。
「ああ」
ヴァルターが起き上がりたそうにする。ゾフィーがその背を支え、ヴァルターはゆっくりと上体を起こした。
「フリーデリケ、アッバスとともに近づいて、その顔をよく見せておくれ」
「は?」
アッバスが素っ頓狂な声をあげた。
おろおろと人形、ヴァルターを見る。
「良い。家族になるのだ。身分差など気にせずとも、どうかここへ」
壁にもたれていた仮面の男が「これはいけない」と言いながら懐に手を入れた時であった。




