第十四話の1 願い
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ。
いつもは脇役、人形のお通りだ
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「あの荷馬車の窓辺に座っている人形をお貸し願えないだろうか」
その日のショーが終わって団員とともに片づけをしていた仮面の男のところへ、受付の女性に促されて身なりのいい青年がやってきた。後ろに護衛と思しき人間を数人従えている。
「はあ、あれをですか」
ちら、と仮面の男が見る。
荷馬車の窓から見える位置に座っている、銀髪の美しい顔をした少女の人形であった。
「私はこの国の第二王子で名をアッバス・サヴォイアと言う。ショーに必要なものであることはわかっている。だがほんの数時間ほどで良いのだ。どうかお貸し願えないだろうか」
仮面の男はアッバスと護衛を荷馬車へ案内した。
梯子がかけられ、まず仮面の男がひょいひょいとあがり、護衛が一人あがり、中を確認してからアッバスがあがってきた。
荷馬車の中はほとんど何もなく、窓辺に人形が椅子に座らせてあるだけであった。
「ショーのためにここにあったものは出しておりましてね、こうして広いんですよ」
「そうか」
アッバスは緊張したように、すすめられた椅子に座った。
「それで、なぜこの人形を」
「実は」
アッバスによると父である元国王ヴァルターがもう余命いくばくもない状態にあるのだという。
第一王子であり、すでに父から王位を受け継ぎ現国王でもあるルーファスはすでに結婚しており孫もヴァルターに見せているが、自分は長く婚約状態にあった相手が急な病でこの世を去ってしまい、傷心のまま次の相手を探せないでいるうちに、父が病に伏した。
余命僅かであることを悟った父はアッバスのことを案じ、アッバスも早くなんとかせねばと焦るがそう簡単に合う相手もおらず、王子という立場を考えれば簡単に決めるわけにもいかない。
せめて黄泉の国へ赴く父を安心させてやりたいという思いから、婚約者として人形を引き合わせたいと願ったのであった。
「父をだますことは気がひける。だが、最後に何とか安心して送り出してやりたいのだ。私が向こうに行った折には、騙したことを幾重にもお詫びしようと思う」
「あのー…余計なことかもしれませんが、一時的に身代わりをしてくれるような方は」
「それも考えたのだ。だが」
一時的に、で納得するような令嬢がいるわけもなく、本物の婚約者の立場を要求したり、はては既成事実を作ってまで立場を確保しようとする者ばかりでアッバスも困り果てていたのだという。
「なあるほど。いやいや、余計な質問をしました」
ぬるくなった紅茶をずずーっとすすって仮面の男は、「承知いたしました」と言った。
「お急ぎでしたら明日にでも?」
「ああ、そうしていただけると助かる。もしよろしければ団長殿も付き添い願えないだろうか」
「私がですか」
「重々言い聞かせておくが、使用人が人形に何か不躾なことをするかもしれない。そのようなことがないよう、どうかお立合い願えないだろうか。謝礼ははずもう」
「かしこまりました」
仮面の男は立ち上がり、うやうやしく頭を下げた。
アッバスは砂の刻に迎えをよこすと告げ、荷馬車を降りていった。




