第十二話の5 雷鳴
「呪いをかけたのが母親だけかと思ったのか。馬鹿め」
ソニールが立っていた。
「お前がワシの命を狙っていることはわかっておった。だからヨナスを監視につけ、魔女の呪いをかけておいたのだ」
「ヨナス、トゥリオの恩を忘れたのですか!」
「なに、領主様の味方をすれば金がたんまりもらえるんで。それに」
ヨナスはにやにやしながらシルヴァの腕をつかんだ。
「あんたもソニール様が味わった後俺に下げ渡してくれるといわれたもんで」
「やめてください!」
腕を振り払おうとしたがヨナスの強い力の前にシルヴァはどうすることもできなかった。
「これはどういうことですか!」
クリスらが駆け込んできた。
ところがごう、と暴風が吹き部屋の外へ吹き飛ばされた。
扉が閉まり、ガシャンと音がした。
鍵がかかったのだ。
ドン、ドン、と扉をたたく音がする。
「これは、私の落ち度です」
ぽつりと仮面の男が言った。
「母を守るという契約だけを受けていた私の落ち度。よく考えればよかった」
懐から横笛を取り出した。
そして口をつけようとした時だった。
轟音とともに雷が仮面の男に落ちた。
仮面が音を立てて絨毯に転がった。
男はヨロヨロと体勢を崩す。
その場にいた人間全員が反射的に男を見た。
「ヒィッ!」
「ば、化け物!」
恐怖におののく声がその口から洩れた。
母やシルヴァも例外ではなかった。
男は無言で仮面を拾い上げ、顔につけると「怒りはごもっとも。しかし何としても受け入れていただきたく」とつぶやき、横笛を吹き始めた。
ソニールとヨナスがボンッと破裂音をたてて消えた。
手をつかまれていたシルヴァは突然のことに呆然とする。
「……私は……?」
トゥリオが起き上がった。
「トゥリオ! トゥリオ!」
抱きついてくる母とシルヴァの姿にきょろきょろとしながらも「ソニールは!?」と慌てたように尋ねる。
「消えてしまいましたよ」
涙にまみれた顔で母はそういった。
「約束は守りました。…私はこれで」
立ち去ろうとするその後ろ姿に母が急いで声をかけた。
「この御恩は忘れません! そして」
仮面の男が立ち止まり振り返った。
「この国の恩人に先ほど心無い言葉を投げかけたことをお詫びします」
深々と頭を下げた。
「いえ。慣れていますから」
こともなげに仮面の男はそういった。
そして部屋の隅で座り込んでいた女性のうち、団員を立たせるとともに扉をあけて出て行った。
代わりにクリスらがなだれ込んできた。
「母上、これは」
「後で説明します」
母はそこに居合わせた者に今日の出来事は決して口外せぬようにと厳命した。
領主の突然の交代に民は懐疑的ではあったが、トゥリオがあちこちを回って顔を見せると少しずつ落ち着きを取り戻した。
そしてトゥリオから国へ改めてユスタンの紋章についてのことが上奏され、丁重にもてなすようにとの周知がなされたという。
特にトゥリオの母は生前何度も、トゥリオやシルヴァに自分の非礼と仮面の男への恩義を、その生まれた子にも命尽きるまで伝え続けたのであった。




