第三話の1 ちびっ子達の訪問
ギィ、ギィ
見世物小屋が始まるよ。
喝采、喝采
仮面の男が二つの影に気づいたのは昼からの上演に備えて会場内を見回っている時であった。
まだ入場前で無人になっている受付の、入場防止に張られたロープを小さな手でつかみながら、背伸びしてみたりしゃがんでみたりと、小さな影がひょこひょこしていた。
「おんやあ、どうされました」
仮面の男はひょうひょうと声をかけた。
小さな影の片方が目を丸くする。
「あのね、僕達ショーを見たいんだ。だけどチケット持ってないの」
「だからちょっとでもここから中が見えないかなと思ったの」
怒られると思ったのだろうか、まだ幼さを残す男の子ふたりはちょっとおびえたようにそう答えた。
年は上が10歳、下が7歳くらいのようであった。
「あのね、お父さんは出稼ぎにいってていないの。お母さんは病気で家にいるから、お金がないのよ」
小さいほうの男の子がそう答えた。
「あの…弟だけでも見せてあげたいの。これでこの子の分でも買えませんか」
兄が広げた手のひらに載っているのは3枚の銅貨。チケットの価格には1割にも及ばない額であった。
「うーん…」
仮面の男が考え込んでいると、足りないと気付いたのだろう、兄は必死にポシェットをごそごそとやって、「これ、売ります」といった。
小さな、ブリキの人形だった。
たくさん遊んだのだろう。あちこちがぼこぼこになり、汚れて傷だらけだった。
「お父さんが、お土産で買ってきてくれたの。結構高かったって言ってたから」
「おや、おや」
考えるまでもなく、もうその高かった価値が失われているのは明らかだった。
しかも売るならばここで出しても意味がない。
しかし仮面の男はうやうやしくそれを手に取ると言った。
「これは、これは。なんと素晴らしい人形でしょう。お宝ですねえ」
「じゃあ」
「ああ、ちょっと待ってくださいね」
それを丁寧に服のポケットへしまいこんだ仮面の男は、きょろきょろと見まわして、木箱をもっていた男を手招きした。
すぐにその男が木箱を置いてやってきた。
何かこそこそと耳打ちしていたが、手をパンと叩いて仮面の男は言った。
「ぼっちゃんたち、少しだけお手伝いしていただければ、二人にショーを見せてあげられますがどうなさいます?」
二人の目がキラキラと輝いた。
「いいの!?」
「かまいませんとも。ただし」
仮面の男は二人の前にしゃがみ、人差し指を立てた。
「お手伝いの内容は言っちゃいけません。お父さんにもお母さんにも、ショーの内容は話して良いが、お手伝いで見聞きしたことは絶対に言わないで」
「約束します!」
下の子が声を張り上げた。少し遅れて兄もこくん、とうなずいた。
「重畳」
男に連れられて男の子ふたりは歩いていった。