第十二話の4 邪悪
領主の館について衛兵が門兵に取次ぎをすると、屋敷の中から数人の身なりの良い兵士が出てきた。
赤いマントをなびかせ、そろいの軍服を身にまとい帯剣している。
その兵士らは、女性二人とへこへこする仮面の男を中に入れ、衛兵らを帰らせた。
廊下を歩いていく間、一人がクリスと名乗り仮面の男に「トゥリオ様から聞いております。我々は味方ですのでご安心ください。まもなくトゥリオ様もいらっしゃいます」と耳打ちした。
仮面の男は無言でうなずいた。
大きな部屋に通された。
三人が豪華なしつらえのソファに腰を下ろすかおろさないかのうちにドヤドヤと外で人の気配がした。
ドアを勢いよくあけて入ってきたのがおそらくはソニールであろう。
「おやおやこれは上玉だな! ん? お前は誰だ」
「ああ、私は旅一座の──」
「お前はいらん。つまみ出せ。なぜこんな男を連れてきた」
「お待ちください父上」
トゥリオが荒々しく扉をあけて入ってきた。
その後ろにシルヴァとヨナスもいる。
トゥリオはさっと女性二人を後ろにかばい、仮面の男の横に立った。
「これ以上の狼藉は見過ごせません。どうか今日、領主の座を退き罪を償っていただきたいと思います」
すらりと剣を抜いた。
「お前は何を言っておるのだ。それでワシを殺めるつもりか。やってみるが良い。ワシは死なぬぞ」
「お願いします!」
それは仮面の男に向けられたものであった。
仮面の男はうなずき、ふところに手を差し入れた。
「ソニール様、こちらでございます」
ヨナスが何かを手にもってソニールのもとへ駆け寄った。
「ヨナス、お前何を…」
「これがユスタンの紋章が入った木札か! よくやった!」
ソニールはヨナスから受け取った木札を掲げた。
「おや」
仮面の男が懐から出した木札はよくよく見れば偽物であった。
「なるほど、すり替えられましたね。およそあの男は偽物を作り出す魔法でも使うのでしょう」
「ヨナス、お前…!」
ヨナスはソニールの隣でニヤニヤと笑った。
「さあユスタンの者よ、我に味方するがいい!」
高く掲げた木札は、しかし何の変化もなかった。
「ああ、いいですよ。そのままかかげておいて下さい」
仮面の男は女性らの前に進み出、何かをつぶやいた。
たちまち木札から光輝く玉が現れた。
玉はすいとトゥリオの横に移動し、大きくなった。
そこから一人の女性が現れた。
「母上!」
幽閉されていたトゥリオの母であった。
親子はひっしと抱き合った。
「紋章はね、誰が持っているか、ではないのです」
仮面の男は言った。その手には本物の木札が握られていた。
「誰が所有者であるか、なのですよ」
トゥリオが走った。
あっけにとられているソニールの胸に深々と剣を突き立てた。
そして振り返る。
母の体には傷一つついていなかった。
ほう、とトゥリオは胸をなでおろした。
それと同時にゴホ…とせき込んだ。
口からどっと大量の血があふれた。
服にもみるみるうちに赤い色が広がっていく。
トゥリオはそのまま倒れこんだ。
「トゥリオ!」
シルヴァと母が駆け寄った。
しかし倒れこんだトゥリオは土気色をしており、誰の目にももうこと切れているのがわかった。




