第十二話の1 訪問
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ。
お代は見てのお帰り
事態は二転三転、おやおや大変
喝采、喝采
「馬に乗った数人がこちらへやってくるようです」
荷馬車の屋根に寝転んで夜空を眺めていた仮面の男は身を起こした。
馬車の下にいた兵士らにうなずいてみせる。
木札を掲げるとその兵士らも消えた。
荷馬車はぽつんと一台のみが、夜道にたたずんでいるだけであった。
「もし、夜分に失礼する。ユスタンの紋章を持った旅のお方だろうか」
馬に乗りマントを深くかぶった先頭の男が声をかけてきた。
明かりをともし自らの顔がわかるようにてらす男は、この道をしばらくいったところにある街の領主であるソニール・デ・カルーゾの息子、トゥリオだと名乗った。
「はあ、いかにもそうですが。こんな夜更けに何の御用で」
「内密の話があり、不躾と承知でまいった。どうか話だけでもさせてもらえないだろうか」
「ようございますよ。ええと」
仮面の男は荷馬車からひらりと降りた。
そうして後ろに手招きする。
いつの間に現れたのか、普通の馬車が後ろに据えられていた。
荷馬車と違い数段の階段が取り付けられていた簡単に上がれる高さでありながら、中は大人が10人は優に入れるほどの広さであった。
中に入ったトゥリオは見かけと中の広さの違いに目を丸くしながらも、連れてきた人間の紹介をした。
自分、そして婚約者のシルヴァ、従者のヨナス、そして護衛である騎士二人。
トゥリオらと仮面の男がテーブルにつくと、団員らしき女性が茶を運んできた。
トゥリオはその女性を見てため息をついた。
「何か問題でも?」
首を傾げたのは仮面の男だ。
トゥリオはシルヴァと顔を見合わせ、経緯を話し始めた。
領主であるソニール・デ・カルーゾは誰がどう見てもクズと判断する部類であろう男だった。
代々領主という家系のおかげでおよそ苦労も知らずに権力を手にしたソニールは、トゥリオにとっての祖父にあたる人物が逝去したあと本性を現した。
トゥリオの母でもあるリザを幽閉し、視察と称して出かけた街で若くて美しい女性を見かけると取り調べと称して屋敷に連行しかたっぱしから手をつけた。
未婚の女性はもちろん、既婚の女性まで連れていかれ、逆らった者は容赦なく暴力を振るわれ、命を落とす者もいた。抗議した家族が民衆の前で打ち据えられたこともあった。
むろんトゥリオは黙っていなかった。
子育てに関心のなかったソニールが放置していたおかげでたびたび街に繰り出してそこらの子供たちと遊び、常に平民の目線で民を見ていたトゥリオは民のために立ち上がる決心をした。ヨナスはそんな中、彼に仕えたいと申し出てきた孤児であった。
ところが。
ソニールはクズである分、自分の命が狙われる危険も承知していた。
自分の身に何かあればリズが代わりに傷つき、命を落とす呪いを魔女に依頼していたのである。
それを知ったのは15歳になったトゥリオがあるとき、懐に忍ばせた短剣でソニールの腕を切りつけた時であった。
母の部屋からメイドの叫び声が聞こえ、駆け付けてみればリザが腕から血を流し倒れていた。
慌てるトゥリオをしり目に、やってきたソニールはニヤニヤと笑うばかりであった。
それから一年、トゥリオは呪いを解きソニールを討つ方法を探し続けたが、何もできないまま月日は過ぎていった。
婚約者であるシルヴァをこうして夜分にも関わらずつれているのも、離れればソニールが手を出しかねないとの危惧からこうして離れずにいるのだという。
数日前、ユスタンの紋章を見せた旅一座が前の街を出たと知らせがあり、その紋章の意味を知っていた彼は父に知られる前にとこうしてやってきたのだった。




