第九話の3 少女が語るには
少女はマリーアと名乗った。
マリーアの話によると、彼女の母が生きていた頃は普通に仲の良い家庭だったのだという。
それが、3年前はやり病で母が急死し、家のために父親が後妻となる女と結婚してから様子がおかしくなっていったのであった。
曰く、その後妻と連れ子二人が家にやってきてから突然、使用人だけでなく父親までもが汚いものを見るかのようにマリーアをさげすみはじめ、マリーアは使用人以下の扱いを受けるようになったのだという。
今までの部屋を追い出され、屋敷の隅のぼろぼろになった物置で寝起きするようにいわれた。
それでも15歳になれば成人として働けるようになるため、残り半年何とか耐えているのだといった。
バキ、と音がした。
ルクルが木のコップを握りしめ、ヒビが入った音であった。
「団長殿、このような話があっていいものか」
「まあ…私も世界を回っておりますれば、このような話は何度か聞いたことが」
「許せん!」
ルクルは立ち上がり、ぐるぐると動き回り、何か考えているようであった。
その様子をマリーアはおろおろと見守った。
「よし!」とルクルが勢いよく手をたたいた。
あまりの音に思わずマリーアは耳をふさいだ。
「まずはこのショーを一緒に見ないかお嬢さん。それも特等席でだ」
「え…?」
「そのあとのことは俺に任せて欲しい。どうだろうか団長殿」
「かまいませんとも」
ルクルはショーの一番いい席を、と告げた。
「二人あわせて500フルでございますよ」
「わかった。…ややっ!」
財布を取り出したルクルが申し訳なさそうな顔をした。
「団長殿、金を返しに来て申し訳ないのだが、次の機会でよいだろうか。どうやら二人分のチケットがぎりぎりのようだ」
「明日以降もショーはやっていますから滞在している間ならいつでもかまいませんとも」
仮面の男は気にしたふうでもなく快諾した。
「あ、あの、私そんな、ショーは」
「若い人が遠慮するものではない」
ルクルは金を払うと、マリーアを促し団員の案内で席に向かった。
その時、何かを仮面の男に話し、紙切れを渡していた。




