第八話の1 ねこねここねこ
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ。
かわいい動物はお好きかい?
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「おやおや?」
仮面の男が素っ頓狂な声をあげた。
川べりを荷馬車で移動している時のことであった。
広く、その上流れのはやい川の真ん中あたりに小さな岩があった。
そこにかろうじてひっかかる程度に姿が見えている子猫が必死に鳴いていたのであった。
「これは大変」
仮面の男はさっと立ち上がると、ひょいっと飛んだ。
一度も地面に足をつくことなく、その岩へ飛び乗ると、手を差し伸べ子猫を拾い上げた。
子猫はずぶぬれになっており、寒さのためかぶるぶると震えていた。
仮面の男は懐に入れてやり、きた時と同じようにひょいっと飛んで荷馬車の上に戻った。
それからほどなく一行は小さな村の入り口にたどり着いた。
「やあやあすみません、食べ物を売っているお店はありますか」
平かごに野菜を載せて運んでいた女性に仮面の男が声をかけると、懐から子猫が「ニイ」と鳴いた。
「食べ物ならここをまっすぐに…って兄さん、その猫」
「知ってる猫ですか?」
「いや飼ってるわけじゃないんだけどね、ここらに住み着いてる猫でみんなにかわいがられてるのさ。どうしたね」
「たまたま川でおぼれそうになってましてね。助けたのも何かの縁てことで」
「あんたそりゃいいことをしたね。よっしゃ、任せときな」
女性はかごをそこにおろし、「おおいみんな」と声をあげた。
たちまちそこから数人の男女が集まってきた。
みな日焼けして健康そうな顔つきをしているものばかりであった。
「この旦那がね、猫を助けてくれたんだとさ」
「そりゃあよかった」
「ありがたいことだねえ」
その声に他の村人も集まってくる。
皆は仮面の男の事情を聴くとにこにこと笑顔になり、「さあさこっちへおいで」と仮面の男を手招きした。子猫も足元に降り立ち、てんてんとついてくる。
最初に声をかけられた女性が村にしてはやや大きめな食堂らしき店の扉をあけて入っていき、顔を出すと仮面の男を手招きした。
中はそこそこ食事をする者でいっぱいの状況だったが、何人かに声をかけて壁際のテーブルから人が移動するところであった。
「ここに座りなよ」
女性が手招きする。
仮面の男はどうも、どうもと挨拶しながら中へ入っていった。
子猫も続き、テーブルにすたっと乗った。
ここでは慣れていることなのか、猫がテーブルに乗っても文句を言う人間はいなかった。
「あんただね、この猫を助けてくれたってのは」
「いやあ、私はただおぼれてたのを見つけて助けただけで」
「上々!お礼をしなきゃね」
あっという間にテーブルにいくつもの食べ物が並べられた。
子猫には温かいミルクが提供された。
「大きな荷馬車できたみたいだけど向こうにも何か食べ物を届けたほうがいいかい?何人できたんだい?」
「ええと…」
仮面の男は少し考えこむようにして「はい、10人ほどですね。適当に見繕っていただければ。お世話になります。お代は払いますよ」といったが「何言ってんだい、若い人がそんなこと気にしちゃだめだよ!」と店員は豪快に笑うばかりであった。
店の中は必ずしも村人ばかりではなく、旅人も多かった。
皆物珍しそうに仮面の男のもとへきては、どこから旅をしてきたのか、ここでショーを開催する予定はあるのかなど聞いた。
仮面の男が食事を終え、話を聞きたがる一同から解放されたのは、それから一時間程度してであった。子猫はいつの間にかテーブルの上ですうすうと眠りについていた。
仮面の男は店へ丁寧にお礼をいい、食料を追加注文した。店員が固辞するのへやや強引に金を支払ってから店を出た。
「いいところですねえ」
にこにこと仮面の男は空を見上げた。




