第七話の1 王の訪問
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ。
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「この通りだ」
木箱に座っている仮面の男に一組の夫婦が頭を下げていた。
男のほうは頭に王冠を載せている。
この国の王と王妃であった。
「いやいや、そんなに頭を下げられちゃ、恐れ多いというもの」
仮面の男は困ったように手を振った。
王と王妃の後ろに控える騎士達は身じろぎもしない。
王が見世物小屋を訪れ、裏にいると案内されて、その目的の男が木箱に座ったまま立ち上がりもせず、そして王らに椅子をすすめようともせず頭を下げさせている場面において、誰一人不敬であると声をあげるものはいなかった。
「ではこれから赴く、ということで良いでしょうか」
「おお、そうしていただければわが兵士らも救われるというもの。頼みます」
王妃が胸の前で手を合わせる。
かくして仮面の男はうやうやしく導かれ、一行とともに城へ向かった。
芸人らはぽかんとしてそれを見送った。
「おやおや、これはひどい」
仮面の男が通されたのは、うめき声があふれる一室であった。
20床ものベッドが並ぶ広い部屋ではあったが、寝かされている兵士は血まみれの包帯がまかれ、四肢を失っているもの、ぐったりと意識がないもの、もう生きているか死んでいるかすら定かではないものばかりであった。
「医師の見立てではもう助からないだろうと」
王が説明をしていると、奥から足早に一人の男がやってきた。
白い服を身にまとっている。
「医者のセリウスと申します」
事情は聞かされているのかこちらも仮面の男へうやうやしく頭を下げた。
仮面の男は軽く会釈したあと部屋を見渡した。口元から笑みが消え、やや緊張したような表情がうかがえた。
「確認しておきますが、本当によろしいので?」
「はい、それぞれから聞き取りをしております。どうか少しでも早く苦しみを取り除いていただきたい」
セリウスは言った。
「承知しました。それでは皆さんは外へ。ここは私だけを残して下さい。危険ですから」
仮面の男の言葉に一同は無言で頭を下げ、看護師らも次々と退室していく。
「やりますか」
縦笛を取り出し仮面の男は吹いた。
静かな、葬送の曲であった。
うめき声が少しずつ静かになり、苦しみにのたうちまわっていたものは動かなくなり、やがて音を立てるものはなくなった。
仮面の男は笛を吹くのをやめ、ベッドに向かって深く頭を下げた。
国のために命をささげた兵士たちへの最上の礼であった。




