【3】
悩んでいるうちに、俊介の方から「迷うなら言わない方がいいよ」と引いてくれた。
「オレは律子ちゃんの異彩を聞き出すために、自分のを明かしたわけじゃないから。そこは誤解しないでね?」
「分かってる。あたしのことは……またいずれ」
「了解。気長に待ってるよ」
「もしかして、入居者全員の異彩を知ってる?」
「八割くらいかな。全員に異彩を訊いて回ったからね」
「……ホントに遠慮ってものを知らないんだね」
「オレは下のコンビニで働いてることもあって仲良しの住人が多いけど、挨拶しかしない人とか、数回しか会ったことない人もいるよ。店番は暇な時間も多いけど時給良いし、みんなと話をする時間は最高に楽しいって感じかな」
「ふーん……。異彩者が集まってるって居心地がいい?」
「個人的にはね。異彩のせいでかなり凹んだ時期もあったけど、ここに来てからは人生をエンジョイしてるよ。唯花ちゃんみたいに可愛い子もいるし」
唯花――ハルの妹。
俊介の言う〝可愛い〟をアテにしていいのか疑問はあるが、ハルに似ているなら綺麗な顔立ちだろう。
「もし唯花ちゃんがアイドルになったら、間違いなく日本一って感じだよ」
「へぇ。そこまで言うってことはホントに可愛いんだろうね」
「うんうん。実際アイドル並みに遠い存在って感じだけどね」
俊介は数年前、唯花を食事に誘ったことがあるという。イタリアンやデザートなど何度か声を掛けたが、どれも了承してもらえなかったため諦めたそうだ。
「唯花ちゃん、ハルを溺愛してるんだよね。いわゆるブラコンってやつ。オレの入る隙間ナシって感じだったし、そもそも彼氏を作る気ナシって感じに見えるんだよね」
「……俊介は管理人さんの異彩が何か知ってる?」
「いや、分かんない。唯花ちゃんの異彩は遅かれ早かれみんな知ることになるだろうけど、ハルの異彩を知ってる住人は少ない……いや、誰もいない可能性もあるな」
「管理人さんが今まで誰にも教えてないとしたら、ちょっとずるくない? あの人は住人の異彩を知り尽くしてるのに」
「それが、ノブおじさんに他言を止められてるっぽいよ?」
「ノブおじさん……管理人さんの叔父だよね? ボサボサ頭で白衣姿の」
「そう、ノブおじさんはいっつもそのスタイル。ハルは自分の異彩を見破る名探偵の出現を待ってるかもね」
全住人に異彩を訊き回ったという俊介は御多分に漏れず、ハルにも質問していた。しかし教えてもらうことはできず、あたしと同じように「当ててみてください」と返されたそうだ。ヒントがほしいと頼んだところ、「僕の異彩は住人の皆さまと毛色が違う」と言われたらしい。
「管理人さんの言動で引っ掛かったこととか、不自然に思ったことはないの?」
「コンビニの仕事で言えば、掃除と時間とお金に細かい。口うるさい姑タイプって感じだよ」
「俊介が適当すぎるだけじゃなくて?」
「オレは大らかなだけだよ」
人の心を読む力、氷のように冷たい息、あたしのオッドアイ――〝これらの異彩と毛色が違う〟と言うなら、逆に〝これらの異彩には共通点がある〟と考えてもいいだろう。
異彩が生じている箇所・身体のパーツはバラバラだ。ただの身体的特徴もあれば、能力として使用できるものもある。共通点と言えそうなのは〝どれも隠すことができる〟くらいだろうか。
しかしハルは「住人に異彩を言い当てられたことはない」と言っていた。それはつまり、自分で隠すことができる――もしくは傍目に見て分からない異彩だろう。他と毛色が違うとは言えない気がする。
俊介がファミリアに入居したのは約五年前。ハルとは週に三日ほど顔を合わせているが、未だに異彩らしき部分が見えたことはないらしい。五年の付き合いがあっても気付かないとなると、意識的に探らなければ分からないだろう。
ハルと接する際は、言動に引っ掛かる点がないか注視してみるか。