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第9章 魔乳王の使命

 俺はミルフィーユさんの指導のもと、「中道の館」の地下にある、なんかやたらとスピリチュアルな雰囲気が漂う修行部屋で、汗だくになりながら「魔乳合体」の特訓に励んでいた。

 

 壁には、歴代の魔乳王(っても初代しかいねぇけど)が残したとされる、おっぱいをモチーフにしたありがたいんだかありがたくないんだかよく分からん壁画がズラリ。


 うん、落ち着かねぇ。


「はぁ……はぁ……ぜぇ……。も、もう一度お願いします、ミルフィーユ師匠!」


 俺は床に手をつき、肩で息をしながら懇願する。

 目の前には、修行に付き合ってくれている館の住人の心優しきお姉さんが、ちょっと困ったような、でも温かい眼差しで俺を見守ってくれている。


「マサル様、あまりご無理をなさらないでくださいまし。魔乳合体は、乳力だけでなく、精神力も大きく消耗いたしますのよ」

「いや、でも、時間がねぇんだ!  ティタニアもコレットも、今頃一人で戦ってんだろ?  俺だけこんなところでチンタラしてるわけには……うぉっ!」


 気合を入れ直そうと立ち上がった瞬間、足がもつれて思いっきりスッ転んだ。

 いてぇ……。


「あらあら、マサル様」

 

 ミルフィーユさんが、呆れたような、それでいてどこか楽しそうな顔で近づいてくる。


「焦りは禁物ですわ。魔乳合体は、力任せに行うものではございません。相手の乳と……いえ、心と、深く繋がることが最も重要なのです」

「心と繋がる……か」


 俺は、さっきまで合体訓練をしていたお姉さんの顔を改めて見る。

 彼女の瞳の奥には、乳のことで苦しむ人々への深い共感が渦巻いているのが、なんとなく……いや、ハッキリと感じ取れた。

 これが、ミルフィーユさんの言う「心と繋がる」ってことなのか?


「初代魔乳王も、最初から完璧な魔乳合体ができたわけではございません。彼もまた、数え切れないほどの失敗と、そして……数え切れないほどの乳との出会いを通して、その力を開花させていったのです」


 ミルフィーユさんが、壁画の一枚を指差す。

 そこには、初代魔乳王マサル(俺とタメ張るイケメン)が、様々な姿形の乳を持つ人々と手を取り合っている様子が描かれていた。その表情は、どれも慈愛に満ちていて、見ているこっちまで温かい気持ちになってくる。


「なんで俺なんだろうな……」


 俺は、思わず本音を漏らした。


「日本じゃ、ただの無職で、おっぱいが好きすぎる変態ニートだったんだぜ?  そんな俺が、なんでこんな世界の命運を左右するみてぇな力を持っちまったんだか……」

 

 ミルフィーユさんが、悪戯っぽく微笑む。


「その『おっぱいが好きすぎる』という一点において、あなたは誰よりも魔乳王の資質をお持ちですわ」

「それ、褒めてんのか?」

「もちろん、褒め言葉です。あなたのその『おっぱいの価値に貴賎なし』という信念。それは、この乳階級社会に囚われたミルニアの人々にとっては、まさに革命的な思想。そして、初代魔乳王が目指した理想郷そのものなのですから」


 俺は、自分の胸に手を当てる。

 確かに、俺はこの信念だけは、誰にも負ける気がしねぇ。


 巨乳も貧乳も普乳も、みんな違ってみんないい。

 大きさや形じゃなくて、その乳が刻んできた物語、その乳に宿る魂こそが尊いんだ。


 ……って、なんか俺、自分で言っててちょっとキモいな。


「マサル様」


 ミルフィーユさんの声が、俺を現実(?)に引き戻す。


「あなたがお持ちの魔乳合体の力は、単に相手の能力を借り受けるだけのものではありません。それは、相手の痛みを知り、喜びを分かち合い、そして……絶望に差し込む一筋の光となる力。それこそが、魔乳王の真の使命なのですわ」


 その言葉は、まるで熱い鉄を打ち込まれたみたいに、俺の魂のど真ん中に突き刺さった。

 

 そうだ。

 俺は、強くなりたいんじゃない。

 

 ティタニアやコレットを助けたい。

 この世界の歪んだ常識をぶっ壊したい。


 そして、全ての乳が……いや、全ての人が、自分らしく輝ける世界を作りたいんだ。


「……よし」


 俺は、お姉さんに向き直り、深々と頭を下げた。


「もう一度、お願いします!  今度は……あなたの心に、もっと近づけるように」


 お姉さんは、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んで頷いてくれた。


 俺は、再び彼女の肩に手を置く。

 目を閉じ、意識を集中させる。

 

 今度は、力や技じゃない。

 

 ただひたすらに、彼女の心を感じようと努めた。

 彼女がこれまで生きてきた証、その胸に秘めた想い、その全てを……。


 するとどうだろう。

 今までとは比べ物にならないくらい、穏やかで、それでいて力強い金色の光が、俺と彼女を包み込んだ。


 それはまるで、温かい陽だまりの中にいるような、心地よい感覚。


 合体が解けた時、俺はなぜか涙を流していた。

 でも、それは悲しい涙じゃない。

 温かくて、どこか懐かしい涙だった。


「……すごい」


 俺は、感動で声を震わせた。


「彼女の人生、その全てが、まるで自分のことのように感じられた。乳のことで差別された痛み、それでも誰かを信じようとする強さ、そして……愛する人を想う温かい気持ち……」


 ミルフィーユさんが、満足そうに頷いている。

 

「おめでとうございます、マサル様。それが、魔乳合体の第一歩……いえ、真髄への扉を開かれた瞬間ですわ」


 部屋の隅で、固唾をのんで見守っていた館の住人たちから、わっと歓声が上がった。

 彼らの目には、さっきまでの不安の色はもうない。

 代わりに、確かな希望の光が灯っていた。


「魔乳王様……!」


 一人の幼い少女が、おずおずと俺の前に進み出てくる。

 その手には、拙い絵が握られていた。

 描かれているのは、太陽の下で、大きな胸の人も小さな胸の人も、みんな笑顔で手を取り合っている絵。


「私の父は、爆乳派の兵士でした。母は、貧乳派の村の出身です。二人は愛し合っていましたが……教会に引き裂かれ、今はどこにいるかも分かりません。魔乳王様……どうか、父と母が、また笑って暮らせる世界を作ってください……!」


 少女の小さな手から、俺はその絵を受け取った。

 その瞬間、俺の中で、何かがカチリと音を立てて繋がった気がした。


 そうだ。これが、俺の使命なんだ。


 この小さな少女の涙を笑顔に変えること。

 そして、この世界の歪んだ常識を、俺のこの手で、ぶっ壊してやることなんだ!


 窓から差し込む夕陽が、俺の姿を、そして壁に描かれた初代魔乳王の肖像画を、まるで祝福するかのように赤く染め上げていた。

 俺の中で、何かが確かに、そして力強く変わり始めていた。


 魔乳王としての、本当の戦いが、今、幕を開けようとしていた。

 

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