第6章 聖乳騎士と貧乳忍者の対決
「中道の館」での魔乳合体の修行は、まあ、なんというか、エロいとかそういう次元を軽くブッちぎって、精神的にクルものがあった。
相手の人生追体験コースみたいなもんだからな。
おかげで俺のSAN値はゴリゴリ削られていくが、その甲斐あってか、合体の精度は少しずつ上がってきている……気がする。
プラシーボ効果かもしれんけど。
そんなある日の午後。
俺がいつものように、館の住人であるEカップのお姉さん(元お嬢様で、乳がデカすぎて婚約破棄された悲しい過去の持ち主)と魂のランデブー……いや、真面目な合体訓練に励んでいると、外から何やら騒がしい物音が聞こえてきた。
「なんだ? また追手か?」
訓練を中断し、ミルフィーユさんと一緒に警戒しながら館の外に出る。
そこには――。
「魔乳王様! ご無事のお姿、わたくし、ティタニア・ホーリーブレスト、心よりお慶び申し上げます!」
おいおいおい、なんでいんだよ、ティタニア嬢!
しかも、その後ろにはズラリと並んだ聖乳教会の騎士団!
数にして……ざっと三十はいるか?
完全に包囲されてんじゃねぇか、この「中道の館」!
「ティタニア……殿。なぜここが?」
ミルフィーユさんが冷静に問いかける。
その声には、わずかな緊張が滲んでいる。
「聖乳教会諜報部隊の追跡により、突き止めさせていただきました。魔乳王様、このような場末の隠れ家に潜んでおいでとは……さあ、我々と共に教会へお戻りください。大司教様も、魔乳王様のご帰還を心待ちにしておられますぞ」
ティタニア嬢は、あくまで穏やかに、しかし有無を言わせぬ威圧感を漂わせてそう告げる。
その豊満な胸は、騎士鎧の上からでも分かるくらいに堂々と主張している。
くっ、相変わらず見事なA+ランクだぜ……じゃなくて!
「いや、戻るって言われてもなぁ……俺、あそこの空気、ちょっと苦手なんだよな。なんかこう、乳の大きさでマウント取り合う感じがさ」
俺が正直な気持ちを述べると、ティタニア嬢の眉がピクリと動く。
「魔乳王様。あなたのそのお考えは、いささか……」
彼女が何か言いかけた、その瞬間だった。
シュバッ!
鋭い風切り音と共に、数本のクナイがティタニア嬢の足元に突き刺さる!
「なっ!?」
騎士たちが一斉に剣を抜く。
木々の梢から、ひらりと黒い影が舞い降りた。
間違いない、あの平坦な胸、あのツンとした表情……コレット嬢だ!
しかも、彼女の後ろからも、続々と黒装束の貧乳派レジスタンス兵士たちが姿を現す。
こっちも数は三十くらいか?
うわ、完全に挟み撃ちじゃん!
「フン、聖乳教会の犬め。魔乳王は我々貧乳派が保護する。あんたたち爆乳カルトなんかに渡すもんですか!」
コレット嬢は、ティタニア嬢を睨みつけながら言い放つ。
相変わらず口が悪いな、この子も。
でも、その平らな胸に秘めた闘志は、なかなかのモンだぜ。
「貧乳派の残党め……! 魔乳王様をたぶらかそうとは、万死に値するわ!」
ティタニア嬢も負けちゃいない。
金色の髪をなびかせ、腰の聖剣に手をかける。
その胸元の光の粒子が、怒りに呼応するように輝きを増している。
まずい、この二人、完全に臨戦態勢だ。
「ティタニア・ホーリーブレスト! あんたのそのデカいだけの胸、今日ここで潰してくれるわ!」
「コレット・スレンダーライン! あんたのその貧相な板切れ、聖なる光で浄化してくれる!」
……あのさぁ、二人とも、もうちょっとこう、罵り合いにも語彙力ってもんがあってもよくね?
乳の大きさでしかディスり合えないのか、君たちは。
だが、そんな俺のツッコミも虚しく、二人は同時に動いた!
「聖乳降臨!」
ティタニア嬢の豊満な胸が、カッと眩い光を放つ!
次の瞬間、その光は巨大な翼の形を取り、彼女の背中に顕現した!
うおお、また出たよ、おっぱい翼!
しかも前回よりデカくて神々しい!
「乳圧縮砲!」
対するコレット嬢も、その平らな胸に全神経を集中させる!
キュゥゥンと空気を圧縮するような音と共に、彼女の胸の中心から、極太の青白いレーザービームが迸る!
出たー! おっぱいビーム!
相変わらずスゲェ威力だ!
光の翼から放たれる無数の光弾と、一点集中の破壊レーザーが、俺たちを挟んで真正面から激突!
ドゴォォォォォン!!!
凄まじい爆音と衝撃波が、森全体を揺るがす!
木々はなぎ倒され、地面はえぐれ、土煙が視界を奪う。
「うわあああっ!」
「きゃあああ!」
両陣営の兵士たちが、爆風に吹き飛ばされていく。
俺もミルフィーユさんも、なんとか近くの木の幹にしがみついて耐えるのが精一杯だ。
「おい! お前ら、ちょっと待てって! 話し合えって言ってるだろ!」
俺は、爆風が少し収まった隙に、二人の間に割って入ろうと飛び出した。
こんな乳バトル、誰も得しねぇだろ!
「魔乳王様、お下がりください! こいつは危険です!」
「魔乳王、邪魔しないで! こいつだけは私が倒すの!」
ティタニア嬢とコレット嬢は、俺の言葉なんてまるで聞こえていないかのように、再びそれぞれの乳力を高め始める。
まずい、第二射が来るぞ!
「だーかーらー! お前ら二人とも、根本的に間違ってるんだって! 乳の大きさで人間の価値が決まるなんて、そんな馬鹿げた話があるか! もっとこう、お互いの個性を尊重しあえよ!」
俺は、半ばヤケクソで叫んだ。
その時だった。
俺の体から、またあの金色の光が、今度は今までで一番強く、激しく溢れ出した。
それはまるで、俺の心の叫びに呼応するかのように。
「なっ……!?」
「この光は……!?」
ティタニア嬢とコレット嬢が、同時に驚きの声を上げる。
彼女たちの高まっていた乳力が、俺の金色の光に触れた瞬間、まるで霧が晴れるように霧散していくのが分かった。
「魔乳王……あなた、私たちと一緒に聖乳教会を打倒しましょう! その力があれば、爆乳どもを根絶やしにできるわ!」
コレット嬢が、目を輝かせて俺に訴えかける。
「魔乳王様、どうかお考え直しください! その御力は、神より与えられし聖なる秩序を守るためにこそ使われるべきです! 我々と共に、貧乳派という異端を排除いたしましょう!」
ティタニア嬢も、必死の形相で俺に手を差し伸べる。
……おいおい、なんでそう極端から極端に走るかな、この子たちは。
俺は、天を仰いで深いため息をついた。
「だからさぁ……どっちも違うんだっての。お前らがなんでそこまでして殺し合わなきゃならねぇのか、俺はそこが知りたいんだよ」
俺の真剣な問いかけに、ティタニア嬢とコレット嬢は、一瞬、言葉に詰まったようだった。
彼女たちの瞳の奥に、ほんのわずかだが、迷いの色が見えた気がした。
「……皆さん」
戦場に不似合いなほど穏やかな声が響く。
ミルフィーユさんが、いつの間にか俺の隣に立っていた。
「このまま戦いを続けても、何も生まれませんわ。魔乳王様もこう仰っているのです。まずは、この館の中に入り、お互いの言い分を……そして、この世界の真実を、冷静に話し合ってみてはいかがでしょうか?」
ティタニア嬢とコレット嬢は、互いに鋭い視線を交わす。
だが、その視線には、さっきまでの剥き出しの敵意とは、少しだけ違う何かが含まれているように見えた。
俺は、改めて二人に向き直り、宣言した。
「俺は、どっちの味方でもねぇ。俺は、すべてのおっぱいの味方だ。そして、こんなくだらねぇ争いは、絶対に俺が終わらせてやる!」
金色のオーラをまとった俺の言葉は、不思議な説得力をもって、その場にいた全ての者の胸に……いや、心に響き渡った。
……ような気がする。多分。
三つの異なる運命が、今、この「中道の館」で交わろうとしていた。
世界の乳バランスを揺るがす、嵐の前の静けさだった。