第4章 教会からの脱出
俺は、なんかよく分からんけど「魔乳王様専用客室」とかいう、無駄に広くて豪華な部屋に軟禁……いや、丁重にお通しされて、一人悶々としていた。
「どうなってんだ、マジで……」
ティタニア嬢のあの豊満なおっぱいから、光の翼がドバーッと飛び出した光景が脳裏に焼き付いて離れない。
いや、おっぱいから何かが出てくるのは、昨日のコレット嬢のビームで経験済みだけど、翼って。
しかも、俺が触れた途端に暴走って。
俺の手、なんかヤバい呪いでもかかってんのか?
コンコン。
控えめなノックの音に、ビクッと肩が跳ねる。
「……どうぞ」
おそるおそる返事をすると、静かにドアが開いた。
そこに立っていたのは――あ、昨日の召喚の時にチラッと見かけた、あの完璧バランスおっぱいの美人さんじゃねぇか。
名前なんだっけな……ミルフィーユ?
うん、そんな感じの甘くて美味しそうな名前だった気がする。
「夜分に失礼いたします、魔乳王様」
彼女は優雅に一礼すると、部屋に入ってきて素早くドアに鍵をかける。
え、何その手際の良さ。
まさか美人局か!?
いや、こんなファンタジー世界にそんな古典的な手口があるとは思えんが。
「急いでください。このままでは、あなたは教会によって消されてしまいますわ」
「……は?」
ミルフィーユさんはいきなり物騒なことを言い放った。
消されるって、俺が? なんで?
「あなたの先ほどの謁見の間での発言……『おっぱいの価値に貴賎なし』。あれは、この聖乳教会の根幹を揺るがす、あまりにも危険な思想です」
遠くの廊下から、複数の足音が聞こえてくる。
それも、なんかこう、やけに慌ただしい感じのやつだ。
「まずい、もう追手が。魔乳王様、こちらへ!」
ミルフィーユさんは俺の手を掴むと、部屋の隅にあったタペストリーを勢いよく引き剥がした。
すると、そこには隠し扉が!
うお、ベタだけど燃える展開!
「さあ、早く!」
彼女に促されるまま、俺たちは薄暗い秘密の通路へと身を滑り込ませる。
背後からは「魔乳王様がいないぞ!」「探せ! 絶対に逃がすな!」なんていう、物騒な怒声が聞こえてくる。
おいおい、俺、いつの間に指名手配犯になったんだよ。
「ちょ、ミルフィーユさん! 一体どうなってんだってばよ!」
狭い通路を走りながら、俺はぜえぜえと息を切らして尋ねる。
運動不足の体には、この全力疾走はキツすぎる。
「あなたは、初代魔乳王の生まれ変わり……あるいは、その力を受け継ぐ者。だからこそ、この世界に召喚されたのです。貧乳も巨乳も、すべての乳が平等に輝ける世界を取り戻すために」
「いや、だから俺はただのニートで、おっぱいが好きなだけの一般市民だって!」
いくら否定しても、ミルフィーユさんは「ふふ、ご冗談を」と柳に風だ。
全然冗談じゃねぇんだけど!
通路の突き当たり、行き止まりかと思いきや、ミルフィーユさんが壁の一部にそっと手を触れると、ゴゴゴ……と音を立てて新たな道が開けた。
ハイテクだな、この隠し通路。
「うわっ!」
外に出た瞬間、冷たい夜風が火照った顔を撫でる。
そこは、さっきまでいた豪華な教会とは打って変わって、薄汚れた路地裏だった。
どうやら、無事に教会から脱出できたらしい。
「ふぅ……ここまで来れば、ひとまず安心ですわね」
ミルフィーユさんは涼しい顔で言うけど、こっちは心臓バクバクだっつーの!
と、その時。前方の暗がりから、複数の影がニュッと現れた。
やべっ、追手か!?
「魔乳王をこちらへ渡してもらおうか、ミルフィーユ」
低く、威圧的な声。
暗がりから姿を現したのは、教会の紋章が入った鎧を着込んだ兵士たちだった。
数は……5、6人か。クソ、もう見つかったのかよ!
「あらあら、お早いですこと」
ミルフィーユさんは、絶体絶命のピンチだというのに、なぜか余裕の表情を崩さない。
そして、おもむろに自分の胸に手を当てると、こう宣言した。
「お見せしましょうか。わたくしの乳術の、ほんの入口を――乳変幻術!」
彼女がそう叫んだ瞬間、信じられないことが起こった。
ミルフィーユさんの、あの完璧なバランスを誇っていたおっぱいが、まるで粘土細工みたいに形を変え始めたのだ!
キュイン! と効果音がつきそうな勢いで、まずは控えめなAカップに。
兵士たちが「な、なんだ!?」と動揺する。
次の瞬間、ボイン! と効果音が鳴りそうな勢いで、豊満なGカップへと急成長!
「おおっ!?」と兵士たちの目が釘付けになる。
いや、俺もだけど。
そして、シュルン……と、元の美しいDカップへと戻る。
「な、なんという妖術……!」
「化け物か!?」
兵士たちが完全に混乱している。
そりゃそうだろ。
目の前でおっぱいが自由自在にサイズ変更したら、誰だってビビるわ。
「さあ、今のうちに!」
ミルフィーユさんは、その隙を逃さず俺の手を引いて再び走り出す。
兵士たちの間をすり抜け、俺たちは夜の街を疾走する。
「ミルフィーユさん、あんた一体何者なんだよ……」
息も絶え絶えに尋ねると、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。
「わたくしはミルフィーユ・バランス。しがない自由乳術師……そして、あなたの協力者ですわ」
やがて俺たちは、街の外れにある、ひっそりとたたずむ一軒の小さな家にたどり着いた。
看板も何も出ていない、普通の民家に見える。
「ここが、わたくしの隠れ家、『中道の館』です。魔乳王様、ここならば安全です。そして……あなたのその御力について、ゆっくりとお教えすることができますわ」
中道……ねぇ。
俺の人生、どっちかっつーと「偏道」ばっかりだったけどな。
特に、おっぱいに関しては。
ミルフィーユさんは、何か意味ありげな、それでいてすべてを見通しているかのような神秘的な笑みを浮かべる。
「それは……『魔乳合体』。世界を救う、唯一無二の力ですわ」
魔乳合体?
なんだその必殺技みてぇな名前は。
俺の異世界ライフ、どうやらここからが本番らしいぜ……。