第3章 聖乳騎士との邂逅
衝撃的なおっぱいビーム事件から一夜明け、俺は聖乳教会のなんかやたらと豪華な一室で、フカフカのベッドの上で目を覚ました。
うん、寝心地は最高だ。
我が家の万年床とは雲泥の差。
このまま永住権取得して、毎日おっぱい眺めて暮らしたいもんだぜ。
……って、ダメダメ!
俺は魔乳王(仮)として、この世界の乳戦争を止めに来たんだった(多分)。
「魔乳王様、お目覚めでございますか。朝食の準備ができております」
ドアの外から、昨日とは違う若い神官の声がする。
なんだか俺、完全にVIP待遇だな。
まあ、悪い気はしないけど。
案内されたのは、これまただだっ広い食堂。
長いテーブルの上には、見たこともないような料理がズラリと並んでいる。
パンにスープにフルーツに……って、なんか料理の盛り付け、やけにおっぱいの形を意識してませんかね?気のせいか?
スープ皿の微妙な膨らみとか、パンの柔らかそうな丸みとか、完全に狙ってるだろコレ。
「こちら、聖乳教会特製『豊穣のあさげ』でございます。魔乳王様のお口に合いますかどうか」
ニコニコ顔で説明する神官。
うん、味は……普通に美味い。
見た目はともかく、料理の腕は確からしい。
腹も膨れたところで、今度は「謁見の間」なる場所に連行された。
昨日のヒゲじいさん――もとい、大司教様とかいうエラい人が、何人かの取り巻きと一緒に待っていた。
「魔乳王様、昨夜は反逆者どもの襲撃により、さぞお疲れのことと存じます。まことに申し訳ございませんでした」
大司教が深々と頭を下げる。
いや、別に俺は何もしてないんだけどな。
勝手に手が光って、勝手に敵が退散しただけだし。
「つきましては、魔乳王様の御身をお守りするため、我が教会最強の騎士を護衛としてお付けいたします。入りなさい」
大司教の言葉とともに、謁見の間の巨大な扉がゆっくりと開く。
そこに立っていたのは――。
おお……。
思わず、心の声が漏れちまった。
純白の、まるで天使の羽みてぇな装飾が施された鎧。
その鎧に包まれてなお主張する、圧倒的なまでの豊満な胸。
陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪は、腰のあたりまでウェーブを描いている。
そして、その美貌。
切れ長の青い瞳は知性と気品に溢れ、スッと通った鼻筋、桜色の唇は、まさに完璧な造形美。
CGか? この子、CGなのか?
「魔乳王様にご挨拶申し上げます。わたくし、聖乳教会第一聖騎士、並びに爆乳十二将筆頭、『聖乳のティタニア』と申します。以後、魔乳王様のお側でお仕えさせていただきます」
凛とした声で名乗りを上げたその女性――ティタニアは、胸に手を当てて優雅に一礼する。
そのたびに、鎧の下の聖なる山脈が、ぷるん、と心地よい音を立てて揺れる。
いや、音は聞こえねぇけど、俺の心眼にはハッキリと見えた。
あの揺れ、間違いなくA+ランクだ。
「あ、ああ……どうも。野々村マサルです。以後よろしく」
俺は完全に気圧されて、どもりながら挨拶を返す。
なんだこのオーラ。
同じ人間とは思えねぇ。
つーか、爆乳十二将ってなんだよ。
戦隊ヒーローか何かか?
しかも筆頭ってことは、このティタニアって子がリーダーなのか。
すげぇな、この世界。
「ティタニアよ、魔乳王様は昨夜、その御力の一端をお示しになられた。だが、まだこの世界の事情にはお詳しくない。そなたがしっかりと補佐し、お守り申し上げるのだぞ」
「はっ! このティタニア・ホーリーブレスト、命に代えましても!」
大司教の言葉に、ティタニアは力強く頷く。
その拍子にまたもや胸が揺れ……いや、もういいか、このくだり。
「ところで魔乳王様」
大司教が、ねっとりとした視線を俺に向けてくる。
「昨夜現れた貧乳派の残党ですが、奴らは『乳天律機関』なる古代の禁断兵器を復活させ、この世の乳秩序を破壊しようと企んでおります。我ら聖乳教会は、それを断じて許すわけにはまいりません」
乳天律機関?
また物騒な名前が出てきたな。
つーか、乳秩序ってなんだよ。
おっぱいにそんな大層なモンがあんのか。
俺が思わず「なんでそんな大そうなことになってんスか……?」と素で疑問を口にすると、ティタニアがすかさず厳しい表情で口を挟んできた。
「乳の大きさ、その豊かさこそ、神より与えられし聖なる秩序の証。爆乳は正義であり、貧乳は神に見放された劣等なる存在。教会の教えに背き、世界の調和を乱す者は、必ずや神の鉄槌を受け、裁かれる運命にございます」
うわぁ……出たよ、ガチガチの原理主義者。
言葉の端々に「貧乳はゴミ!」みたいなニュアンスが滲み出てるぜ。
この美貌でその思想は、ちょっと残念だなぁ。
「それってさぁ……ちょっと極端すぎやしねぇか?」
俺は、つい本音が口から滑り出た。
「……なんですって?」
ティタニアの美しい眉がピクリと動く。
謁見の間の空気が、一瞬で凍りついた。
まずい、地雷踏んだか?
「いや、だってさ、おっぱいの価値に貴賎なんてねーだろ? 俺は、どんなおっぱいもそれぞれに素晴らしいと思うぜ? 大きくても小さくても、それがその人の個性ってもんだろ?」
会場がざわつく。
神官たちがヒソヒソと何か囁き合っている。
大司教の顔が引きつってるのが遠目にも分かる。
ティタニアは、信じられないものを見るような目で俺を見つめている。
「魔乳王様……そのような異端のお考えは、まさか本気で……?」
彼女が、恐る恐るといった感じで俺に一歩近づく。
そして、その手が俺の肩にそっと触れた、まさにその瞬間だった。
ビカァァァッ!
昨日と同じ、金色の閃光が俺の体からほとばしる。
そして、その光はティタニアの体にも伝播し、彼女を眩い光で包み込んだ!
「 こ、これは……!?」
ティタニアが驚きの声を上げる。
彼女の豊満な胸から、突如として純白の光でできた翼のようなものがバサリと現れ、制御を失ったみたいに謁見の間をブンブン飛び回り始めた!
おいおい、またかよ! 俺のこの能力、完全に暴走特急じゃねぇか!
「な、何が起きているのです!? ティタニア様の聖乳翼が……勝手に!」
「お、お鎮まりください、聖乳翼様!」
神官たちが右往左往する中、光の翼はシャンデリアに激突し、高価そうな壺を粉砕し、大司教のカツラを吹き飛ばす。
……あ、カツラだったんだ、あのおっさん。
ようやく光が収まった時、ティタニアは美しい顔を真っ赤にして、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。
その胸は……うん、相変わらず立派だ。
「す……凄まじい乳力……これが、真の魔乳王の力というのですか……」
膝をつきながら、ティタニアは呆然と呟く。
いや、だから不可抗力だって! 俺だって何が何だかサッパリなんだよ!
俺は自分の能力の不安定さと、それが引き起こす面倒ごとに、早くも頭を抱えたくなっていた。
そして、ティタニアのあの「爆乳こそ正義」発言。
それに対する俺の「どんなおっぱいも素晴らしい」という反論。
どうやら俺、この世界の根本的な価値観と、真っ向から対立しちまったらしい。
謁見の間の空気は、さっきまでとは比べ物にならないくらい、ピリピリとした緊張感に包まれていた。
俺の異世界ライフ、前途多難ってレベルじゃねーぞ、これ。