第2章 初めての乳バトル
神官たちに半ば引きずられるようにして、神殿の奥へ奥へと進む。
さっきの爆発で、もうもうと土煙が立ち込めていて、正直どこがどうなってるのかさっぱりだ。
つーか、俺のTシャツとジーパン、このファンタジーな空間で浮きまくりじゃね?
召喚するなら、もうちょっとこう、TPOに合わせた服装もセットでお願いしたいもんだぜ、異世界の神様よぉ。
「魔乳王様、こちらへ! この聖域ならば、しばし安全かと!」
ヒゲじいさん神官が、やたらと装飾過多な扉を開け放つ。
中を覗くと……うん、まあ、なんていうか、キンキラキンだ。
壁という壁に黄金が使われ、天井からはシャンデリアみてぇなのがぶら下がってる。
床にはふかふかの絨毯。
さっきまでの石畳とは大違いだ。
つーか、ここ本当に安全なのか?
敵からしたら「どうぞ金目の物を盗んでください」って言ってるようなもんじゃね?
俺がそんな庶民的な心配をしていると、背後でまたしても爆音が轟いた。
今度はさっきより近い!
「ひぃぃ! も、もうダメだぁ!」
神官たちが情けない悲鳴を上げる。
おいおい、あんたら聖職者だろ?
もうちょっとこう、シャキッとしろよ。
と、その時。
崩れ落ちた壁の向こうから、黒い影がフワリと舞い降りた。
逆光でよく見えねぇけど、小柄な人影だ。
そして、その影の背後から、同じような黒ずくめの連中がわらわらと姿を現す。
なんだなんだ、忍者か?
この世界にもニンジャはいるのか?
「フン……聖乳教会の犬どもめ。魔乳王とやらはどこかしら?」
凛とした、それでいてどこか挑戦的な少女の声。
煙が晴れてきて、ようやくそいつの姿がはっきりと見えてきた。
年の頃は……高校生くらいか?
黒い、体にぴったりとフィットした忍者みたいな装束。
そして何より目を引くのは……その胸だ。
いや、正確には「胸のなさ」だ。
見事なまでに、平坦。
まるで最新鋭の液晶パネルのようだぜ。
「私は貧乳派解放戦線のコレット! これより聖乳教会を制圧する! 抵抗する者は女子供だろうと容赦しないわ!」
コレットと名乗った少女が、その平らな胸を反らせて高らかに宣言する。
おお、小さいながらもなかなかどうして、立派な主張をお持ちで。
俺は思わず感心しちまったぜ。
彼女の号令一下、黒装束の兵士たちが「貧乳万歳!」「巨乳に鉄槌を!」とか叫びながら、腰の抜けた神官たちに襲いかかる。
おいおい、いくらなんでも一方的すぎんだろ。
「くっ……聖なる乳力に仇なす不届き者め!」
ヒゲじいさんが最後の力を振り絞ったのか、杖を構えて立ち向かおうとする。
だが、コレットが一枚上手だった。
「遅いわね。――乳圧縮砲!」
少女の口から放たれたのは、なんとも物騒な技名。
そして次の瞬間。
彼女のぺったんこな胸の中心がキュゥゥと凝縮したかと思うと、そこから眩い青白いレーザービームがほとばしった!
マジかよ! おっぱいからビームって! しかも、あのサイズでこの威力かよ!?
レーザーはヒゲじいさんの脇をかすめ、背後の壁に大穴を開ける。
じいさん、腰を抜かしてへたり込んじまった。
「な、なんという乳力……あれが貧乳派の最終兵器……」
「魔乳王様、お逃げください!」
神官たちがまた泣き言を並べ始める。
いや、逃げろって言われても、どこに?
この部屋、入口一つしかない袋小路じゃねぇか!
「ふん、魔乳王が聞いて呆れるわ。こんな腰抜け神官どもに守られてるなんてね」
コレットが、あざけるような笑みを浮かべて俺に近づいてくる。
「あんたが魔乳王? なんだかパッとしない顔ね。本当に伝説の王なの?」
いや、だから人違いだって言ってんだろ。
俺はしがないおっぱいソムリエだっての。
「巨乳派に与するなら、あんたも敵よ。ここで死になさい!」
コレットが再び胸に手を当てる。
まずい、またあのビームが来る!
理屈は分からんが、とにかくヤバい!
「ちょ、待て! 話せば分かるって!」
俺は咄嗟に両手を前に突き出して叫んだ。
その瞬間、俺の手のひらから、ボンヤリとした金色の光が溢れ出した。
なんだこれ?
コレットの胸から放たれた青白いレーザーと、俺の手から出た金色の光が、空中で激突する。
バチチチチッ!
まばゆいスパークが弾け、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
俺は思わず目を閉じた。
「なっ……!?」
コレットの驚愕に満ちた声が聞こえる。
恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
俺の金色の光が、コレットの青いレーザーを押し返している……だけじゃない。
レーザーそのものが、まるで意思を持ったみたいに、さらに勢いを増してコレット自身の頭上へと向かっていく!
「きゃあ! 私の乳力が……制御不能で暴走してる!?」
天井に突き刺さる極太レーザー。
ガラガラと崩れ落ちるシャンデリア。
コレットは自分の胸を押さえて、信じられないといった表情で俺を見ている。
俺も自分の両手を見つめる。
まだ、淡い金色の光が残っている。
「……俺、今、何やったんだ……?」
「覚えてなさい!」
コレットは悔しそうに叫ぶと、仲間たちに撤退の合図を送る。
あっという間に、黒装束の一団は煙のように消えていった。
残されたのは、半壊した豪華な部屋と、呆然と立ち尽くす俺と神官たち。
「おお……魔乳王様……! なんというお力……!」
ヒゲじいさんが、今度は本気で涙ながらに俺にすがりついてくる。
いや、だから、俺何もしてねぇって!
勝手に手が光って、勝手にビームが暴走しただけだっての!
「これが……魔乳王の奇跡……」
「世界は救われる……!」
神官たちの称賛の声が、なぜかやけに虚しく聞こえる。
俺の異世界ライフ、どうやら本格的にとんでもない方向に転がり始めたらしいぜ……。