第11章 コレットの覚悟
貧乳派レジスタンスの秘密地下基地では、コレット・スレンダーラインが、何やら深刻な顔で秘密会議に出席していた。
「……というわけで、コレット。例の『魔乳王』とやらは、どうだったんだい?」
薄暗い地下室。壁には「爆乳は悪!」「貧乳こそ至高の美!」という過激なスローガンがベタベタ貼ってある。
その中央に鎮座する、やけに厳つい顔つき指導者の一人が、コレットに鋭い視線を向けている。
「別に……大したことなかったわよ。ただのスケベそうで、ちょっと変な力を持った男。それだけ」
コレットは、腕を組んでそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに答える。
「フン、使えそうなら利用するまで。使えぬとあらば……始末するのみだ」
「そ、そんな……!」
コレットが思わず声を上げる。
「何をためらう必要がある? 我々は、長きに渡り聖乳教会に虐げられてきたのだぞ! 爆乳どもをこの世から根絶やしにするためならば、いかなる手段も厭わぬ! それが、我ら貧乳派の悲願ではないか!」
その言葉に、会議室に集った他のメンバーたちも「そうだそうだ!」「爆乳どもに死を!」と、拳を突き上げ、シュプレヒコールを上げ始める。
コレットだけが、その異様な熱狂の輪から外れて、一人唇を噛みしめていた。
会議が終わり、コレットは割り当てられた自室に戻る。
そこは、質素ながらも彼女の几帳面さが伺える、小綺麗な部屋だった。
壁には一枚だけ、色褪せた写真が飾られている。
そこに写っているのは、太陽みたいに明るい笑顔を浮かべた、豊満な胸を持つ美しい女性。
「……お姉ちゃん」
コレットが、写真に向かってか細い声で呟く。
その瞳には、深い悲しみと、そして……複雑な怒りの色が浮かんでいた。
――回想。
今から五年前。
コレットがまだ、ただの世間知らずな少女だった頃。
彼女には、誰よりも優しくて、誰よりも美しい、自慢の姉がいた。
その姉は、貧乳派の理念に共感しながらも、決して暴力的な手段を肯定しない、穏健派のリーダー的存在だった。
そして、彼女は……聖乳教会によって、無実の罪を着せられ、処刑されたのだ。
罪状は、「爆乳でありながら貧乳派に内通し、国家転覆を企てた」という、ふざけたもの。
処刑される直前、姉はコレットにこう言いのこした。
『コレット……憎しみからは、何も生まれないわ。乳の大きさで人を差別するのも、乳の大きさを憎むのも、どちらも同じくらい愚かなこと。本当の強さとは、違いを認めること……そして、愛することなのよ』
「お姉ちゃんの言ってたことは、正しかった……。あのマサルとかいう、変な男が言ってたことと、同じだったんだ……」
コレットの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
彼女の手元には、数枚の羊皮紙が広げられていた。
それは、古代兵器『平乳機関』の設計図の一部だった。
「これを起動させれば、本当に……お姉ちゃんの無念を晴らせるの? 世界は……変わるの?」
彼女の心は、激しく揺れていた。
姉の遺言と、組織の悲願。
マサルの言葉と、長年抱き続けてきた爆乳への憎しみ。
どちらが正しいのか、もう彼女には分からなかった。
その時、ふとマサルと「魔乳合体」した時の、あの不思議な感覚が蘇る。
彼の温かい光に包まれた時、彼女は初めて、自分のこの平らな胸を、恥じるのではなく、誇らしいとさえ感じたのだ。
そして、彼の心の中に流れ込んできた、あのとてつもなく大きくて、深くて、そして……どこまでも優しい「おっぱいへの愛」。
「でも、あいつ、ティタニアとかいう爆乳女とも合体してたし……! 結局、誰の乳でもいいんでしょ、あのスケベ魔乳王は!」
突然、嫉妬にも似た感情がこみ上げてきて、コレットは頬を赤らめる。
そして、ハッと我に返る。
「……私、何を考えてるのよ!」
彼女は頭をブンブンと振ると、設計図を強く握りしめた。
「とにかく、今はこの『平乳機関』が、本当に世界を滅ぼすような代物なのか、この目で確かめなきゃ!」
その瞳には、もう迷いはなかった。
覚悟を決めた女の顔だ。
コレットは、音もなく部屋を抜け出すと、基地の最深部――『平乳機関』が隠されているとされる禁断の聖域へと、その小さな体を滑り込ませていった。
彼女の知らないところで、運命の歯車は、また一つ、大きく軋みを立てて回り始めていた。
そして、野々村マサルもまた、この世界の巨大な乳騒動に、否応なく巻き込まれていくことになるのである。