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ep.4

「フルーレちゃん、ここが治癒魔法士部隊の拠点よ。ひとまずはこちらで基礎的な業務を覚えてもらおうと思ってるから、あまり気張らずに頑張ってちょうだいね」

「はい。ご案内いただき感謝いたします、セレニテ様」


 見知らぬ騎士が花畑に落ちてきてから数日後、フルーレはなぜか王国騎士団本部にある治癒魔法士部隊の新米隊員としてその拠点へ訪れることになっていた。


 体のラインが隠れるようなデザインで統一された、色とりどりの制服に身を包んだたくさんの人々が右へ左へ慌ただしく走り去っていくのを見つめながら、フルーレはあの騎士様の剣幕に飲まれて恐怖に身を震わせた一日を頭の中でゆっくりと振り返る。あの日から今日までが怒涛の日々だったせいであまり休めていない脳内では、せいぜい騎士様の言葉を思い返すくらいが精一杯であったが。


「セレニテ隊長、こんにちは! もしかしてその方が噂の新人さんですか?」


 フルーレが思考を彼方へと飛ばしていると、治癒魔法士部隊の隊長であるセレニテが拠点だと示した大きな扉の中からぴょこぴょこと小さな少年が顔を出してこちらを覗いていた。セレニテとフルーレと同じ真っ白な制服を着ているのを見るに、フルーレにとっては同じ部隊の先輩隊員であるらしい。


「ミミ、こんにちは。えぇ、彼女がスールス騎士団長が直々に治癒魔法士部隊へと指名したフルーレさんよ。まだ分からないことがたくさんあると思うから、みんなと一緒に色々教えてあげて」

「はい! フルーレお姉さん初めまして! 僕はミミ、この部隊で治癒魔法士見習いをしています! これからよろしくお願いしますね!」


 じゃあ早速他のみんなにも挨拶に行きましょうかと、セレニテがフローラに対してそう話しかけたところで、三人の後ろからコツコツと静かな、けれど存在感のある足音が聞こえてくる。


 フルーレがくるりと背後を振り返ると、そこにはこの場所に集まっている後方支援部隊のゆったりとした制服とは違う、タイトな隊服を美しく着こなした騎士様の姿があった。


「まぁ、スールス騎士団長! わざわざこちらにいらっしゃるなんて、何か緊急の要件でもございましたか?」

「いや、君たちの迅速な仕事のおかげでこちらも滞りなく業務を遂行できている。今日は彼女が初めてこちらに訪れる日だと聞いて様子を確認しにきただけだ」

「騎士団長が直接状況を確認しにくるだなんて、やっぱりフルーレお姉さんはそれだけ期待されているんですね……」


 セレニテとひと言交わしたスールスは、フルーレの方を向き直る。その手には一つの紙袋が握られていた。


「フルーレ、治癒魔法士部隊はどうだ? 仲良くやっていけそうだろうか」

「え、えーっと」

「スールス騎士団長……恐れ入りますが、彼女の様子を見にくるというには少々いらっしゃる時間が早すぎるかと。先ほどお越しいただいたばかりで、まだ隊員の自己紹介もあまりできておりませんので……」


 詳しい案内はこれからというところでスールスが現れてしまったためにほとんど部隊のことを知らないままのフルーレが言葉に詰まると、すかさず横からセレニテが助け舟を出してくれる。初めて出会った日にも思ったが、この騎士団長様は案外せっかちなところがあるようだった。


「む、そうだったのか。では案内が終わるまで庭で待っているとしよう。セレニテ、一通り紹介が終わり次第彼女を連れてきてくれ」

「承知いたしました」

「ではまた後ほど会おう、フルーレ」


 また会おうと言う割に、フルーレの顔を見ることも返事を待つこともなく足早に去っていってしまったスールスの後ろ姿に、セレニテがぽつりと呟いた。


「あの方が一人の女性をあんなに気にするなんて……明日の天気は槍かしら」

「セレニテ様、今何かおっしゃいましたか?」

「いいえなんでもないわ。スールス騎士団長をあまりお待たせするわけにもいかないし、早速中に入りましょう」

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