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ep.1

「花を咲かせるしか能のないマンソージュ家の恥晒しのくせに、ヴァン様と結婚しようだなんて思うからこうなるのよ。そんなことも分からないなんて、お姉様ったら頭の中までお花畑なのかしら?」


 氷水のように冷たい声を背景に、バンッと大きな音を立ててフルーレの体は自室へと投げつけられた。


 痛む半身をかばいながら、フルーレは一番下の位とはいえ爵位を持つ家の長女が使うにしては粗末なベッドに座り込み、昼間のお茶会で婚約者から伝えられた言葉をぼんやりと思い出す。


「『武人を数多く輩出する家系に生まれ教育を受けておきながら、種火を出すことさえままならないとは言語道断だ。君との婚約は破棄させてもらう』ですって。わたくしがマンソージュ家にとって使えない存在であることなど、ヴァン様はとうの昔に知っていたはずですのに」


 さもそれが当然と言わんばかりの表情で、腕には姉の不幸をニヤニヤと笑う妹の豊満な体を引っ付けたまま、十年ほど仲良く連れ添ったはずの婚約者はフルーレの手を離すと口にした。つい先日、フルーレが魔法を使えなくてもそばにいたいと言ったその唇で、だ。


「ジョーヌの言う通りですわね。わたくしでは王宮魔法士はおろか、魔法を使った雑用でさえこなせるか怪しいのですから」


 マンソージュといえば、この十数年で多数の王宮魔法士を排出することに成功して大きく力を伸ばし、男爵としての爵位を賜ることになった比較的新しく、また勢いのある貴族の家名である。


 だがしかし、現在マンソージュ家の長女であるフルーレは王宮魔法士として必須である攻撃魔法を一つも使うことができなかった。魔力はあるにも関わらず、炎も風も、水や光でさえも、マンソージュ家の一員であるならば何か一つは国一番の練度で扱えるべしといわれる基礎的な魔法の才は彼女の体に一つも芽吹かなかったのだ。


 対して妹のジョーヌは、十四歳という若さながら現役の王宮魔法士にも並ぶ威力を誇る攻撃魔法を幾つも使うことができたため、両親の関心が完全にそちらへ向いてしまうのも仕方のないことであったのだろうと、フルーレは深くため息をついた。


「もう顔も合わせたくないということなのでしょうが、お父様は随分とマメな方だったのですね」


 婚約破棄を受け入れることにした当主様からあなたへの伝言だと執事から渡された、適当に二つ折りにされただけの小さな紙には、簡潔にまとめるのであれば、お前のような役立たずは七日以内に荷物をまとめて家を出ていくように、との内容が長々と仰々しい文体で書き連ねられていた。ご丁寧に新しい住居への地図まで記載してくれている。


「あまりゆっくりとしていてはご迷惑でしょうし、荷物をまとめて急がなければ」

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