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心を繋ぐ瞬間~浩之と莉奈~  作者: 乾為天女


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第一部 第5章: 誇りを越えて

街を歩く二人の足音は、まるで夜の静けさに溶け込んでいくようだった。街灯の柔らかな光が二人の影を地面に長く伸ばし、冷たい風が髪を揺らす。その静けさが、どこか心に不安を呼び起こす一方で、同時にどこか穏やかな安心感も感じさせた。浩之はその安心感を意識的に避けるように、視線を前に向け続けていた。


けれど、隣を歩く莉奈の存在が気にならないわけではなかった。彼女の歩幅が彼とぴったり合っていて、その距離感に少しずつ違和感を感じるようになっていた。あのときの、彼女の言葉が再び彼の心を捉えた。


「信じることで、得られるものがある。」


その言葉が、今も浩之の中で響き続けていた。信じることができれば、彼の世界は少しは変わるのだろうか。過去に傷つけられた経験があるからこそ、信じることを恐れる。その恐怖が、浩之を常に閉じ込めていた。しかし、莉奈が言ったように、「信じること」には恐れ以上の何かがあるのだろうか。


二人は歩き続ける。空は深い藍色に染まり、星々が輝いている。だが、浩之の心はどこか曇っていた。信じることができない自分に、どうしても満たされない何かを感じていた。


「それでも、怖い。」浩之はつぶやいた。


その言葉に、莉奈は少しだけ顔を向け、彼を見つめることなく、静かに答えた。


「怖いのは当然です。でも、それを恐れてばかりでは何も始まりません。」


浩之はその言葉を聞いて、再び足を止めた。彼は夜空を見上げ、冷たい風を感じながら、しばらく何も言わなかった。周囲の静けさが、彼の心に不安を投げかけ、同時に少しだけ強さを与えるような気がした。


「怖いのは、信じた先に裏切られることだ。」浩之は苦しそうに言った。


その言葉に、莉奈は立ち止まり、浩之に向き直った。彼の言葉の意味が、彼女には痛いほどわかる。信じることがどれほど恐ろしいか、裏切られたときの心の傷がどれほど深いものか、彼女も同じように経験したことがあるからだ。


「でも、裏切りを恐れてばかりでは、本当の意味で生きているとは言えないと思う。」莉奈は静かに言った。その目には、迷いもなく確かな強さが宿っていた。


浩之はその言葉をじっと聞き、胸の中で何かが動き始めるのを感じた。彼はその瞬間、彼女が持っている強さと、彼がずっと抱えてきた恐れとの違いを感じていた。自分は何を恐れ、何を守りたかったのか。裏切られることが怖いからと、信じることを拒否し続けてきた。だが、信じることを選ばなければ、何も得られないということに気づき始めていた。


「君は、どうしてそこまで信じることができるんだ?」浩之は、声を震わせて言った。


莉奈は少し考えた後、穏やかな笑顔を浮かべて言った。


「私も、最初は信じられなかった。でも、自分がどんなに怖くても、誰かを信じなければ、その先に進めないと思ったんです。」彼女は小さく息を吐き、再び浩之を見つめた。その目は、ただ真摯なものだった。「信じることで、相手の強さを感じることができるんです。」


その言葉に、浩之は何も言えなかった。心の中で、彼女の言葉が何度も響く。それが正しいのか、間違っているのか、まだ分からない。しかし、莉奈が放つその力強さが、少しずつ彼を引き寄せるような気がしていた。


「信じるって、難しいんだ。」浩之は小さく呟いた。


「はい、でもそれを選ばなければ、心はずっと閉ざされたままです。」莉奈の声は柔らかく、けれどどこか確信に満ちていた。


浩之はその言葉に、再び足を止めた。そして、しばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「君が言う通りかもしれない。」その言葉に、浩之の心に少しの温かさが広がるのを感じた。彼は足元に視線を落とし、少しだけ息を吐いた。


「でも、俺はまだ怖い。」浩之はそう言って、再び歩き出した。


「怖くて当然です。」莉奈はその歩みを合わせながら、静かに答えた。「でも、怖いからこそ、一歩を踏み出さなければ何も変わらないと思います。」


その言葉に、浩之は少しだけ歩みを止めた。彼女の目が、真剣で温かく、どこか励ますような力を持っていることを感じた。それは、まるで彼が進むべき道を指し示すようだった。


二人はその後も静かに歩き続けた。空はまだ深い藍色に包まれ、星々が瞬いている。その中を二人が歩きながら、浩之の心には少しずつ変化が生まれ始めていた。信じることを恐れる心はまだ残っている。だが、少しずつその恐れが解け、歩みを進める力を与えてくれるような感覚があった。


冷たい夜風が二人を包み込み、その瞬間、浩之は初めて少しだけ前を向いて歩くことができたような気がした。


第五章終

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