第三部 第6章: 友伽の自己表現
友伽は自分の意見を言うことができなかった。常に他人の期待に応えようとするあまり、彼女の言葉はどこか曖昧で、流されるままでいた。幼少期から家庭でも学校でも、自分の意見を表現することを避けてきた。誰かの意見に合わせることで安定を得ていた彼女は、他人の評価に依存することが多かった。その結果、彼女の内面は次第に抑圧され、自己表現の力を失っていった。
「本当はもっと自分を表現したい。」心の中で何度もそう思っていたが、実際に言葉に出す勇気はなかった。そうした自分を嘆くことはあったが、その恐れを克服する方法がわからなかった。
それでも、浩之と莉奈の存在が少しずつ彼女を変えていった。浩之はいつも彼女に言っていた。「友伽、自分をもっと大切にしなきゃダメだよ。」その言葉が何度も彼女の胸に響いていた。そして、莉奈もまた、友伽に優しく語りかけた。「自分を大事にすることで、他人もあなたを大切にしてくれる。もっと堂々と、あなたの考えを伝えてごらん。」
最初はその言葉がどこか遠くに感じられた。どうしても、他人の期待に応えようとすることが習慣になっていたからだ。しかし、次第に彼女はその言葉が本当だと感じるようになり、少しずつ自分の思いを言葉にすることに挑戦し始めた。
ある日のこと、友伽は職場の会議で発表をする機会を得た。最初はその話を聞いた時、心臓が跳ね上がるような感覚に襲われた。全員の視線を集めるということが、どれだけ自分にとってプレッシャーであるかを痛感していたからだ。しかし、浩之と莉奈の言葉が頭をよぎる。「自分の考えをしっかり伝えることで、もっと多くの人と信頼関係が築ける。」
「これがチャンスだ。」友伽は決心した。会議が始まり、彼女は席に座っていたが、次第にその番が回ってきた。手元が震え、言葉が詰まりそうになったが、それでも彼女は深呼吸をして、口を開いた。
「えっと…今日は、このプロジェクトについて少し意見をさせてください。」友伽は自分でも驚くほど、はっきりとした声で言った。最初は言葉が少しだけ震えていたが、会議室の中で自分の声を聞いた瞬間、少し安心感が広がった。そして、言葉が次々と出てきた。
「この案に関してですが、私はこう思います。確かに、現状維持も一つの選択肢ですが、今の時点で新たな挑戦をしておくことが、今後のためになると思うんです。」友伽は自分の考えを、少しずつ言葉にしていった。自分の意見がだんだんと明確になっていくのを感じた。
最初は緊張していたが、周囲の顔を見回すと、驚くことに誰もが真剣に彼女の話を聞いていることに気づいた。彼女の言葉に耳を傾け、理解しようとしているその姿勢が、友伽の背中を押してくれた。
そして、会議が終わると、同僚の一人が近づいてきて言った。「友伽さん、すごく良い意見だったよ。次もぜひ聞かせてね。」その一言が、彼女にとって何よりも嬉しかった。初めて、自分の意見が受け入れられた瞬間だった。
その日の夜、家に帰ってからも、友伽はその瞬間を反芻した。自分が伝えた言葉に対して、しっかりと反応があったことが、どれだけ自分にとっての自信に繋がるかを実感していた。
「これで、もっと自分を出せるかもしれない。」その思いが心に広がった。
次の日、友伽は自分の気持ちを莉奈に伝えた。「昨日、会議で意見を言えたんだ。最初はすごく緊張してたけど、みんながちゃんと聞いてくれて、すごく嬉しかった。」
莉奈は笑顔で頷いた。「良かったね!自分を出すって、ほんとに大事なことだよ。」
その言葉に、友伽はさらに自信を持つことができた。自分を表現することが怖いことではなく、むしろ周りとの信頼関係を深めるために必要なことであると、彼女はようやく理解した。
仕事だけでなく、プライベートでも彼女は少しずつ変わり始めた。恋愛においても、今まで感情を押し込めていた自分が、少しずつ素直になれるような気がした。思っていることを言葉にし、彼に伝えることが、心の中で少しずつ現実になってきた。
「これからは、もっと自分を大切にして、自分の気持ちを伝えていこう。」友伽は心の中でそう決意した。
その後、彼女はますます自己表現に自信を持つようになり、恋愛面でも積極的に自分の気持ちを表現することができるようになった。そして、浩之や莉奈の支援を受けながら、仕事でもプライベートでも、少しずつ自分を表現することを恐れなくなった。
彼女が自分の意見を堂々と言えるようになったことで、周りの人々との信頼関係が深まり、その絆はより強固なものとなった。そして何より、彼女自身が自分に自信を持ち、より豊かな人生を歩んでいけるようになったのであった。
第6章終




