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心を繋ぐ瞬間~浩之と莉奈~  作者: 乾為天女


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第三部 第4章: 由妃帆の心の変化

由妃帆は、静かで落ち着いた空気の中で自分を保つことが得意だった。冷静で理性的な性格が、周囲の人々に安心感を与えることもあったが、裏を返せば、彼女自身が感情を表現することには消極的だった。家庭での教育が影響している。母親が常に冷静で物静かな人物だったため、由妃帆も無意識のうちに感情を抑えることを学んだ。何かを感じても、それを他人に伝えることが面倒に思えるようになった。気持ちを言葉にすることが無駄だと感じたからだ。


職場では、その内向的な性格が時に問題になることがあった。機関士としての仕事は一人で考え行動することが多いが、チームワークが求められる場面では、どうしても自分の意見を言うことが難しく感じてしまう。上司や同僚たちが提案をする中で、由妃帆はどうしても口をつぐんでしまうことが多かった。彼女自身の意見を言うことで、他の人と対立してしまうのではないかという恐れがあったからだ。


しかし、そんな彼女に変化の兆しが訪れた。浩之と莉奈の存在が、少しずつ彼女の心を開かせるきっかけとなったのだ。


浩之は、由妃帆の職場での姿勢を見て、「お前は本当に冷静だな」と言ったことがあった。それは一見、褒め言葉のように感じたが、由妃帆はその言葉に違和感を覚えた。自分が冷静なだけで、何も感じていないように見えることが嫌だった。自分の意見を言わずに、周囲に流されている自分がどうしても情けなく思えてきたのだ。


その日、莉奈と話していた時のことだ。莉奈はとても人懐っこく、いつも他人の気持ちに敏感に反応していた。そのため、由妃帆の気持ちを自然に感じ取ることができた。


「由妃帆さん、あなたはすごく冷静で、誰よりも慎重に物事を考えている。でも、たまにはその冷静さを自分に向けるのもいいんじゃない?自分を抑えすぎると、他の人との信頼関係を作るのが難しくなるよ」と、莉奈は言った。


その言葉に、由妃帆は深く考え込んだ。彼女は今まで、感情を抑えることが大切だと思ってきた。何かを言うことで誰かを傷つけてしまうのではないかという恐れから、口をつぐんでいた。でも、莉奈の言葉には何か違った響きがあった。それは、感情を抑えることが必ずしも良いことではない、むしろ自分を表現することで周囲との信頼が深まるという新しい考え方だった。


その後、由妃帆は少しずつ変わり始めた。自分の意見を言うこと、感情を表現することが少しずつ恐れではなくなり、時には楽しさを感じるようになった。職場でも、会議の場で自分の意見を伝えることができるようになった。最初は上司に対しても、同僚に対しても、何かを言うことに対する恐れがあった。しかし、それを乗り越えることで、彼女は次第に自分に自信を持つようになっていった。


ある日、由妃帆は少し無理をしてでも自分の意見を言うことに決めた。会議が始まったばかりのとき、上司が新しいプロジェクトに関する提案をしていた。彼の話は非常に論理的で分かりやすかったが、由妃帆はその内容に少し疑問を感じていた。


「もし、その案を採用した場合、労働時間が長くなりすぎるのではないかと思います」と、由妃帆は静かに言った。


その言葉に、会議の参加者たちは少し驚いたような顔をした。由妃帆が意見を言うのは珍しいことだったからだ。しかし、彼女はその一言を言うことができた。しばらくの沈黙の後、上司がうなずいた。


「良い指摘だね。確かにその点を考慮しなければ、チームの負担が大きくなりすぎるかもしれない」と、上司は言った。


その瞬間、由妃帆は自分が少し成長したように感じた。自分の意見を言うことで、ただ単に周囲の反応を待つだけでなく、自分がこのチームに貢献できる一員であると感じることができたのだ。


その夜、由妃帆は浩之と莉奈と一緒に食事をしていた。莉奈はにこやかに言った。


「由妃帆さん、すごいじゃない!あんなにしっかり意見を言えるなんて、最初は信じられなかったよ。」


浩之も笑顔で頷いた。「あれだけ冷静に自分の考えを伝えられるのは素晴らしい。もっと自分に自信を持っていいんだよ。」


その言葉に、由妃帆は心の中で小さな灯がともったような気がした。自分を表現することが、思っていたよりもずっと簡単で、そして重要なことだということを、彼女はその時初めて実感したのだった。


翌日、由妃帆は仕事に向かう途中、ふと立ち止まり、自分の感情を少しずつ受け入れていることに気づいた。今までずっと、感情を抑え込み、他人との間に壁を作っていたことが、逆に自分を孤立させていたと感じるようになった。その孤独を乗り越えるために、もっと自分を表現し、他人と繋がりたいという気持ちが芽生えてきていた。


机の前に座ると、由妃帆は少しだけ目を閉じて深呼吸をした。今日も、また何か新しいことを始めるべきだという気持ちが、自然と湧いてくる。自分の感情を表現することを恐れず、もっと積極的に意見を言ってみよう。そうすれば、きっと自分の存在がもっと豊かになり、周囲との関係も深まっていくはずだと感じていた。


午前の仕事を終え、昼休みに同僚と一緒にランチを取ることになった。普段ならば、無理に話すことなく黙って食べるだけの時間が多かったが、今日は少しだけ勇気を持ってみようと思った。食事をしながら、軽い話題で会話を始める。


「最近、どう?」と同僚の一人が声をかけてきた。


由妃帆は少し迷ったが、今日は自分を少しでも開こうと決めていた。「最近、少しずつ自分の考えを伝えることに慣れてきたんです。仕事でも、みんなと意見を交わすことが楽しいなと思えるようになってきて。」


その言葉に、同僚たちは少し驚いた様子だった。由妃帆は普段、あまり感情を表に出さないため、こんな話をするのは珍しかったからだ。


「それ、すごいね!」と、もう一人の同僚が微笑んだ。「前よりも、なんだか変わった気がする。いい感じだよ。」


由妃帆は少し照れながらも、心の中で小さな誇りを感じていた。今まで、自分の意見を言うことが怖かった自分が、少しずつでも変わり始めているという実感が、彼女に自信を与えていた。


その日の午後、仕事が一段落した時、由妃帆はふと窓の外を見ながら、自分が少し成長したことに気づく。「自分を表現すること、感情を伝えることが、こんなにも心地よいものだとは思わなかった。」それは、今までの自分では考えられなかったような感覚だった。


その夜、浩之と莉奈と一緒に食事をすることになった。由妃帆は、最近の自分の変化を話してみたくなった。彼女にとって、浩之と莉奈は、自分を受け入れてくれる存在であり、感情を表現する勇気を与えてくれた二人でもあった。


「実は、今日、ちょっとしたことなんだけど、自分の気持ちを話すことができたんです」と、由妃帆は少し照れながら話し始めた。「ランチのときに、みんなと話をしたんですけど、以前よりもずっと楽しく感じました。」


浩之はにっこりと笑い、「それは素晴らしいことだね。少しずつでも、自分を出せるようになったんだ」と言った。


莉奈も嬉しそうに頷き、「由妃帆さん、きっとこれからもっと楽しくなるよ。自分を大切にすることで、他の人とももっと深くつながれるようになるんだから」と言った。


由妃帆は、その言葉に心から頷いた。「本当にそうですね。自分を出して、もっと自由に生きてみたくなりました。」


その時、由妃帆は心の中で決意した。これからは、もっと自分を表現し、自分を大切にしながら生きていこうと。恋愛も、もちろんその一部だった。自分の気持ちを素直に伝えることができれば、もっと深い関係を築けるに違いないと感じていた。


翌週、由妃帆は仕事の合間に、同僚の一人である皓貴に声をかけることにした。彼に対して、自分の気持ちを伝えたくなったからだ。皓貴は、普段から彼女に対して優しく接してくれる人だったが、由妃帆はそれ以上に深い関係を築きたかった。自分の気持ちを伝えることが、これからの二人の関係をより良いものにすると信じていた。


「皓貴さん、少しだけお話ししてもいいですか?」と、由妃帆は少し恥ずかしそうに声をかけた。


皓貴は驚いた様子で顔を向け、にこやかに「もちろん、何かあったのか?」と答えた。


由妃帆は、少しだけ深呼吸をしてから、話し始めた。「実は、ずっと伝えたかったことがあって。私、最近、少しずつ自分を出せるようになってきたんです。そして、それをきっかけに、あなたに対しての気持ちも素直に伝えたくなったんです。」


その瞬間、皓貴の顔が少し驚きで引き締まったが、すぐに優しく微笑んで言った。「そんな風に感じてくれること、嬉しいよ。」


由妃帆は、その言葉に胸が温かくなるのを感じた。彼が自分の気持ちを受け入れてくれたことで、これまで感じたことのない安心感と喜びを感じていた。恋愛に対しても、今までのような恐れや不安が少しずつ薄れていった。


「ありがとう、皓貴さん。」由妃帆は静かな声で言った。彼女の内心は、これまで自分が抑え込んできた感情が解放されるような、温かい気持ちで満たされていた。今まで感じたことのない感情が、胸の中で静かに広がっていくのを感じていた。


皓貴は、少し黙った後、やさしく答える。「自分の気持ちを言葉にするのは、勇気がいることだよね。でも、君が話してくれて嬉しいよ。」


その言葉に、由妃帆は深くうなずいた。これまで、自分の気持ちを言葉にすることがどれほど難しいことだったか、今さらながらに実感していた。特に、感情を表現することが怖かった。家で、あまり感情を見せてはいけないという教育を受けていた彼女にとって、他人に自分の気持ちを話すことは大きな挑戦だった。


しかし、浩之と莉奈のアドバイスを受け、少しずつその恐れを乗り越え始めていた。今日、皓貴に自分の気持ちを話すことで、その一歩を踏み出したのだと感じていた。


「私は、これからもっと自分を表現していこうと思っているんです。自分の気持ちを素直に伝えることが、これからの私にとって大切だって気づいたんです。」


皓貴はその言葉をじっと聞き、穏やかな笑みを浮かべた。「それはいい考えだね。君らしく生きることが一番大切だよ。」彼は一度、軽く息を吐いてから、続けた。「僕も、君がもっと素直に自分を表現することを応援するよ。」


その言葉に、由妃帆は胸がいっぱいになった。今まで、どれほど感情を抑えてきたのか、その結果、どれだけ多くのことを心にしまい込んでいたのかを、彼女は改めて思い知らされた。そして、これからは自分をもっと大切にし、自分の気持ちを素直に表現していこうと心に決めた。


その夜、由妃帆は帰宅すると、ふと家族のことを思い出した。家では、今でも母親の強い影響で感情を表現することを避けてきた。家族との関係においても、言いたいことがあってもそれを言葉にすることはなく、ただ黙って我慢することが多かった。しかし、今日の経験が彼女にとって大きな変化をもたらしていた。


「これから、家でも少しずつ自分の気持ちを言ってみよう。」由妃帆は自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。


翌日、由妃帆は朝食の席で、母親に自分の考えを少しだけ伝えてみた。普段は無口で、感情を表に出さない母親に対して、何か言いたいことがあればすぐに言うことができなかった。しかし、今日は違った。


「母さん、実は最近、ちょっと自分を変えようと思ってるんだ。」由妃帆は、少し緊張しながらも、ゆっくりと話を切り出した。「自分の気持ちをもっと表に出すようにして、恋愛や仕事でも積極的に意見を言うようにしてるんだ。」


母親は静かに食事を続けながらも、その言葉を受け止めている様子だった。「そうか、それは良いことだね。感情を抑えることだけが良いわけじゃないから。」


その言葉には驚いたが、同時に安心感も感じた。母親がその変化を受け入れてくれるかどうか心配だったが、予想以上に理解を示してくれたことに、由妃帆はほっと胸をなでおろした。


「ありがとう、母さん。」由妃帆は感謝の気持ちを込めて言った。そして、心の中で「これからはもっと、自分を大切にしながら生きていこう。」と再び強く決意した。


その後、由妃帆はますます自分の感情を大切にし、積極的に周囲とのコミュニケーションを取るようになった。仕事でも、意見を言うことが怖くなくなり、前よりも自信を持って同僚と話すことができるようになった。


そして、恋愛面でも、少しずつではあるが、自分の気持ちを素直に伝えられるようになり、由妃帆と皓貴の関係はさらに深まっていった。二人はお互いの気持ちを大切にし、より強い絆を築いていった。


第4章終

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