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心を繋ぐ瞬間~浩之と莉奈~  作者: 乾為天女


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第三部 第1章: 新たな仲間の登場 - 毅郎の挑戦

静かな午後のことだった。東京の賑やかな街角を歩いていた浩之と莉奈は、どこかで時間を忘れてしまったかのように、足元のペースをゆっくりと合わせていた。どちらかというと、ふとした瞬間に立ち止まり、周囲を見回すことが好きな二人だったが、この日は少しだけ、明日の仕事のことが気になっていた。


莉奈が目を向けた先には、街灯の下に掲げられた一枚のポスターがあった。鮮やかな赤色で、シンプルなフォントで「漫才コンテスト参加者募集!」と書かれている。


「漫才?」莉奈がそのポスターを指さした。


浩之はそれを見つめながら言った。「ああ、俺も一時期、ちょっとやってたんだよね。」


「えっ、漫才を?」莉奈は驚いた様子で浩之を見つめた。「まさか、浩之さんが?」


浩之は少し照れくさそうに肩をすくめた。「若い頃さ。すぐに辞めたけど、あの時の緊張感とか、ステージの感覚は今でも覚えてる。」


莉奈は興味深そうに続けた。「でも、浩之さんが漫才をしてたなんて…。ちょっと意外ですね。」


浩之は少し微笑みながら、遠くを見つめた。「まあ、ちょっとした思い出さ。でも、あの時のことは、今になっても時々思い出すんだよ。舞台に立つって、怖さもあったけど、やっぱり面白さがあった。」


莉奈は少し考え込んだ後、ポスターをじっと見つめた。「参加してみても面白いかもしれませんね。あなたの漫才見てみたいです。」


「それはもう、昔話だよ」と浩之は笑った。「でも、こうしてまた漫才の話を聞いて、ちょっと懐かしくなったな。」


そのまま二人は歩き続けたが、浩之の心の中にはどこかに残る懐かしい感覚があった。漫才、舞台で自分を表現すること。それは彼の人生の中でも大きな転機となった出来事だった。


しばらく歩いた後、二人はカフェの前で足を止め、ちょっとした休憩を取ることにした。店内は薄暗く、落ち着いた雰囲気が漂っていた。深呼吸をして店内に足を踏み入れると、ほっとした気持ちになった。


カフェの奥には、何人かの常連客が静かに会話をしており、その中にひときわ目立つ男性が一人座っていた。どこか不安げな様子で、手に持ったカップをじっと見つめている。彼の表情からは、強い不安や迷いの色がにじみ出ていた。


莉奈がその男性を見つけた瞬間、ふとその目を覚ました。「あの人、なんだか…」


浩之もその男性に気づき、少し驚いた。「ああ、ちょっと気になるな。見てると、何かしらの壁を感じるんだよな。」


その男性は、まるで自分を遮るように頭を下げ、無意識に周囲との接触を避けるような雰囲気を出していた。


浩之はその男性に近づくことに決め、軽く声をかけた。「すみません、何かお困りですか?」


男性は驚いたように顔を上げ、その目を一瞬だけ見開いた。「あ…いや、すみません。」


「何か困ったことがあれば話しても大丈夫ですよ。」浩之が穏やかに続けると、男性はようやく少しだけ顔をあげ、手を軽く振った。


「実は、ちょっと…」


「無理に話さなくても大丈夫です。」浩之が微笑むと、その男性も少しだけリラックスした様子を見せた。


「僕、毅郎です。」彼は小さな声で自己紹介をした。「実は、漫才師を目指しているんですけど…なかなかうまくいかなくて。」


莉奈はその言葉を聞いて、すぐに興味を持った。「漫才師?」彼女は少し驚きながらも、興味津々で聞き返す。


毅郎は少し顔を赤らめながら、うつむいた。「実は、昔、漫才コンテストに出て優勝を狙ったんですが、その結果、完全に失敗してしまって…。」


「そうだったんですね。」浩之は少し考え込みながら言った。「失敗って、確かに辛いけど、それから立ち直ることも大切だよ。」


「立ち直る…」毅郎はその言葉を反芻しながら、無理に笑顔を作ろうとしたが、うまくいかなかった。「でも、観客の反応が怖くて…舞台に立つことが、もう怖くてたまらないんです。」


莉奈は優しく言葉をかけた。「でも、それは誰でも経験することですよ。最初は怖いけれど、自分を出していけるようになった時、きっと何かが変わります。」


毅郎はその言葉を聞いて、少しだけ肩の力を抜いた。「でも、自分を出すことが…どうしてもできなくて。」


浩之は静かに言った。「失敗を恐れる気持ちも分かる。でも、そこを乗り越えない限り、次のステップに進めないよ。自分を表現することが、実は一番の成功なんだよ。」


毅郎はしばらく黙ってその言葉を噛みしめていた。「でも、怖いんです。もう一度、あのステージに立つのが…」


「だったら、今度は怖くても、その恐怖を乗り越えてみようよ。」浩之は言った。「君が本当に伝えたいことは、君自身が表現できることだよ。」


莉奈も続けて言った。「そして、観客とのつながりが大事なんです。あなたがどれだけ自分を出すか、きっとそれが観客にも伝わりますよ。」


毅郎は少しずつその言葉に影響され、心の中で変化を感じ始めていた。「自分を出すことか…」


浩之は微笑みながら言った。「それこそが本当の成功だと思うよ。」


毅郎は少しだけ勇気を持ち直したような顔をして立ち上がり、浩之と莉奈に感謝の意を込めて言った。「ありがとうございます…。」


その後、毅郎は自分の心に誓った。「もう一度、挑戦しよう。失敗を恐れず、今度こそ本当の自分を出してみよう。」


少しずつ、恐怖が和らいでいくのを感じながら、毅郎は再び舞台に立つ決意を固めたのだった。


第1章終

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