第二部 第10章: 茂雄と芽維子の新たな一歩
静かな午後、茂雄は再びそのカフェに向かっていた。今日は、芽維子に会うために約束した日だ。心の中には、少しの不安と、ほんの少しの期待が交錯している。
昨日、芽維子に自分の気持ちを伝えた。その瞬間、言葉にしきれなかった感情が溢れ、思わず素直になってしまったが、まだ心の中には何かが引っかかっている。茂雄はそれをうまく言葉にできていなかったような気がした。今日はその続きを話さなければならない。自分の本当の気持ちを、再度きちんと伝える必要がある。
カフェのドアを開けると、穏やかな空気が迎えてくれた。薄暗い店内には、ほんのりとした明かりが灯り、窓の外の風景が少しぼんやりと映し出されている。茂雄は、店内を見渡してから、すぐに目を落ち着ける。
すぐに、テーブルに座っている芽維子の姿が目に入った。彼女は、いつものように落ち着いた雰囲気で、静かに座っている。その姿に、茂雄は少しだけ安心感を覚えた。芽維子は今日も、普段通りの穏やかな表情をしていたが、その目には、少しの期待と不安が入り混じった色が浮かんでいた。
茂雄は、そっと席に座りながら、軽く微笑んだ。「今日は、ありがとう。」
芽維子は少し驚いた様子で顔を上げ、そしてにっこりと微笑んだ。「こちらこそ、昨日の話、ありがとう。あの日、あなたの気持ちを聞けて、本当に嬉しかった。」
その言葉に茂雄は、少し心が温かくなるのを感じた。「でも、あの日、伝えきれなかったことがあったと思うんだ。俺の気持ちを、もっとちゃんと伝えるべきだと思って。」
芽維子はその言葉を静かに聞き、少しだけ頷いた。「うん、私も感じてた。あなたが素直に気持ちを話してくれたこと、とても嬉しかったけど、何かが足りなかった気がしたの。」
茂雄はその言葉に、少し驚いたような顔をした。「足りなかった?」
「うん。なんというか、あなたの中にある感情が、まだ完全には出ていないような気がした。」芽維子はゆっくりと話しながら、茂雄の目を見つめた。「私は、もっとあなたが素直に自分の気持ちを表現してくれると、心から感じられるんじゃないかと思った。」
その言葉に茂雄はしばらく黙っていた。彼は自分の気持ちを伝えることの大切さを理解しているつもりだったが、やはり自分がどれほど心を開くべきか、どれほど深くまで自分を見せるべきかについては、まだ戸惑いがあった。
「確かに、俺はまだ怖いんだ。」茂雄は静かに口を開いた。「自分の本当の気持ちを、完全に表に出すことが。どこかで、感情を抑えてしまうんだ。」
芽維子はその言葉にじっと耳を傾け、少しだけ微笑んだ。「それは、無理もないことだよ。感情を表に出すことが怖いのは、誰でも同じ。でも、少しずつでも、少しでも素直に心を開いていければ、きっと二人の関係も深まっていくんじゃないかな。」
その言葉に茂雄は、深く息をついた。自分が求めていたのは、感情を抑えることではなく、素直にそのままの自分を表現することだ。芽維子が言うように、少しずつ心を開いていくことこそが、二人の関係を本物にするための第一歩なのだろう。
「ありがとう、芽維子。」茂雄は改めてその言葉を口にした。彼の声には、昨日とはまた違った深い感謝の気持ちが込められていた。「君に伝えたかったのは、ただひとつ。俺は、君ともっと深く繋がりたいと思っている。」
芽維子はその言葉に、少しだけ目を潤ませながら答えた。「私も、茂雄さんともっと繋がりたい。あなたの気持ちが本当に伝わったから、これからはお互いに素直になっていこうと思う。」
その瞬間、茂雄の心は軽くなり、少しずつ自分を解放する感覚を覚えた。芽維子もまた、少しずつ自分を表現し、心を開こうとしている。二人は、今まさにその過程を歩んでいるのだ。
茂雄は深く息をついてから、静かに目を閉じ、心の中で決意を新たにした。「これからは、もっとお互いを知り、もっと素直になっていこう。君となら、きっとそれができる気がする。」
芽維子は微笑みながら頷き、「うん、私もそう思う。」と答えた。
その後、二人はしばらく穏やかな時間を過ごした。言葉は少なかったが、その静かな空間にはお互いの思いがしっかりと伝わっていた。何も言わずとも、二人の心は確実に通じ合っていた。
第二部 第10章 終




