第二部 第7章: 茂雄と芽維子の関係
午後の静かな街の通り。茂雄は歩きながら深く考え事をしていた。今日こそは芽維子に自分の気持ちを伝えよう、そう決心していた。しかし、どこかで踏みとどまるような気持ちがあることも、彼自身よくわかっていた。感情を表に出すことの難しさ、それに対する恐れが、心の中に重くのしかかっている。
彼が以前から大切にしてきた「冷徹で理論的な自分」という姿勢を崩すことが、どれだけ勇気のいることかを理解している。だが、茂雄はそのままでいるわけにはいかないと感じていた。芽維子に対して持っている思いを、素直に伝えたくなった。そして、心の中で決意を固めた。
カフェに到着すると、茂雄はすぐに店内を見渡した。芽維子は、約束の時間より少し早く到着していたようで、静かに席に座っていた。彼女の表情には少し緊張した様子が見て取れるが、それでもどこか安心感を感じさせる落ち着きがあった。
茂雄は深呼吸をし、ゆっくりと彼女に近づいた。席に着くと、芽維子は彼を見て微笑んだ。「茂雄さん、今日はありがとう。少し緊張しているけど、楽しみにしていたの。」
茂雄は微笑み返し、軽く頷いた。「こちらこそ、ありがとう。少し、話をしたいことがあって。」彼の声は穏やかでありながらも、少し硬い。
芽維子はその言葉に少し驚いたようだが、すぐに表情を和らげて、優しく答えた。「何かあったの?」
茂雄は少し言葉を選ぶように沈黙し、その後、ゆっくりと言葉を紡いだ。「実は、ずっと考えていたんだ。君に対して、どうしても伝えなければならない気持ちがある。」
芽維子はその言葉を聞き、少しだけ目を丸くした。しかし、彼女は焦ることなく、茂雄の言葉を待つように静かに見守っている。
「俺は、今まで感情を抑え込んできた。仕事でもプライベートでも、冷静でいることが大切だと思っていた。しかし、君に対する気持ちを抑えることができなくなって、今日こそはちゃんと伝えたくて。」茂雄の目は真剣そのもので、その目に宿る感情に芽維子は少しだけ驚きの表情を浮かべた。
芽維子は、しばらく黙って茂雄の言葉を噛みしめていた。その表情には迷いがあるようにも見えたが、やがて静かに口を開いた。「茂雄さん、私もあなたのことを気にかけていました。最初はあなたが冷たく感じて、近づきづらいと思ったけれど、最近はあなたがどんどん変わってきているのを感じていました。」
茂雄はその言葉に少し驚き、さらに真剣に彼女を見つめた。「本当に…?」
「ええ。」芽維子は静かに答え、少しだけ顔を赤らめながら言った。「あなたが他の人と向き合う姿、少しずつ心を開いているように見える。それがとても新鮮で、嬉しい気持ちにもなっていました。」
その言葉を聞いた茂雄は、少しだけ緊張が解けたように感じた。彼の心の中で、伝えたいことが少しずつ整理されていく感覚があった。芽維子が自分の変化を感じ取ってくれていること、それだけでも少し心が温かくなった。
「ありがとう、芽維子。」茂雄は感謝の気持ちを込めて静かに言った。「俺も、もっと素直になりたいと思っているんだ。」
芽維子はその言葉に優しく微笑み、頷いた。「私も、少しずつ自分の気持ちを大切にしていきたいと思っています。自由と責任のバランスを取ることは難しいけれど、それができるように、これからも努力していきたい。」
茂雄はその言葉を受け入れ、少しだけ安心した表情を浮かべた。「お前ならできると思う。自由を大切にしながらも、他の人との調和を取る方法を見つけていけるさ。」
芽維子はその言葉に心からの笑顔を見せ、ゆっくりと頷いた。「ありがとう、茂雄さん。あなたとこうして話すことができて、本当に良かったと思う。」
その後、二人は少しだけ静かな時間を共有し、互いの思いを感じながら過ごした。茂雄は芽維子に対して伝えたかった気持ちを素直に表現することができ、彼女もまた、自分の考えをしっかりと言葉にすることができた。二人の間には、確かな絆が少しずつ築かれていくようだった。
カフェを後にする時、茂雄は少しだけ肩の力を抜き、心が軽くなったのを感じた。これからどうなるかはわからないが、少なくとも今日は一歩踏み出せたことに、少しの満足感を覚えていた。
第二部 第7章 終




