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第二部 第4章: 芽維子の自由と責任

その日、午後のカフェはいつも通り静かで、柔らかな光が窓から注いでいた。浩之と莉奈は、窓際の席に座り、互いの話をゆっくりと交わしていた。店内には他にも数組の客がいて、静かな音楽が流れ、コーヒーの香りが漂っていた。時間は、まるで何も変わることなく、穏やかに進んでいくように感じられた。


「最近どう?」莉奈がふと顔を上げて浩之に尋ねると、浩之は少し驚いたように微笑んだ。


「うーん、まあ、仕事は相変わらずだな。でも、たまにはこうしてゆっくりと話す時間も大事だよね。」浩之は肩をすくめて言った。


「そうね。忙しさに追われる日々だと、こういう静かな時間が必要だって思う。」莉奈も優しく笑って答えた。


その時、ふと入り口のドアが開く音がして、店内に一人の人物が入ってきた。その人物は少しだけ足を止め、店内を見渡しているようだった。細身でスラっとした姿勢、そして少し暗い印象を与える服装。浩之と莉奈が目を向けると、その人物が二人に気づき、微笑みながら近づいてきた。


「お久しぶりね。」芽維子が優しく声をかけた。彼女の目は穏やかで、まるで穏やかな風のように二人に馴染んでいた。芽維子はそのまま席に座り、ゆっくりとコーヒーを頼んだ。


「久しぶりだね、芽維子さん。元気そうで何より。」莉奈が微笑んで言った。


芽維子は少し笑みを浮かべ、しかしその表情には少しだけ曇りが見えた。「まあ、元気って言えば元気だけど…最近、色々と考えることがあって。」彼女は少し黙り込むと、視線をカップに落としながら続けた。「自由っていうのは、確かに大事だと思う。でも、自由を重視しすぎると、周りとの関係が壊れてしまうんじゃないかって、最近は感じている。」


浩之と莉奈は、少しだけお互いを見つめ合った。芽維子が悩んでいることは予想していたが、彼女がこうして自分の気持ちを打ち明けてくるのは、少し珍しいことだった。


「自由を守るって、確かに素晴らしいことだよ。でも、自由と責任は一緒に考えないと、バランスが崩れてしまうことがあるよね。」浩之が静かに言った。


芽維子はその言葉に少しだけ目を見開き、そしてすぐに頷いた。「そう、自由は大事だけど、最近はそれが他人との関係にどう影響しているのかを考えることが増えたの。建築の仕事をしていると、自分の意見を貫くことも多いけど、その結果、周りの人たちとぶつかってしまったり、理解されなかったりすることがあって…。最近、そのことが気になって仕方がないの。」


莉奈はその言葉を静かに受け止め、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと答えた。「自由であることは素晴らしいけれど、それが他者を傷つけることがあるんだとしたら、それは少し考え直す必要があるかもしれない。でも、自由であることを諦めるわけじゃなくて、他の人たちとどう調和していくかを考えることが大事なんだと思うよ。」


芽維子はしばらく黙ってその言葉を受け入れていた。彼女の目には、少しずつ気づきの色が浮かんでいるようだったが、それでも何かを決断することに迷いを感じているような様子だった。


「自由を大切にしたい気持ちはあるけど、他人との調和をどう取るべきか、それがうまくできなくて…。周りに流されてしまったり、反発したりしてしまうことが多くて。」芽維子は少し顔をしかめながら言った。


浩之はその言葉を受けて、少しだけ微笑んだ。「自分を大切にすることは大事だけど、周りとのバランスを取ることも重要だよ。もし、周りと調和を取ろうとするあまり、自分を犠牲にしてしまうようなことがあれば、それはきっと疲れてしまうだろうね。大事なのは、自分の中でのバランスを見つけることだと思う。」


「バランス、か。」芽維子はその言葉を繰り返しながら、ゆっくりと顔を上げた。「自由を守りながら、周りと調和を取る方法…。それが今、私にとって大きな課題なんだと思う。」


「きっと、芽維子さんならできるよ。」莉奈は微笑んで言った。「自分の考えを大事にしながらも、他の人の意見を受け入れて、少しずつ歩んでいけばいいんだよ。」


その言葉に、芽維子は少しだけ安心した様子で頷いた。「少しずつ、自分のペースでやってみるわ。」そう言って、彼女は静かに目を細めた。


その後、二人はしばらく静かに話を続けた。芽維子は自分の内面で少しずつ変化を感じているようだった。彼女が自由と責任のバランスを取るために悩んでいることは、これからの成長に繋がる大きな一歩だと浩之も莉奈も感じていた。


カフェを出る時、芽維子は少しだけ軽やかな足取りで歩き出した。以前のような迷いを感じさせない、前向きな表情を浮かべて。彼女がこれからどのように成長していくのか、それを見守ることができるのは、浩之にとっても嬉しいことだった。


第二部 第4章 終

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