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第二部: 第3章: 茂雄の冷徹な姿

午後の静かなカフェの中、浩之はゆっくりとコーヒーをすする手を止め、少しだけ背筋を伸ばした。カフェの落ち着いた雰囲気が、外の喧騒を遮断してくれ、浩之は久しぶりに自分だけの時間を満喫していた。通り過ぎる時間に、どこかしらのんびりとした感覚を覚えながら、ふと店内の静けさに耳を傾けていた。


その時、ふと目の前の扉が開き、店内に入ってきたのは、どこか冷徹な雰囲気を漂わせる人物だった。彼の姿を見た瞬間、浩之は思わず目を細めた。「茂雄…」と、つぶやいた。


茂雄はその名を呼ばれて、ゆっくりと振り返った。普段通り、冷静で無駄のない動きで店内を見渡し、浩之を見つけると軽く会釈をした。「久しぶりだな、浩之。」その声には、いつもの冷徹さがにじみ出ており、表情もあまり変わらなかった。


浩之は立ち上がり、茂雄を迎え入れるように声をかけた。「おお、茂雄か。久しぶりだな。少し座らないか?」


茂雄は静かに頷き、軽く歩を進めて浩之のテーブルに座った。その動きには無駄がなく、まるで周囲の喧騒がすべて無視されているかのようだった。やはり茂雄は冷静で理論的な人物で、感情を表に出すことなく、淡々とした姿勢を崩さない。


「どうだ、最近は?」浩之が質問を投げかけると、茂雄は少し黙った後、淡々と答えた。「仕事は順調だ。だが、最近少しだけ迷っていることがあってな。」


浩之はその答えに少し驚いた。茂雄が迷っている? それは普段の茂雄なら考えられないことだった。しかし、その表情にはいつも以上の重さが漂っており、何かを抱えている様子が伺えた。


「迷っている? それはどういうことだ?」浩之がさらに深く聞くと、茂雄は少し間を置いてから、ゆっくりと語り始めた。


「芽維子のことだ。」茂雄は低い声で言った。その言葉に、浩之は思わず目を見開いた。芽維子とは茂雄と同じ職場で働く人物であり、彼の同僚でもあった。だが、茂雄がその名前を口にすることはほとんどなかった。


「芽維子…」浩之はその名前を繰り返しながら、茂雄の顔を見つめた。


「俺は、ずっと冷徹で理論的であろうとしてきた。感情を抑え込み、仕事に集中してきた。しかし、芽維子に対して、どうしても抑えきれない感情が湧き上がる。」茂雄はその言葉を口にするのもためらうかのように、少しだけ目を伏せた。


浩之はしばらく黙って茂雄の言葉を聞き、やがてゆっくりと話し始めた。「感情を抑え込み続けるのは、確かに大変だ。でも、抑え込んでいるだけでは、心の中にどんどん葛藤が生まれていくんじゃないか?」


茂雄はその言葉に少しだけ反応し、目を上げて浩之を見た。その目には、少しだけ動揺が混じっているようだった。


「感情を出すことが怖いんだ。」茂雄は静かに続けた。「自分が感情に流されるのが怖いし、何よりも感情を表に出すことで、仕事にも支障をきたすのではないかと思う。」彼は目を伏せたまま、心の中で葛藤を続けているようだった。


浩之はその姿を見ながら、少し考え込んだ。「わかるよ、その気持ち。仕事においては感情を表に出さない方が効率的だと感じることもある。でも、感情を抑え込んでいると、結局は自分が壊れてしまうんじゃないかと思う。」


茂雄はその言葉を聞きながら、少し顔を上げた。「でも、もし感情を表に出してしまったら、どうなるかわからない。芽維子に対して気持ちを伝えることで、関係が壊れるのではないかと思って怖いんだ。」


浩之は静かに答えた。「感情を伝えることが必ずしも関係を壊すわけじゃない。むしろ、素直に気持ちを伝えることで、お互いの理解が深まることだってある。」


茂雄はその言葉を深く考え込んでから、しばらく黙っていた。「伝えることで、関係が深まるのか…。」彼はその言葉に少しずつ心を動かされているようだった。


「少しずつでいいんだ。」浩之は穏やかな声で続けた。「感情を表に出すことは恐怖でもあるけれど、その恐怖を乗り越えることで、もっと良い関係が築けるんだと思う。」


茂雄はその言葉に少しずつ自分の中で何かを感じ取ったように見えた。冷徹に物事を進めてきた自分を振り返りながら、少しだけ心の中で扉を開くような気持ちを感じ始めているようだった。


「少しずつ…」茂雄はつぶやいた。その言葉には、何かを受け入れようとする決意が込められていた。


浩之は微笑みながら、茂雄の決意を感じ取った。「それが大事だよ。自分の感情に素直になることが、きっとこれからの関係をより良いものにするんだ。」


第二部 第3章 終


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