第二部 第2章: 友伽との偶然の出会い
浩之は、カフェで峻一と再会した後、少し歩くことに決めた。日差しはまだ柔らかく、風が心地よい午後だった。通りの先には小さなアートギャラリーがあり、ふとその方向に目を向けた。ギャラリーでは新たな展示が始まったばかりのようだったので、好奇心からそのまま足を踏み入れることにした。
ギャラリーの扉を開けると、静かな空間が広がっていた。壁には様々なアート作品が並び、来場者たちはゆっくりとその前で立ち止まり、じっくりと鑑賞している。浩之もその一員となり、目の前の絵やオブジェを見て回りながら、作品の持つ雰囲気に触れていた。
ふと、彼の目に留まったのは、一角に置かれた工芸作品だった。そこには、木材を使った繊細なオブジェクトが並べられており、どれも温かみを感じさせる作品だった。浩之はその美しい形に引き寄せられるように歩み寄り、じっくりと見入った。
その時、ふと耳にした声に反応した。「あれ、浩之さんじゃないですか?」
声の方を見ると、少し驚いた。そこには、数ヶ月前にカフェで話をしたことのある友伽が立っていた。彼女は、あの時と変わらず、少し控えめで、おっとりとした雰囲気を漂わせていた。
「友伽さん…!こんなところで会うなんて。」浩之は笑顔で声をかけた。
友伽は驚いたように目を丸くし、その後、安心したような微笑みを浮かべた。「浩之さん、こんにちは!こんなところでお会いするなんて、驚きました。」
浩之はその穏やかな笑顔を見て、少し安心した。「ここで展示しているんですか?」
友伽はうなずきながら、「はい、今回は少しだけですが、自分の作品を展示させてもらっています。」と答えた。
その言葉に浩之は驚いた。「自分の作品を展示するなんて、すごいじゃないですか!」と声をかけると、友伽は少し照れくさそうに微笑んだ。
「まだまだ未熟ですけど、少しずつ進んでいこうと思って。」友伽は目の前の作品を見ながら、穏やかな口調で話した。
浩之はその作品を見ながら、友伽の表情に違和感を覚えた。確かに彼女の作品は素晴らしく、どれも心を引きつけるものがあった。しかし、彼女の目にはまだ不安の色が見え隠れしているように感じた。あのカフェで会った時と同じように、自己表現に対する恐れがあるのだろうか。
「友伽さん、何か悩んでることがあるんじゃないですか?」浩之は心配そうに声をかけた。
友伽は少し驚いたように顔を上げ、それから小さくため息をついた。「実は、展示することが決まってからずっと緊張していて…自分の作品に自信が持てないんです。周りの人たちと比べてしまって、うまく伝わるか不安で。」友伽の目には、一瞬、迷いの色が浮かんだ。
浩之はその言葉をじっくりと受け止めながら、穏やかな声で答えた。「でも、友伽さんの作品はすごく温かみがあって、素敵だと思うよ。自分の気持ちを込めて作ったものが伝わるんじゃないかな。」
友伽は少しだけ目を見開き、その言葉を受け入れたかのように静かに頷いた。「そう言ってもらえると、少し安心します。でも、自分がどう感じるかよりも、他の人がどう感じるかが気になってしまって。」彼女は視線を下に向けながら、ぽつりと続けた。
「他の人がどう思うかって、確かに気になるよね。でも、最初に自分の気持ちを大切にすることが大事なんじゃないかな。自分が大切にしているものが、他の人にも伝わるんだと思う。」浩之は、少しずつ自分の気持ちを言葉にしながら話した。
友伽はその言葉に少し驚き、そして少しずつ表情を柔らかくした。「自分が感じたことを大事にしてみる、ですね。うまくできるかはわからないけれど、少しずつやってみます。」
浩之はにっこりと微笑んだ。「その一歩が大きな進歩だよ。無理せず、少しずつ自分を表現してみてね。」と励ました。
友伽は、少し照れくさそうに笑って答えた。「ありがとうございます、浩之さん。もっと自分の気持ちに素直になれるように、少しずつ挑戦してみます。」
二人はその後、しばらくギャラリーを歩きながら、作品について話し合った。浩之は、友伽が自分の意見を少しずつでも表現し、自己肯定感を高めていく様子を感じていた。彼女が次第に自信を持ち始めるその過程が、浩之にとっても大きな意味を持っているように思えた。
そして、ギャラリーを出るとき、友伽は一歩前に進んだような、少し晴れやかな表情をしていた。その目には、自己表現への少しの勇気と、未来に向かって進んでいこうとする力強さが感じられた。
第二部 第2章 終