第9話 手紙の配達依頼
俺達は街道を西進し、警戒しながら歩いている。
町から一歩外へ出たら、そこはもうフィールドだ。何があるか解らない。
予想される障害はやはりモンスターとのエンカウント、遭遇戦。
この辺りに生息している魔物は、ゴブリンにオーク、たまにオーガの目撃情報があるらしい。
警戒しなければならない理由は他にもある、同じ人間族の山賊や海賊といった賊だ。
こいつ等は出会ったら最後、魔物同様容赦なく殺しに来るので、迎え撃たなければならない。
山賊などの賊達は自分達が犯罪者である事を認識している、その為、捕まったら最後、処刑される事を自覚している。
なので、捕まらない様に立ち回り、出会った敵は容赦なく殺す。
どうせ捕まれば処刑なので、悪さもエスカレートしていき、殺しに略奪、人身売買などに手を染める。
まぁ、ぶっちゃけ犯罪者というのは悪者、悪人だな。
だから、こちらも容赦なく仕留める。じゃなきゃこっちがやられるからだ。
俺の居た村も、フォルテたちの村も、そういった賊達に酷い目に遭わされた。
容赦など、しようもない。出来る筈も無い。気を引き締めて事に当たろう。
街道を進んでいると、道の途中に休憩所みたいなのがある。水を確保するのに役立つ場所だ。
「うーん、見晴らしも良いな、よし! ここで一旦休息を取るぞ。」
「賛成です。」
「あ~、もうくたくた、足が棒だわ。」
「メロディは相変わらず歩き慣れてないな。」
「ほっといてよ、フォルテこそホントは足が痛いくせに。」
「確かに痛いが、男は我慢なのだよ。」
フォルテとメロディが会話し、俺とバーツさんで荷物をおろし水筒を出す。
「お前等水汲めよ、先はまだ長いぞ。」
バーツさんが二人に言い、俺は自分の分の水筒に水を補給する。
その間も喉を潤し、人心地付く。
「ここにある水って、どこから引いてるんですかね?」
俺が気になって聞いてみたら、バーツさんが答えてくれた。
「近くに川が流れているんだよ、そこから引いてるんじゃないか。」
「川ですか、じゃあこの先その川を渡る必要がありますね。」
「ああ、この先一本道が続いて、橋が架かっているんだよ。」
「なるほど。」
うーむ、橋か。一本橋という事は、待ち伏せには絶好の場所だな。
そういやあ、何かのシナリオに一本橋の戦いってのがあったな。
油断しない方が良いな、こりゃ。
みんなは水で喉を潤し、道具袋から干し肉を出して食べている。
仲間の事を改めて見る。
フォルテは、まぁハッキリ言ってイケメンだちくしょう。
俺と同じような鉄の剣を提げている、鎧などの類は革鎧を着けている。
「その剣はどうしたんだ?」
「漁村の自警団から借りて来た。」
なるほど、武器を買うお金は無いよな、普通の村人は。
鎧も高いし、革鎧を着ているあたり、躱して攻撃というスタイルだろう。
青髪に高身長、顔もイケメン、きっと女にモテモテだった事だろう。
メロディは俺と同い年くらいだと言っていた、17歳の女の子だ。
杖を装備しローブを着ているから、傍から見たら魔法使いに見えるかも。
だが彼女は精霊使い、いわゆるエレメンタルユーザーという奴だ。
回復魔法も多少使えると言っていた、後方支援要員だな、パーティーには一人は必要な人員だ。
見た目はロングヘア―をツインテールにして、金髪に青目、身長はちょっと低い。
見た感じじゃ、かなり可愛い部類に入るんじゃなかろうか。
はっきりとモノ言うスタンスは、生まれの良さとは言い切れないが、きっと性格なのだろう。
長閑な漁村で育ったから、おおらかな心根をしている、きっとモテモテなのだろう。
「なあメロディ、精霊使いってどんな魔法が使えるんだ?」
ちょっと気になっていたので、メロディーに聞いてみた。
「私はまだまだ駆け出しだから、初級精霊しか使役できないわ。風の精霊シルフと契約して、ウインドカッターを使えたり、あとは風魔法で弓矢の軌道を変えたりとか、そんな感じよ。あと、私のお母さんがプリーストだったから、ヒールの回復魔法を使えるわね。」
なるほど、やはりメロディは後衛向きだ、遠距離魔法攻撃のウインドカッターを使い、傷付いた仲間を癒す魔法「ヒール」の使い手でもある。中々万能だな。
バーツさんは30歳のベテラン冒険者だ、斧使いと言っていたから斧戦士だろう。
気の良いおじさんと言えばそうなんだろうけど、この歳の人におじさん呼ばわりはしない方が良い。
30歳はまだ若い、まだまだ現役バリバリの前衛職だ。
この一党は、前衛の三人、後衛一人。バランスは良い方だと思う。
俺とフォルテが剣で武装しているので前衛、バーツさんも斧戦士なので前衛。
メロディが魔法で後方支援、回復も務める。うん、良いバランスだと思う。
この中で唯一金属鎧を着ているのがバーツさんだ、元傭兵と言っていたが当時の事を話したがらない。
まぁ、色々と根掘り葉掘り聞くもんじゃない、過去を詮索しないってのが冒険者の流儀ってヤツかもな。
「バーツさん、あとどれ位で目的地に着きますか?」
「そうさな、歩きでここから王都まで二日、その途中にある町までだから、ざっと見てあと一日位じゃないか?」
「じゃあ、今日は野宿ですね。」
「そうなるな、何だ? 野宿は初めてか?」
「ははは、実はそうなんですよ。村からあまり外へ出なかったもので。」
「はっはっは、そうかそうか、じゃあ野宿の基本を教えておこう。」
「はい、よろしくお願いします。」
俺はバーツさんに向き直り、聞く姿勢をとる。
するとフォルテもメロディも同じように聞く姿勢をした。
「いいか、野宿ってのはどこでも寝れなければならない。そういう体に慣れさせる必要があるんだ。どこでも寝れるってのは大事だぜ。」
「どこでも寝れる体ですか、村での生活は基本ベッドでぐっすりですけど、偶に外で草に寝転んで寝る事もありましたが。」
「ああ、そいつは良いな。草の上で寝る、基本だ。だが草が生えてない所もある。そういう時はズバリ、マントの出番って訳だ。」
「「「 マント? 」」」
俺とフォルテ、メロディがハモって聞き返す。
「マントって、今バーツさんが纏っている布ですよね?」
俺が聞くと、バーツさんは自分の羽織っているマントを翻し、見せびらかす様にして答えた。
「そうさ、こいつさ、このマントは俺がまだ駆け出しの頃から愛用しているマントで、共に苦楽を乗り越えた俺の愛用品だ。」
そのマントは薄茶色をしており、所々擦り切れていたが、紛れも無くバーツさんと共に歩んできた年期を感じる品物だった。
うーむ、俺もああいうマントが欲しい。マントってなんかカッコいいじゃんね。
「私は丈の短いマントを羽織っているけど、それでも自分の布団代わりになる大きさは無いわね。大きいマントが羨ましいわ。」
メロディがそんな事を呟き、自分のマントを軽くヒラリと翻す。
見た目が可愛いので、メロディはチャーミングだと思うが、それを口に出すには今は止めた方がいいだろう。
知り合ったばかりで、そう言う事を言うのは何だかチャラい。
俺の性格からいって、もっと真剣になるべきだと思うが、あまりそれを表に出すのも気が引ける。
一休みしたところで、バーツさんが皆に声を掛ける。
「よーし、十分休息は取ったな、準備を整えて早速移動しよう。まだ半分も来ていないからな、今日中に半分の距離を稼ぎたい。」
「「「 了解です。 」」」
「おう、良い返事だ。」
また旅支度を整えて、背負い袋を背負いながら辺りを見回す。
草原地帯が何処までも続いていて、気持が良い。
天気も快晴、雨が降って来る様子も無い。
一応雨が降って来ても良い様に外套を持参してきているが、まだ出番は無い。
「よーし! じゃあしゅっぱーつ!」
バーツさんの掛け声で移動を開始し、俺達ソードアックスは行動を再開した。
目指すは隣町の自警団本部、そこへ向かって進む。
途中、水を補給できる場所は無いとの事だ、ここが休憩ポイントだったのか。
俺たちはまた、街道を西進し、目的地へ向けひたすら歩く。
今の所、モンスターや賊とのエンカウントは無い。
今のところは、だが。