第8話 冒険者ギルド ③
「ここでクサクサしていても始まらん、一丁冒険者依頼でも見繕って仕事でもしたらどうだ?」
バーツさんがみんなを元気づける為に、依頼をしようという事を言い出した。
四人で依頼票が張り出されている掲示板まで行き、何かないか色々見ている。
といっても、俺はFランクなので、Fランクの依頼しか受けられないが。
フォルテもメロディも俺と同じ冒険者登録をしたばかりらしく、Fランクの冒険者だ。
ベテラン冒険者のバーツさんはDランク、助言をする為に俺達と一緒に行動しているだけみたいだ。
「お前等Fランクなんだろ? だったら魔物の討伐はまだ無理だな。」
「逆に聞きたいんですが、Fランクの依頼って何があるんですか?」
俺が聞き、バーツさんが答えるが、掲示板を見る目は既にFランク依頼の所にしか向いてない。
「ん、色々あるぞ、例えばこれだ、薬草採取に癒しの果実の収穫、皿洗いにドブ掃除、他にも草むしりなんてのもあるな。」
うーむ、どれも今一ピンと来ないな。
まぁ、Fランクに回って来る依頼の仕事なんてこんなもんか。
メロディは迷子のペット探しに興味が惹かれたのか、その依頼をじっと見ている。
フォルテは隣のEランク依頼を見て、唸っている。
「やはり本格的な依頼はEランクからだな、早く昇格したいものだ。」
「焦るなよフォルテ、先ずはFランクの依頼をこなして、実績を作るんだ。」
バーツさんはフォルテに冒険者の教訓を伝えていた。
うーむ、色々依頼票を見ているがどれも今一だな、もっとこう、派手な依頼は無いもんか。
俺達が依頼票の辺りをうろついていたら、ギルド職員の人が来て新たな依頼票を貼りだした。
俺達はすぐさまその依頼票を見に行く、そこには………。
「おい見ろ、手紙の配達依頼が出てるぞ。」
「こういうのはよくある依頼なんですか?」
「良い質問だなメロディ、手紙の配達依頼はその都度張り出される。つまり、今必要な案件って訳だな。」
手紙の配達依頼を改めて見てみる、依頼内容は隣町まで手紙を届けに行って欲しいというモノだ。
依頼人はこの町の領主、送り先は隣町にある自警団本部へ。
なるほど、領主様の遣いとしての依頼らしいな。
報酬は銀貨3枚、これは相当良い仕事みたいな気がする。
「バーツさん、報酬は銀貨3枚らしいですよ。どうですか?」
「うん、悪く無い、寧ろ美味しい仕事だ。だが条件がある。」
条件? そんな事は依頼票に書かれていないけど。
「解らんか? 今この辺りには山賊や海賊がうろついている。加えてモンスター共も平常運転のように闊歩している。」
「危険という事は理解出来ます、ですが銀貨3枚は中々良い報酬と思いますが。」
俺が言うと、バーツさんは顎に手を添え、何やら考え込んでいる。
フォルテもメロディもこの依頼を受けようと、俺を見て頷いている。
「危険だが、まぁお前等が一党を組めば大丈夫なんじゃないか?」
「俺達がパーティーを、ですか?」
俺とフォルテ、メロディが顔を見合わせ、お互いを見定める。
「まあ折角知り合ったし俺は構わないが、メロディはどうだ?」
「私も良いわよ、ジョーとパーティーを組んでも。同じ様に賊に被害を被った村人仲間って事で。」
フォルテもメロディも、俺とパーティーを組む事に賛成らしい。
「俺も良いぜ、フォルテ、メロディー、二人共よろしくな。」
俺も返事をし、二人に握手を求め、がっしりと握手をする。
「決まりだな、だがもう一つ問題がある。この依頼はEランク依頼だ。そこで相談
だが、俺を仲間に加えないか? 俺は元傭兵でな、賊相手に遅れは取らん。どうだ?」
「バーツさんが仲間に入ってくれれば大丈夫だと思います、よろしくお願いします。」
「おう! 決まりだな、じゃあその依頼票を剥がして受付へ持って行け。依頼を受けようぜ。」
「はい。」
こうして俺達は、共にパーティーを組み、依頼票を剥がして受付カウンターへ持って行った。
受付で対応してくれたのは、美人受付嬢だった。
「こんにちは、この依頼を受けたいんですが、それとパーティー申請をしたいのですが。」
「はい、ではまず、パーティー申請を受け付けます。誰が仲間になりますか?」
受付嬢から質問されて、俺達は相談しつつ答える。
「パーティーリーダーはバーツさんで決まりだよね、後はそれぞれの名前を登録すればいいんだっけ。」
「それで間違いない、しかし、俺がリーダーで良いのか?」
「バーツさんはベテラン冒険者ですからね、ここはリーダーをやって貰わないと。」
「はいはい、解ったよ、面倒くさいが仕方ねえ。やってやるよ。お前等の面倒ぐらいは見てやるよ。」
「流石ベテラン、頼りにしてます。」
「おだてても何もでねえぞ、メロディー。」
パーティーリーダーはバーツさんで決まった、後はパーティー名だが、これが中々決まらなかった。
みんな自分の意見を押し通そうと、自分の出した案を引っ込めない。
「俺がリーダーなんだからバーツ遊撃隊、これだろ。」
「いやいや、鉄槌団。これでしょ。」
「そんなの可愛くない、ファンシーガーデンにしましょうよ。」
「何か気が抜けるな、それ。」
「ここはやはり、ソードアンドスミスでいこう。」
「俺、斧使いなんだが、やっぱバーツ遊撃隊だろ。」
あーでもないこーでもないと、みんな言いたい放題だ。俺はどうしようかな。
「なあ、じゃあソードアックスでどうだ?」
「私、剣も斧も持ってないんだけど。ファンシーにしましょうよ、ね。」
だが、俺の意見が男に突き刺さったのか、ソードアックスが思いのほか人気があるみたいだ。
「もういいよ、ソードアックスにしよう。」
「え~、だって私、精霊使いだし、杖持ってるし。」
「はいはい、決まり。メロディ、もう諦めろよ。」
「もう、フォルテは剣が使えるからいいでしょうけど、もう良いわよそれで。」
メロディは渋々といった様子だったが、概ね意見が纏まった。
「じゃあ俺達のパーティー名はソードアックスで決まりという事で。」
「異議なし、それでいこう。」
やれやれ、ようやくパーティー名が決まり、先に進む事が出来そうだぞ。
受付嬢にパーティー名を告げ、登録が完了した、その後は依頼を受ける流れだ。
「では、ソードアックスさんが手紙の配達依頼を受けるという事で良いですか?」
「はい、その依頼を受けます。」
「解りました、それでは宜しくお願いします。くれぐれも油断しないようにしてください、山賊が目撃されておりますので、もし遭遇したら対処して下さいね。」
俺は受付嬢から手紙を受け取り、背負い袋に仕舞いつつ返事を返す。
「はい、解っています、下手に手心を加えると痛い目に遭いますからね。」
「解っているのならば、こちらから言う事はありません。どうかお気を付けて。」
受付嬢に見送られて、俺達ソードアックスの面々は冒険者ギルドを後にした。
出発前に道具屋へ寄り、回復薬のポーションを買って袋に入れる。
武器屋にも寄ったが、武器の値段は高く、とても手が出なかった。
「やっぱり武器の類は高価ですね、どれも新品だし、最低銀貨20枚はしますね。」
俺達が会話していると、店のおやじが出て来た。
「そりゃそうじゃ、自分の命を預ける道具にケチをつけるもんじゃない。多少高くても買っていくもんじゃわい。」
ドワーフのおやじは自分の仕事に自信があるらしく、どうも俺達をまだまだ新米冒険者としかみていない。
まぁ、確かに駆け出し冒険者なのは認めるが、いつか昇格して立派な装備を身につけてやると思う今日この頃だった。
「それじゃあ出発するぞ、目指すは隣町のタルトだ。歩いて2日の距離だが、魔物やら賊やらの襲撃があれば、その限りではない。みんな、油断せず、慎重に行こう。」
「はい、了解です。リーダー。」
「そのリーダーっての、やめてくんない? バーツで良いよ。」
「解りましたバーツさん。よろしく頼みます。」
「おう! んじゃ、行くか!」
こうして俺達は、マーロンの町を出て一路、タルトの町へ向かうのだった。
手紙を届けるだけの依頼だが、お金を稼がないとならない理由がある以上、仕方が無い事だった。
「お金はあるに越した事はないからね。」
「だよね。」
「馬小屋で寝泊まりするのも金が掛かるし、安いけどな。」
「隣町まで2日間、野宿をしながらの冒険か、それで銀貨3枚は確かにいい仕事よね。」
「違いない、さあ、油断せず行こう。」
俺も、この仕事をしていれば、余計な事は考えずに済む。
あれこれ考えるのは無しだ、俺はただ、この異世界の事を少しでも知りたいだけだった。