第4話 モンスターとの戦闘
マーロン伯領の町へ向かう前に、俺は自分の家へ寄り旅支度をする。
「食料に水、松明と火打石、それから………………。」
村から町までは歩きで2日、走れば1日で着くが途中休憩を挟めばそれなりに時間を要する。
家の中にある必要そうな物を、色々と背負い袋に入れていく。
「あっ! そうだ武器が必要か。」
道の途中、モンスターと遭遇する可能性がある。
身を守る道具や武器はあった方が良い、確か爺ちゃんは元冒険者だった。
納屋の奥に仕舞ってある箱は、爺ちゃんが昔手に入れたアイテム等が収められていた筈だ。
お金に困ったらそれらのアイテムを売っても良いと、生前言っていたっけ。
元冒険者なら武器の一つもある筈だ、俺は急ぎ納屋へ移動する。
納屋は薄暗く、ロウソクの灯りを頼りに奥の箱を探す。
「あった、これだ。」
埃が被っていて、古ぼけた感じの宝箱が置いてある。
鍵は掛かっていなかったので、ゆっくりと宝箱を開ける。
「これは凄い、爺ちゃん本当に冒険者だったんだ。」
箱の中身は色んな物が納まっていた、武器も勿論あったのでそれを手にする。
「これは、鉄の剣だろうか? こっちはダガーだよな。」
革のホルダーに収まっていた武器は、今にも使えそうなほど綺麗に磨かれていた。
「これを使わせてもらおう、あとは。」
それ以外にも様々な物がある、探してみると一冊の本が目についた。
「これは、ま、まさか!? スキルブックか!?」
なんと、読むだけでスキルが習得できるマジックアイテム、スキルブックを発見した。
本の表紙を見ると、「武器取り扱い」と書かれていた。
「剣術」とかではなく、武器の取り扱いに習熟するスキルを習得できる本だ。
「確かに、このスキルブックを売ればかなりの大金を得られるだろう。」
だが、前世の記憶でゲーム知識を総動員した結果、この本は俺が使うべきだと判断した。
「以前にキャラクターシートに書いたジョーのステータスは今だに曖昧だ、今の俺は只の農民だし、武器の扱いなんて知らない。だから、この本は今ここで俺が使わせてもらった方が良いと思うんだな、これが。」
戦い方を知らないでは、魔物と遭遇したときに生き残れない。
少しでも強くなる必要がある為、俺は早速「武器取り扱い」のスキルブックを読んでみた。
ページをめくっても何も書かれていない、だが解る。俺の中で何かが覚醒していくのを感じた。
本の最後までページをパラパラとめくり終わり、パタンと閉じる。
目を瞑り、深呼吸すると、自然と武器について習熟している事を理解した。
「凄いな、これがスキルブックか。確かにこれは貴族とかが欲しがる物だな。大枚はたいて手に入れようとするだろう。」
そして、読み終わったスキルブックはサラサラとした砂へと変わり、床にこぼれた。
「なるほど、これでスキルブックを使用したという事になるのか。」
スキルブックはもう跡形も無く、綺麗さっぱり無くなり砂になった。
「これで俺にもスキルが備わった訳だな、よし。これで取り敢えずはいけるか。」
革のホルダーを身に着けて、武器を仕舞い、俺は納屋を後にした。
よし、準備は出来た。直ぐに村を出よう。
目指すはマーロン伯の町、俺はダッシュで駆け出し、先を急いだ。
田舎道を北上し、先ずは街道へと出た。この街道を更に北へ向かえば町に着く。
ここまでの道中、モンスターとの接触は無かった。
順調に事が運んでいると思う、そう思った矢先、街道沿いに魔物を見つけた。
「急いでるってのに、モンスターかよ。」
魔物の数は2体、いずれもゴブリンと呼ばれるモンスターだ。
魔物としては弱い部類だが、俺は戦闘経験が足りない。
俺のメインジョブであるファイターのレベルは3の筈だ。
サブジョブはスカウトにレンジャー、いずれもレベルは1のままだと思う。
「経験点を得た事は多分無かった筈だ、格を上げなければ強くならないが。」
そもそもキャラクターシートが無い、どうやってレベルなどを上げるのか?
「もしかして、ゲームみたいにそう都合よくいかない可能性があるな。」
最悪、レベルなどはこのままで、上がらないかもしれない。
今の俺ではゴブリン相手でも苦戦するかもしれない、油断無く進み様子を窺う。
ゴブリンはまだこちらに気付いていない、チャンスだと思うが、黙って素通りさせてもらえそうにはない。
スライムはこちらから手を出さなければ襲っては来ない、だが魔物は人を見ると襲う習性をしている。
「戦いは避けられないだろうな。」
スキル「武器取り扱い」を信じて、真っ向勝負といくか?
俺にはユニークスキル「★プラス1」がある、当然、今装備している武器は既に★2にランクを上げている。
鉄の剣は★1、だが俺がユニークスキルを使って★2になっている。
ダガーも同様、★2だ。鉄の剣だけでも威力が上がっている事だろう。
後は俺の勇気次第、戦う覚悟が決まれば、あとはやるしかない。
「大丈夫、だよな。本当は怖いけど、ここまで来て遠回りはしたくない。」
ええい、ままよ!
南無三! と気合を入れ、俺はゴブリンの前に躍り出た。
剣を抜き、身構えて、相手の行動を予測し、いつでも動ける様に心構えをする。
心臓がドキドキしている、緊張が走る。初めてのモンスター戦。
子供の頃はいつも誰かが俺を守ってくれていた、誰かがやっていた事だ、それが今、俺の番に回って来たという事。
「手加減はしない! 全力で行かせてもらうぜ!」
俺は気合を入れ、剣を握りしめて見極める。
ゴブリンが動いた、2匹のうちの1匹が俺の横へ移動し、石斧で襲って来た。
俺はそれをバックステップで躱し、すぐさま剣を振る。
「当たらない!?」
目測を誤った、剣のリーチを考えていなかった俺の落ち度だ。
次に2匹目が襲って来る、手にしたナイフを突き出し、俺に向かって来た。
「させるか!」
今度はサイドステップで躱し、すぐさま剣を横薙ぎにして振るう。
今度は命中した、ゴブリンの身体に横一閃した傷が付き、後ろへ後ずさった。
ダメージを負ったゴブリンはこちらを見据え、身構えている。
その一方で、最初のゴブリンが追撃をしてきた。
「やべえ!?」
俺は石斧を避けて、剣を突き出した。そこへゴブリンが突っ込み刃がスーっと入っていった。
「や、やったのか!?」
石斧を持ったゴブリンは、その場で項垂れる様に力尽き、剣を引き抜いたら倒れた。
倒れたゴブリンはピクリとも動かなかった、どうやら1匹倒したみたいだ。
「残りはあと1体!」
1対1の状況になり、俺は集中して相手の動きを見る。
ナイフを持ったゴブリンはこちらを見て固まり、動かない。
「ハア、ハア。」
呼吸が乱れている、緊張しているのか、それとも初めて魔物を仕留めた事に心なしか興奮しているのか。
深呼吸する時間は無い、俺はそのまま動かないゴブリンに剣を突き刺す。
剣は真っ直ぐに入っていき、ゴブリンの身体に突き刺さった。
「ど、どうだ!」
ゴブリンは手をバタバタとさせていたが、やがて動かなくなり力尽きた。
「た、倒したのか。」
倒れたゴブリンの亡骸を見る、2体とも動かない。
周りの様子を見る、視界の隅にスライムを見つける。
「スライムは何処にでもいるんだな。」
このまま放置すれば、スライムが綺麗にしてくれるだろう。
「それにしても、戦いがこんなにも消耗するとは、疲れたぜ。」
呼吸を整え、武器を仕舞い、辺りを見回す。
心地よい風が吹いている、頬を撫でる風は、俺の心の高ぶりを鎮めるようだった。
「ふー、ちょっと落ち着いて来た。もう大丈夫だ。」
初めてのモンスター戦を経験し、俺はまた一つ強くなったような気がした。
「まぁ、気のせいだろうけどな。ははは。」
自分の命が助かった事に安堵し、戦闘に勝利した事に喜んだ。
「おっと、こうしちゃいられない。急いで町に向かわなきゃ。」
少しだけ自信を着けた俺は、しかしここで慢心する訳にはいかないと自分に言い聞かせ、先を急いだ。
走って向かっていると、時間の感覚が薄れてくる。今は夕方だ。
「そろそろ野営の準備をすべきかな?」
そう思った時、少し遠くに壁が見えて来た。
「あれだ! マーロン伯が治める町だ。まさか1日で辿り着くとは思わなかった。」
俺の走りは意外と速いのかな?
しかしこの体は若いだけあって、体力が有り余っているな。
休憩もせずに1日走り込んでいたから、町に到着していたという事か。
俺は更にスピードを上げ、町の入り口までそのまま駆けたのだった。