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第3話 生き残った者





 どれくらい気を失っていたのだろう………………。


 次に目を覚ました時には身体は濡れていた、雨が降っている様だ。


 「うう、いってぇ~、………そうか、俺は死んだと思われたから助かったのか。」


 上体を起こし、自分の身体を手で探り、傷口を確かめる。


 身体に付いた切り傷は、バッサリと残っている。


 斜めに切り伏せられていて、深い。辺りに俺の血が溜っていた。


 「よくこんな状態で助かったな。」


 自分の運の良さに感謝だ、動くには今少し時間が必要なようだ。


 丁度いい、体力が回復するまで今の俺の事も含めて、物事を整理しよう。


 今一度辺りを見回す、村の男衆は全滅だ。親父も含めて。


 かなりの時間が経っていたのだろう、死体には既にスライムが捕食し始めていて、遺体も残さず綺麗に食べている。


 「スライム、別名掃除屋か。人の遺体を放置しているとアンデッドモンスターになっちまうからな、本来は教会かカントの寺院に持って行かないとならないが、まぁ、スライムに食べて貰うのが良いのか。」


 村に教会は無い、人が死んだ時は火葬し、町まで行って女神教会で葬式をするのがこの村での送り方だ。


 俺はその場で両手を合わせ、合掌する。


 「安らかに眠ってくれ、みんな。」


 だが、あまりにも人が死に過ぎた、町まで移送するのも手間がかかる。


 なので、スライムに捕食されるのが良いと判断した。


 そして大事な事がある、俺自身の事だ。


 自分の身に起きた事は不幸でしかないが、そのお陰で前世の記憶が蘇った。


 俺はジョー、17歳。前世では吉田太郎(よしだたろう)、おっさんだった。


 日本で暮らしていて、バイトから帰ってキャラメイクし、眠りについてそのまま、おそらく俺はもう死んだんだと思う。


 そうして異世界転生したのだと思う。


 何故かは解らないが、この世界が俺の知っているTRPGの異世界だという事は理解していた。


 なぜならジョーというのは、俺が以前にキャラメイクして気に入っていたキャラだという事だからだ。


 つまり、俺は今そのキャラクターに生まれ変わったという事だな。


 更に、俺にはユニークスキルが一つ備わっている事を理解した。


 「★プラス1」という、どんなアイテムや装備品でも、俺が手を触れて念じるだけで性能がワンランク上になるという、ユニークスキルだ。


 自分の意思でアイテムのランクを上げる事が出来るっていう訳だな。


 戦いで有利になるスキルではないが、使い方次第ってところか。


 アイテムや道具は全て★のランクが付いている。


 ★1で一般流通品、★2で高級品、★3でコレクター品と言った具合にアイテムのランクの★が多ければ良品という事だ。


 ちなみに、★5が最高到達ランクで、これ以上は無い。


 と、思うが確かめた事が無いので、正直解らない。


 俺の今持っている斧は★1の一般品、これを俺のスキルで★2にする事が出来た。


 ★2にランクアップすれば、性能が上がる。単純な事だがこれは中々凄い事のような気がする。


 「よし! 取り敢えず村長さん家の納屋へ行こう、他の村人たちが心配だ。」


 俺は立ち上がり、男衆に向かって合掌し、直ぐに移動を開始する。


 「どれだけ時間が経ったのか? 間に合うとは思えんが、確かめないと。」


 雨が降りしきる中、俺は傷口を庇いながら納屋に向かって移動した。


 頭を()ぎるのは、幼馴染の女の子カリーナの顔。無事でいてほしい。


 カリーナに回復魔法のヒールをかけてもらうというのは、一応考えていた。


 この村でたった一人だけ魔法が使えるのがカリーナだ。


 昔はよく怪我をしたときに、カリーナの回復魔法のお世話になった。


 優しくて、思いやりのある女の子だ、なにより可愛いので村の男衆に人気があった。


 「無事でいてくれ、カリーナ。」


  女子供や戦えない村人たちが避難している納屋へ着いた。


 周りの様子は静かだ、だがそれが返って不気味でもある。


 何事も無ければ良いが、そんな希望的観測は期待しない方が良いだろう。


 ジョーの頃は甘い考え方で、色々苦労をしたが、今の俺は吉田の記憶もある。


 油断は即、命取りに繋がる事を俺は知った。だからもう油断はしない。


 ★2の斧を持ち、納屋の扉へ近づく。すると中から話し声が聞こえた。


 「この納屋にも大した物は無かったな、まったくしけてやがる。」


 「農具ばっか、食い物もねえし、収穫は女だけだったな。」


 「ああ、その女たちも既に運び出したし、もうこの村には用はねえな。」


 「さっさと引き上げようぜ、こんな辛気くせーところはもういいや。」


 「違いない、とっととずらかるか。頭達はもう先に行ってるし。」


 山賊だ、しかも二人居る。


 納屋の中に居るって事と会話の内容では、おそらくもう村人たちは。


 そして、次の瞬間、いきなり扉が開き、納屋から二人の男が出て来た。


 俺は咄嗟に斧を振り上げ、山賊の一人に無言で振り下ろす。


 「うぐわぁっ!?」


 山賊の一人を頭から両断し倒した、もう一人の山賊は俺を見て驚いている。


 本来はこの斧のランクは★1,だが俺のスキルで★2になった。


 これが★2の斧の切れ味、普通の剣と大差ない切れ味だ。


 「これが★2の道具の威力か、錆びついていたのに悪く無い。」


 もう一人の山賊が吠える。


 「てめえ!? どこから!?」


 目だけは見据えている、意外と冷静な自分に驚きつつ、二人目の山賊も見る。


 残りの山賊は武器を構え、俺と対峙した。


 「舐めるなよ! たかが村人一人、俺だけでやってやらあ!」


 山賊はナイフを手に、襲い掛かって来る。刃物を見ると途端に怖くなるが、俺も斧を装備している。


 遅れは取らん、油断などしない、相手の動きを見て、ナイフによる攻撃を躱す。


 「こ、こいつ!? 身体を捻って回避しやがった!?」


 「次は俺の番だ、容赦などしない! する筈も無い! お前等だってやってきた事だろう!」


 俺の動体視力は意外と良いらしい、今初めて気付いた。


 戦いの中で、俺は間違いなく成長している。皮肉な話だ。


 俺はナイフの攻撃を避け、そのままの回転の勢いを乗せて斧を横振りする。


 「ぶぼっ!?」


 フルスイングだ、手応えもあった、無事では済むまい。


 山賊の身体が横に真っ二つに切り裂かれ、上下に別れた身体は音も無く崩れ落ちた。


 辺りには、静けさが漂っていた。音の無い世界。耳が痛い程の無音。


 聞こえるのは、雨音だけ。水たまりに山賊たちの血が混ざって赤色に変わる。


 「取り敢えず、仇は取らせて貰った。」


 俺の言葉がやけに心をざわつかせる。周辺にはもう山賊の姿は無かった。


 この二人が村に残っていた最後の山賊だったようだ。


 他の山賊は、とっくに引き上げて行った後だったらしい。


 先程の山賊たちの会話からして、そんな事だろうと思う。


 恐る恐る納屋の扉から顔を覗かせ、中を確かめる。


 女のすすり泣く声、よかった、まだ無事な人が居た。


 「大丈夫ですか?」


 静かな声で問い掛け、返事を待つ。


 暗がりから一人の老婆が姿を見せる、村長さんの奥さんだ。


 「あの、他の村人は?」


 村長さんの奥さんは、首を横に振る。俯きながら返事をしてくれた。


 「私以外、死んだよ。若い娘はみんな連れて行かれちまったさね。」


 「そんな………、カリーナもですか?」


 「ああ、カリーナちゃんが回復魔法を使える事を知って、山賊の頭に直接連れて行かれたよ。」


 「くっ………………。」


 やはり間に合わなかった、お袋も死んだようだ。頭に血が登ってくるのを感じながら、俺は冷静を装って尋ねる。


 「何処に連れて行かれたんですか?」


 「解らないよ、もう山賊のアジトを引き払うと言っていたし、何処か遠くへ連れてかれたのかもしれないねえ。」


 くそっ!? みすみす山賊たちの横暴を許すとは! 何て情けないんだ! 俺は!


 悔しいが、今の俺では力不足だ。ここは冷静になり、これからどうするか相談しよう。


 「これからどうしましょうか?」


 「そうさねえ、領主様のところへ行って、報告して、山賊団を何とかして貰いたいところだねえ。」


 マーロン伯領の領主様か、そこに行って今回の襲撃騒ぎの首謀者を何とかして欲しいと、嘆願しに行くのが正解だろうな。


 俺一人が特攻して、山賊団に勝てるとは思わない。ここは慎重になって思考を巡らせる。


 「解りました、俺がマーロン伯のところまで行って、この件を伝えて来ます。」


 「頼めるかい、すまないねえ、私じゃもう、何をどうしたらいいのやら。」


 「村長さんの奥さんは、生き残った人を探してこの村で待機していて下さい。」


 「すまないが、そうさせてもらうよ。ジョーも気を付けて行っておいでよ。」


 「はい、じゃあ俺、マーロン伯の元へ行きます。」


 カリーナが連れ去られた、助けに行きたいのは山々だが、俺一人で向かったところで返り討ちに合うだけだ。


 忘れちゃならない、俺はどう見てもモブキャラなのだから。


 主人公のような器ではないし、(レベル)も低い、ヒーローじゃない。


 ここは、村人の嘆願を聞き入れて貰う為に、町まで行ってマーロン伯に頼むしかなさそうだ。


 そうと決まれば、早速行動開始だ。後れを取れば益々手遅れになる。


 急いだ方が良いだろう、少しとはいえ傷も多少癒えて来た。


 俺はダッシュでその場を後にし、マーロン伯に会いに町へ向かう。


 「中々にヘビーなホットスタートだな、こりゃ。」


 雨はまだ、止みそうになかった。






 

 


 


 


 


 


 


 


 



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