第28話 山賊団討伐作戦 ⑤
あ!? 思い出した!?
女性キャラでプリーストのクラレットと言えば、俺がかつて作ったキャラクターじゃないか!
魔力値と精神値が高かったから、お気に入りキャラとして専用のクリアファイルに保管していたのを思い出した。
その顔といい、プロポーションといい、間違いない。
まさか、ここで俺の作ったキャラにお目にかかる日がこようとは!
嬉しいやら恥ずかしいやら。
「あの、どうかなさいまして?」
「い、いえ。なんでもありませんとも。」
いかんいかん、あまりまじまじと人を見るのは良くないな。
しかし、ホント偶然ってあるもんだなあ。
もしかして、他の作ったキャラクター達もこっちに来ているのかな?
だとしたら、会いたいな。どうやって生きて来て、どうやって今があるのかとか。
目の前のクラレットは白い修道服を着こなしている、プリーストっぽい。
確かめねば。俺げ作ったキャラなら、アースヒールを使える様にした筈だ。
「クラレットさん、つかぬ事をお聞きしますが、貴女は土属性回復魔法の「アースヒール」を使えますか?」
「はい、アースヒールなら使えますが。私は女神教のシスターですので。」
なるほど、女神教の信者なら神聖属性以外の魔法も使えるか。
「それよりも、私の話を聞いてください。今、私の知り合いが山賊の為に戦っています。彼は、アインさんは、賊などの悪人にその力を使うべき人では無いのです。」
クラレットさんは切羽詰まった表情をしていて、俺達に懇願してきた。
「お願いです、アインさんを止めてください。このままでは取り返しの付かない事になってしまいます。」
「アイン?」
バーツさんが尋ねる、他の人達もみな同じ様な疑問を抱いたようだ。
「誰だっけ? アインって。」
アイン!? ま、まさか!? あり得るのか?
俺は急ぎ尋ねる。
「アインとはまさか、真紅のキルブレードを持った剣士ですか?」
「は、はい。そうだと思います。武器の事は良く解りませんが、赤い色の刀剣だったと記憶しております。」
「赤い色! おいまさか! 真紅のキルブレードを装備した凄腕の剣士アインじゃねえだろうな?」
「知っているんですか? バーツさん。」
「ああ、有名な話さ。大陸の北、傭兵王テムジンの片腕と噂された凄腕の剣士。その名はアイン。こいつは只もんじゃねえ。」
やっぱりそうか、俺が作ったキャラクターだな。アインは。
筋力値と技量値が高い戦士系のキャラだ、俺のお気に入りキャラとして、アインもお気に入り専用のクリアファイルに保管していた。
クラレットさんは気が気じゃないみたいだ、早いとこ行動した方が良さそうだ。
「クラレットさん、案内出来ますか? アインを止めに行きましょう。」
「そうだな、そんな強力な奴、まともに相手したくは無いぜ。」
「あたいも知ってるぐらいだし、アインと戦うくらいなら説得した方が良いよ。」
「ありがとうございます! おそらくアインさんは山賊の頭目と一緒に居ると思います。急がないと。」
「解りました、急ぎましょう!」
こうして俺達は、アインを説得する為に、急ぎ坑道の奥へ向けて駆け出した。
カンテラの明るく照らす火を頼りに、俺達は奥へ進む。ここまでは一本道だ。
迷う事は無いが、途中で出会う山賊の何人かと戦闘になり、時間が思いのほか掛かってしまった。
そして、大広間へと出て来た俺達が目にした者は、紛れも無くアインだった。
「くっ、まさかここまで強いとは!?」
「騎士の上級職である「シルバーナイト」だけの事はある。しかし。」
アインが構えを上段に切り替え、今まさにラケルさんを切ろうとしていた。
「だ、駄目っ!? やめてアインさん!!」
気付いた時には、クラレットさんは戦っている最中の二人の間に割って入って行き、両手を広げて立ち塞がった。
「やめてくださいアインさん!! もう十分でしょう? 貴方はこの様なところで、悪人の為に力を使てはいけない方です!! アインさんの剣は人々の為に振るわれるべきです! 貴方は心の優しい方! お願いです、どうか、どうか剣を収めてください!」
クラレットさんの必死の説得が叫ばれ、アインはしかし、その場を動かない。
「どけ! シスター、俺はもう引き返せないところに居るのだ!」
「いいえ! どきません! 貴方はまだ、やり直せる! だけど、このまま賊に加担していては駄目なのです!」
対して、クラレットさんも一歩も引かない。お互いに引かない為、時間だけが過ぎ、痺れを切らした山賊の頭目が、アインを唆す。
「なにやってんだアイン! 早くそいつを切れ! そいつはこの軍隊の指揮官だ、始末すりゃあ一気に形勢逆転だぜ!」
頭目の言葉に怒りを覚えたのか、クラレットさんが大声で言い放った。
「あなたは黙っててください! 私は今、アインさんと話しているんです!」
「なんだとこのアマ! この俺に意見するだと! 調子に乗るなよこの女!」
「あなたなんかの為に、アインさんの道を踏み外させはしません。」
気丈に振舞っているクラレットさんだが、身体が震えている事が解る。
怖いだろうに、気丈に振舞って、強い人だな。クラレットさんは。
よし、俺もアインを説得しよう。俺にだってアインの事は気がかりだったし。
「アイン、聞け。お前を山賊の用心棒から解放する為に、クラレットさんがどれだけ心配したか。女を泣かせるもんじゃないぜ。アイン。」
「君に何が解る、俺の事を知る筈も無いのに。」
知っているさ、知っているとも、俺がアインというキャラを作ったんだから。
「アイン、あんたは女を切る為に剣を取った訳じゃ無い筈だ。違うか?」
「………………。」
俺の言に、アインは黙り込んだ。
自分で解っているんだろう、このまま悪党に利用されてちゃ駄目って事を。
今一度、アインは俺達を見て、そして、クラレットを見た。
クラレットの瞳は、曇りなく輝き、人を惹き付ける何かがあると思わせる。
「クラレット、見ろ、俺の手を。」
そう言って、アインは自分の両手をクラレットに見せた。
「俺の手は血塗られている、もう引き返せないのだ。俺は。」
「そんな事無い! アインさんは心の優しい人! 他の誰でもない、私がそれを知っている! 貴方は私を山賊から守ってくれた、その事実は変わらない筈よ。」
クラレットが言うと、それを聞いた山賊の頭目は息巻いていた。
「なんだと!? 裏切ったのかアイン!! 貴様ああ!!!!」
その言葉を皮切りに、山賊の頭目リントンは斧を構えて突進し、クラレットに向かって勢いよくダッシュした。
「死ねやああああーーーー!!!!」
「危ない!? シスター!」
リントンが走り、クラレットを庇うラケル。だがそれさえも無視して動いたのが。
「邪魔だ。」
アインだ、アインが真紅のキルブレードを抜き、リントンの腹を横一閃した。
「うぎやぁっ!? アイン!? 貴様!?」
「すまんな、気が変わった。」
アインは剣を鞘に収納し、リントンはその場で蹲り、切り傷を庇いながら後ろへ下がった。
「お、おのれえ~!? 俺の腹を~!?」
山賊の頭目は移動し、何処かへと姿を消した。おそらくもう助からないだろう。
「逃がして良かったのかい? バーツ。」
「この場合、仕方ねえだろうな。もうリントンはお仕舞だよ。」
「やれやれ、俺達の仕事もようやく終わりが近づいたって訳か。」
「まだまだ、これからが大変だろうがな。」
俺達の会話をよそに、アインとクラレットの会話も収束していく。
「クラレット、俺にまだ人を救えと? いや、俺がまだ人を救えると?」
「はい、貴方は本当は心の綺麗な方。山賊のような悪人の為ではなく、人々の為に剣を振るうべきです。貴方なら、きっと出来ます。必ず。」
「俺が、出来るのか。もう一度………。」
よっしゃ! 俺もここで一言言ってやろう。そうしよう。
「アイン、あんた、もう殺人剣じゃなく、これからは活人剣を振るうべきじゃないのかね?」
「青年、ふふ、活人剣か。悪く無いな、そういう剣も。」
アインはようやく、少しだが笑顔を見せた。
うんうん、やっぱり俺が作ったお気に入りのキャラはこうでなくっちゃな。
正直ほっとしたよ、これからどうしようかと思っていたところだ。
アインの説得が上手い事運んで良かった、クラレットさんも良い笑顔だ。
「どうやら、話は纏まったようだね。よし! 残りの山賊を討伐せよ!」
号令を掛けたラケルさんが、みんなに指示を出して指揮を執っている。
よかったよかった、ラケル隊のみなさんも無事みたいだし、これで山賊団の討伐作戦も終わりが近づいたってところだな。
山賊の頭目である、リントンの事が気がかりではあるが、今はどうしようもない。
このまま何事も無く、事が終われば良いのだけどな。
しかし、そうは問屋が卸さないのが世の常。
さっき姿を晦ましたリントンが戻って来たかと思うと、両手に何か持っていた。
「げははははははははははっ、終わりだよ! お前等はもう終わりだよ!」
はあ? 今更こいつ何言ってんの?