第11話 一本橋の戦い ②
ハイヒールというモノがある。
回復魔法ではなく、履物の方のハイヒールだ。
日本に居た頃、姉貴が仕事の帰りによく愚痴をこぼしていた。
「ハイヒールは足が痛くて疲れんだよ。」と。
いつの頃か、姉貴はハイヒールをやめてパンプスを履くようになった。
かかとが低いパンプスで仕事に行くようになってからは、愚痴は言わなくなった。
つまり、何が言いたいかというと、人間自分に合った物を身に付けないと疲れるだけと言いたい訳だ。
なぜこんな事を思い出したかというと、今まさに俺の事だったりするからだ。
一本橋の戦い、守衛に扮した山賊が、俺達に看破されて襲って来た。
前衛は俺とフォルテ、バーツさんが陣取り、後方支援にメロディが待機している。
バーツさんが指示をとばす。
「ジョー、フォルテ、お前等二人で山賊の一人と対峙しろ。」
「「 はい! 」」
「メロディは後ろで待機、隙を見て魔法攻撃、仲間が傷ついたら回復。」
「わかったわ!」
「俺が二人の山賊を相手する、打ち漏らしたらその時は頼むぞ。いいか三人共!」
「「「 はい! 」」」
バーツさんの指示は的確だ、半人前の俺とフォルテでは、山賊の相手は一人ぐらいしか相手に出来ない。
こっちは四人、山賊は三人、数の上ではこちらが有利。
だが油断はしない、足元を掬われるかもしれんからな。
更にこちらには、回復要員のメロディが居る。
それだけで、心に余裕が出来る。有難い事だ。
「てめーら! 容赦しねえぜ!」
「へっへっへ、女が居やがる。楽しみだぜ。」
「おい! 一人ずつ相手しろよ! こっちは三人しかいねえんだからよ!」
「なーに、大丈夫だって。こいつ等見た所まだ駆け出しみたいだし、余裕余裕。」
こいつ等、人を舐めやがって。今に痛い目に遭わせてやるよ。
山賊の一人が動いた、斧で武装した一人がフォルテ目掛けて接近した。
「こいつ!」
フォルテは焦っていたが、俺が視界に入ると安心したように息を吐く。
「一人で戦うなよフォルテ、俺がサポートするからさ。」
「助かる、ジョー。じゃあ一つ俺達の連携といこうか!」
「おう!」
バーツさんの方に山賊が一人向かったが、武器の攻撃範囲に入ったと同時に事が終わっていた。
「俺を舐めすぎだろ、元傭兵を舐めてもらっちゃあ困る。」
バーツさんに向かった山賊は、斧の攻撃範囲に入ったと同時にフルスイング。
あっけなくバーツさんの斧で、山賊の一人が倒された。
「ぎゃあああ!!?」
山賊は断末魔を上げ、地面に倒れ伏した。
一人の山賊を倒した事によって、更にこちらに有利に事が運んだ。
「風の精霊シルフよ、我の敵を討て。「ウインドカッター!」」
メロディは精霊魔法を使ったのか、魔法攻撃をかましてもう一人の山賊を討った。
「お、俺の身体が………………。」
メロディの魔法攻撃によって、山賊の身体が横に切り裂かれ、そのまま絶命した。
よし、残り一人。
「凄いな、メロディの魔法は。」
「よそ見してる場合じゃねえぞジョー!」
おっと、そうだった。こっちも戦闘中だった。
フォルテに向かっていた山賊が、俺が間に割って入った事により、俺に狙いが来た。
「邪魔だぜ! 下っ端!」
「なにを!」
山賊の斧による攻撃が来たが、俺はその攻撃を回避、半身で避けた。
「狙いが甘いぜ!」
「ちっ! こいつ!」
「俺の事も忘れちゃ困るぜ!」
間髪入れずにフォルテがスイッチ、立ち位置を入れ替え、今度はフォルテが攻撃に転じた。
「くらえ!」
フォルテの剣が上段から振り下ろされたが、距離が合わずミス。ファンブルした。
「へっへっへ、やっぱこいつは駆け出しの雑魚だったか。」
「ちくしょう、ミスった!」
これを機に、今度は俺が前に出て、剣を振る、だが。
「おっとあぶねえ!」
「ちっ、外した!」
どうも上手く行かない、狙いは付けていたし、距離もそんなに離れていない。
何が原因だ? さっきの攻撃は当たるかと思ったけど。
「今度はこっちの番だぜええ!!」
次に山賊が斧をフルスイングした、が、これを二人共何とか転がって回避した。
「あぶねえあぶねえ、当たるところだった。」
「ヒヤヒヤしたよ、まったく。」
仕切り直しだ、今度はこちらの番だ。俺は駆け出し、山賊の懐まで接近。
「させるかよ!」
だが山賊も好きにはさせてくれない、斧で牽制攻撃し、距離を稼ぐ。
「だから、俺がまだ居るんだって!」
その隙にフォルテが接近、山賊に喰らい付き剣を振る。
「痛え! てめえ! よくもこの俺様に!」
「よし! 攻撃が当たった!」
そこを見逃す俺じゃない、間髪入れずに俺の剣が突き刺す。
「いててて!? てめーら! もうゆるしゃしねえぜ!」
一人になった事で、山賊は思考を停止しているらしい。
このまま戦い続けると、こちらが勝利する事が解っていないようだ。
しかし、油断は禁物、俺は更に攻撃を重ね、ダメージを与えようとした。
だが、ここで思わぬ事態に直面した。
「あ、あれ? 腕が、上がらない?」
「どうした? ジョー?」
「すまんフォルテ! 何か知らんが腕が上がらないんだ!」
この事態に、バーツさんが声を掛ける。
「大丈夫か? 二人共!」
「大丈夫です、ただ腕が上がらないだけです。」
「俺は平気です、一人でもやれます。」
「おう、無茶はすんなよ。」
これを見ていたメロディは、俺達に対して支援しようと身構えた。
だが。
「やめておけメロディ、今あいつ等に手を貸すと男のプライドをズタズタにしかねんぞ。」
「え!?」
メロディの行動をバーツさんが止めた、流石バーツさん。解っている。
「ジョー! いけるか?」
「まだ解らん! 思う様に剣が振れない!」
「解った、後はこっちでやる!」
「すまん、フォルテ!」
情けない、ここでも俺は何の役にも立てないのか?
不甲斐なさすぎだろ! 俺!
深呼吸して、落ち着かせる。よし! 落ち着いた。
なぜ剣がこうも重たく感じるのか解らんが、突き刺すくらいは出来る。
フォルテが山賊相手に一人で立ち回っているうちに、俺は背後へと回り込む。
よし! ここだ!
良い位置に来た、山賊は俺の事など無視している。チャンスだな。
フォルテが一歩後ろへ下がった隙に、俺は山賊を背後から強襲した。
「後ろががら空きだぜ。」
鉄の剣を持った腕を伸ばし、突き刺すようにして剣を出す。
ズブリと山賊の身体に剣が入っていき、突き刺した事で大ダメージを与えた。
「うぐをおおおおお!? いてえ………………いてえよ………………。」
山賊は息も絶え絶えで呟き、そのまま地面に倒れてピクリとも動かなくなった。
「はあ、はあ、はあ、」
「た、倒したのか? ジョー。」
「ああ、多分な。」
ふ~~、やれやれ、何とかなったか。一時はどうなるかと思ったが、山賊を倒す事に成功したようだ。
「お疲れみんな、ご苦労さん。」
バーツさんがみんなに労いの言葉を掛け、俺に近づきこう言った。
「ジョー、ちょっとその剣、見せてみろ。」
「は、はい。」
俺はバーツさんに自分の持っている鉄の剣を見せた、剣を渡して待っている。
「なるほど、そう言う事か。」
バーツさんは一人呟き、納得している様子だった。
「ジョー、お前この剣はどうした?」
「え? その剣は俺の爺ちゃんの形見ですが、それが何か?」
バーツさんは俺の剣をまじまじと見つめて、俺に返してきた。
「ジョー、その剣は高品質の物だ。お前の技量では扱えまい。」
「え? 技量?」
「そうだ、品質の高い武器や防具は、その人物に見合った技量、または格が無いと機能しないんだ。」
な、なんだってー!?
「つまり、俺にその剣を扱うだけの技量が足りないから、さっきみたいに上手く行かなかったのですか?」
「そう言う事だな。まぁ、気を落とすな。誰にでも起こり得る事だからな。」
ま、まさか、そんな落とし穴があったとは。
ユニークスキル「★プラス1」のお陰で、自分にも何かしらの事が出来るかと思っていたのだが。
「そりゃないよ。」
「悪い事は言わん、一般流通品の鉄の剣にするんだな。」
賊相手に勝てたから良かったものの、上手く行かなかったらと思うとゾッとする。
何たる落とし穴、そんな事だろうと思ったよ。まったく。
モブキャラはモブキャラらしくしとけって事かよ、参ったなあ~も~。
折角自分で作ったお気に入りのPCに転生したんだから、もっと活躍したい。
ところで、俺の格は上がる事があるのだろうか?
この異世界はTRPGによく似た世界なのは解った、という事は何らかの方法で格を上げる事が出来るのではないのかという事。
まだこの異世界について解らない事の方が多い、ゆっくり慎重に調べていこう。
「どうした? ジョー。」
「何でもないですよ、バーツさん。先を急ぎましょう。」
兎に角、話を進めていけば、何らかのリアクションがあるかもしれない。
このまま冒険者としてやっていって、今の自分に適した事をこなしていこう。
それしか、出来ないと思う。俺には………。