表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/25

◆23 王子同士の兄弟喧嘩、そして、いちゃいちゃカップルの仲違い!?ーーさらに、思わぬ者たちの復活と急展開!!

 新王を僭称するオネスト殿下に対して、最も有効な対抗馬ーー第一王子アレティーノがついに前に進み出て発言した。


「黙れ、オネスト!

 我が弟ながら、恥ずかしい。

 そのような心根で、良くも王冠を戴けたものだ」


 見慣れぬ美貌の若者の登場に、多くの貴族たちは首をかしげた。


「誰だ? あれは?」


「知らぬ」


 だが、一部の女性陣は「キャア!」と黄色い声をあげていた。


「あのお方は、『花園の貴公子』でなくて?」


「ほんとだわ。公の場でお姿を拝見できるなんて!」


「それにしても、オネスト殿下を『我が弟』とおっしゃられるということはーー」


 黄色い声援を背景に、宰相ガッブルリは、美貌の青年に手を振り向け、大声をあげた。


「こちらは、ランブルト王国の第一王子アレティーノ殿下であらせられます」


 貴族連中は感嘆の声をあげた。

 そして、さまざまに語り始める。


「アレティーノ殿下だと!? 生きておられたのか?」


「てっきり、幼少のみぎりに亡くなった、と」


「私もそう思っていた」


「いや、病のために外国に療養に出向いたと、私は聞いていたぞ」


 オネストが王太子になった段階で、誰も話題にしなくなっていた。

 それが、王家の長男アレティーノであった。


 宰相ガッブルリは厳かに言う。


「アレティーノ様は目を患っておられました。

 ところが、この度、奇跡的に治療に成功したのです」


 ああ、と膝を打つ貴族が多数いた。

 だから、魔導国の皇太子がいるのか。

 魔導国で治療がなされたに違いない、と判断したのだ。


 宰相ガッブルリは、改めて胸を張った。


「王国宰相として、ここに宣言する。

 王権代理はこの第一王子アレティーノ殿下にお任せする、と。

 リリアーナとか申す淫売の言いなりになるような不甲斐ない男に、これ以上、国家の重責を担わせるわけにはいかない。

 国王陛下もお目覚めになられたら、この私の判断を支持するものと信じる!」


 おおおお!


 居並ぶ貴族とご令嬢、ご婦人方は歓声をあげた。


「私も支持する」


「私も支持いたしますわ!」


「オネスト殿下は王太子としても相応しくなかった。

 王に即位するなぞ、もってのほかだ!」


「リリアーナとかいう淫売と手を切らぬ限り、とても国王など」


「そこらじゅうの男に媚を売った元平民女が、王妃となって君臨するなど、許せるものか!」


 うねりのごとく、オネスト、そしてリリアーナを断罪する声がこだまする。


 そのうねりを背景にして、アレティーノはオネストの正面に立つ。

 チチェローネの手を取りながら。


 オネストとリリアーナを正面に見据え、アレティーノとチチェローネが対峙する。


 アレティーノは碧色の目を輝かせた。


「弟よ。貴様の役割は終わった。

 国を再建するために、チチェローネ公爵令嬢は起ったのだ。

 そして、チチェローネ嬢との婚約は私がする。

 貴様は彼女に濡れ衣を着せて、ランブルト王国を危機に陥れた。

 それもこれも、貴様がチチェローネ嬢との婚約を破棄し、冤罪を仕掛けたからだ!」


 オネストは突然、怯えた顔になる。

 そして、胸元にしがみついていたリリアーナを、ドンと勢い良く突き放した。

 目を丸くして驚くリリアーナを無視して、オネストは居直った。


「な、なにを偉そうに。

 盲目の日陰者が兄貴ぶりやがって」


「今では目が見える。

 となれば、長男である私が、王位継承権第一位の王太子だ」


「ふん、それはないよ。

 なにせ、父上ーー国王陛下がお眠りになったままで、そのように裁可しておらぬのだから」


「私の立場を云々するのは、今は関係ない。

 チチェローネ嬢の婚約者は、これからは兄の私だ、と認めよ」


 オネストは、肩を揺らせて大笑いした。


「はっはははは! おかしな物言いだな。

 俺はまだチチェローネとの婚約を破棄しておらぬ。

 したいのはやまやまだったが、あいにく、国王陛下もサットヴァ公爵閣下もお眠りしておられるからな。

 正式な婚約破棄手続きが踏めなかったのだ。

 な、そうであろう、ガッブルリ!」


 突然、話を振られた宰相ガッブルリは、苦虫を噛み潰した顔をする。

 それを確認すると、オネストは得意げに話を続けた。


「ーーしたがって、盲目の兄上が、俺の婚約者に、いくら求婚しても無駄なんだよ!

 少なくとも、今はな」


 呆気に取られたのは、リリアーナだけではない。

 チチェローネもだ。

 手にした扇子を、思わず折ってしまいそうなほど握り締めた。


(あれほど執着していたリリアーナを放り捨てて、今更になって、私との婚約を維持しようというの!?

 一方的な婚約破棄宣言から始まった一連の事件を、すべて無かったことにしようと!? 

 虫が良すぎる!)


 チチェローネが拳を握り締めて歩み出ようとするのを制するように、野太い声で横槍が入った。


「そうでもなかろうよ。

 ランブルトの外であれば、婚約だろうと結婚だろうと思いのままだ」


 皇太子ラオコーンが、大きな図体で前に乗り出したのだ。


「ランブルト王国において、濡れ衣をかけられて死罪となったチチェローネ嬢が、我がギララ魔導国に亡命を果たした。

 それを皇太子である余が快く迎え入れ、輿入れを認めたーーそれで良いではないか。

 あとは貴様らで仲良く兄弟喧嘩でもしておれ。

 余は外野から眺めおろして楽しもうではないか。

 可愛らしいチチェローネ嬢を傍らに据えて、な」


 アレティーノの反対側の隣で、チチェローネの腕を取る。

 二人の男性に挟まれて、チチェローネは顔を真っ赤にさせる。


「もう、なにを勝手にッ!」


 チチェローネがうわずった声をあげると、アレティーノも憤慨する。

 チチェローネの頭越しに、長身の皇太子を睨みつけた。


「チチェローネ嬢の処遇は国内問題だ。

 外国人は口を出さないでいただきたい」


 ラオコーン皇太子は愉快そうに笑う。


「良いではないか。

 チチェローネ嬢にどうなりたいのか、すべて決めさせれば。

 余のところに来れば、悪いようにはしない。

 濡れ衣を着せることもなければ、跡目争いの道具にすることもない。

 すぐにでも皇妃にしてやりたいところだが、あの婆さんが君臨しておるからな。

 しばらくは、余の妻として好き勝手に暮らせようぞ」


 次いで外国の貴公子は、視線を聖騎士団に向ける。


「それに、我ら魔導国は、貴女が召喚した大悪魔をも粗略に扱うことはない。

 どこかの頭の硬い宗教団体のように、討伐対象になぞせぬよ。

 少し、我が魔導国のために働いてもらうかもしれんがーー。

 ああ、そうなれば、この国など、どのようにでも転がせよう。

 はっははは」


 オネスト、アレティーノの両者のみならず、ガッブルリ宰相も、聖騎士団長ベーオウルフも絶句する。

 ギララ魔導国が〈漆黒の大悪魔〉と結託して、ランブルト王国をはじめとした諸国を踏み潰していくーー。

 あってはならない未来図だった。


 ランブルト王国とレフルト教会の重鎮が絶望を感じた、そのときーー。


 謁見の間に、懐かしい声が響き渡った。


「やめないか!」


「すっかり聞かせてもらったわ」


 居並ぶ貴族と奥様方は、いっせいに扉の方を振り向く。

 声がする方に視線を向けたら、見慣れた男女の姿が目に入った。

 ランブルト王宮の、本来の主ーーランブルト国王夫妻が、揃って姿を現わしたのだ。

 彼らの後ろにはサットヴァ公爵夫妻もいた。


 すでに宰相ガッブルリが気を利かせ、チチェローネと交渉して大悪魔を動かし、王様と王妃ご夫妻、そして公爵家の両親が目を覚ますよう手配していたのだ。

 そして目覚めた彼らに、彼らが不在の間に起こった数々の事件と、オネスト王太子が勝手に新王に即位しようとしていることを、暴露していたのであった。

 さらに、国王たちは王宮の一角に潜みながら、ギララ魔導国より仕入れた魔道具で、謁見の間での出来事の一部始終を見続けていたのだ。


 血濡れた王冠を戴くオネストは、チチェローネに対抗するために今は玉座を離れ、リリアーナとともに立っていた。

 それゆえ、慣れた足取りで、ランブルト国王は赤絨毯を踏み締めて玉座に腰を下ろす。

 そして、オネストを睨みつけた。


「おのれ、オネスト。騙しおったな!

 両親ともに眠らせて、玉璽を奪い、王位を乗っ取ろうとは!

 余とサットヴァ公爵が眠った状態での即位は、謀叛に当たる。

 さすがに野心が過ぎた。

 本日より、王太子はアレティーノだ!」


 王太子が勝手に新王に即位しようとしたと知り、謀叛だと思い、ランブルト国王は逆に彼らを断罪した。

 サットヴァ公爵夫妻も揃って声を上げる。


「宰相から聞いたぞ!

 良くも娘を陥れたな、オネスト殿下!」


「予言省の方からも、伺いましたよ。

 チチェローネの無実は証明されている、と。

 殿下は、この国を滅ぼそうとお思いなのですか!?」


 良く言えたものだと呆れながらも、チチェローネは二人の男性に掴まれた両手を離し、声を上げた。


「国王陛下、それにお父様。

 私、チチェローネは、このオネスト殿下との婚約を解消したく思いますが、お許しくださいますか?」


「もちろんだ。このような者、もはや息子とは思わん」


 国王の即答に、息子のオネストは言い訳をする。


「そ、そんな。父上!

 俺は俺なりに、国のことを思って……」


 王は玉座を叩いて激怒した。


「なにが国のためだ!

 そこの怪しげな女に(たぶら)かされておっただけではないか!」


 オネストには返す言葉がなく、喉を詰まらせる。


 今度は、母親の王妃様が金切り声をあげた。


「オネスト!

 今すぐ、そのリリアーナとかいう国賊を手放しなさい!

 すべての元凶はその娘にあります!」


 彼女は自分が愚かな判断をしてしまったのは、リリアーナの怪しげな力のせいだと信じていた。


 オネストは裏返った声を出す。


「も、もう捨てました。

 捨ててますよ、こんな女!

 なにもかも、この女のせいなんです。

 チチェローネ嬢を陥れたのも、王冠をかぶったのも!」


 リリアーナは、発狂したかのように、髪を振り乱した。


「オネスト様! 今さら、何を言うのです!?

 このままでは大悪魔がーー」


「知らないよ。

 君が『チチェローネ嬢が悪魔に魅入られて国を滅ぼす』と言うから、ここまで頑張ってきたのに。

 君がふしだらに過ぎるから、俺の地位までが危うくなってしまったじゃないか!

 どうしてくれる!?

 この状況で、どうやったら、国王になれるんだ!」


 本音がダダ漏れである。

 居並ぶ卒業生や貴族たちまでが、白けた目をオネストに向ける。


 この場に立つ誰もが思った。

 無理だ。このような男を王として掲げるなどーー。


 一方で、周囲からの冷たい視線に耐えられず、オネストは足掻く。


(そうだった。

 リリアーナこそ、断罪しなければならない。

 彼女こそが、一連の大混乱の元凶なのだ……)


 オネストは、再び、お得意の責任転嫁を始めた。

 先程まで胸元で抱きしめていた女性に向けて、指をさし、生唾を飛ばす。


「お、俺はリリアーナをこそ断罪する!

 彼女は自らを『聖女』だと詐称していた。

 だから、信じた。

 それでも俺が悪いというのか!?

 どうなのだ。教皇様はいかなる見解をお持ちか!?」


 いきなり、オネストは聖騎士団に話を振る。

 周囲からの睨みつけられ、わずか二十数名の聖騎士団員は身構える。

 ベーオウルフ団長は正直に答えた。


「教皇様からのお言葉は先程、伝えたのみだ。

『オネスト・ランブルトに、ランブルト王国の王冠を正式に授ける。

 以後、国軍を指揮し、対悪魔の聖戦の中核を担え』と……」


 そこへ、玉座に座るランブルト王が割って入る。


「では、リリアーナとやらは、聖女として認定されておらぬのだな!?」


「それはーー聞いておりませぬ」


 聖騎士団長による正直な返答によって、謁見の間は、またもやザワザワと騒がしくなった。


「な!?」


 喧騒の中で、素っ頓狂な声を発したのは、リリアーナ本人であった。


「ーーおかしいでしょ!?

 そんなこと、あり得ない!

 私の職業(ジョブ)は〈聖女〉なんだから!

 マジで、アンタたち、教皇から訊いてないわけ!?」


 実際、レフルト教会から、聖女と認定されるのは簡単ではない。

 オネストが新王に即位できることを優先したあまり、自身についての手続きを正確に踏んでいなかった、リリアーナのミスであった。


「聖女と自称するのは大罪ですぞ!」


 ここで大声をあげたのは、大司教バパだった。


 チチェローネが宿す大悪魔の力によって、予言省長官シグエンサとともに、レフルト教会の大司教バパも目覚めていた。

 彼ら大司教や予言省長官も、国王夫妻や公爵夫妻と同じように、今まで外で待機していて、ようやく謁見の間に乗り込んできたのだ。


 ちなみに、国王夫妻同様、彼ら大司教らも、チチェローネ嬢の中に悪魔が融け込んでいるとわかっていない。

 だから、昏倒する前に決めた方針に忠実であった。

 大悪魔の手を借りず、自分たちの手でチチェローネの冤罪を晴らせば、契約は果たされず、国家の滅亡は避けられる、と信じて動いていた。


 バパは怒りに声を震わせる。


「リリアーナとか申す、怪しげな魔女め。

 聖女と自称したうえに、勝手に任意の者に戴冠しようなどと。

 聖なる制度を悪用した痴れ者めが!

 どちらにせよ、この偽聖女に誑かされた者こそが異端である。

 オネスト殿下のみならず、聖騎士団の者どもも異端者だ。

 私は教皇庁の枢機卿や各国の教会に働きかけ、聖騎士団に対して異端審問にかけることを提唱する。必ずだ。

 教皇庁も惑わされたのだ。

 司教べぺのみならず、多くの聖職者を殺戮した罪は重いぞ。

 覚悟せよ、聖騎士団長! 必ず、報いをくれてやる!」


 読んでくださって、ありがとうございます。

 気に入っていただけましたなら、ブクマや、いいね!、☆☆☆☆☆の評価をお願いいたします。

 創作活動の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ