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20/25

◆20 ぶつかり合う二人の婚約者候補と、二つのパーティー! 錯綜する様々な思惑

 チチェローネ公爵令嬢が、カスティリオーネ嬢とお茶会を楽しんだ日の夜ーー。


 サットヴァ公爵家に、宰相ガッブルリが馬車を飛ばして乗り込んできた。

 本来なら、現役の宰相閣下が罪人認定されたチチェローネの許を訪ねるのは(はばか)られる。

 が、あまりの不測の事態に、ガッブルリは動揺していた。


「ギララ魔導国皇太子ラオコーンがやって来て、チチェローネ様に求愛をしに来ました!」


 宰相閣下からの報告を受けて、チチェローネも驚いた。

 危うくお茶をこぼしそうになるほどだった。

 まさに想定外の事態だ。


 宰相ガッブルリの狙いはわかっていた。

 彼はギララ魔導国からの支持を取り付けて、オネスト王太子の動きを牽制しようとしていた。

 が、まさか、チチェローネ本人を将来の皇妃に迎え入れようと、魔導国の皇太子が仕掛けてくるとは!


 汗で曇った片眼鏡を布で拭く宰相閣下に、チチェローネは尋ねる。


「魔導国本国では、皇太子様の行動を承知しているのかしら?」


 ガッブルリによれば、ギララ魔導国は現在、女帝ヴァルナが君臨している。皇太子ラオコーンの祖母で、齢百歳を超えるお婆さんだ。


 が、その女帝も今回の孫の行動に驚き、本国は混乱しているという。

「〈先読みの水晶〉が使えなくなった」という諸外国からの苦情が絶えない最中での事件で、とても対処できない。

 ラメラ翁によれば、「本国でも了承したわけではないから、適当に追い払っても良い」というのが女帝ヴァルナのご意向だそうだ。


 つまり、ギララ魔導国の皇太子は、自らが見た水晶に突然、映り込んだ私、チチェローネの姿に惚れ込んだ。

 そこへ、ちょうどラメラ翁から報告が入り、私、チチェローネが王太子による冤罪によって死刑判決を受けた脱獄犯であり、しかも大悪魔を召喚した女性だと知って、大いに興味をそそられたらしい。

 結果、「未来はすでに決している。俺の力で、悲劇の娘を救出して、妻に迎え入れてやる!」と決心し、本国の承認もないままに、転移魔法を使ってランブルト王国に乗り込んできたらしい。魔導騎士団までも従えてーー。


 チチェローネは、あはは、と朗らかに笑った。

 どうやら、ラオコーン皇太子は、豪放磊落な男性のようだ。

 オネスト王太子のように姑息でないところが良い。


「思わぬ旦那様候補の登場だけど、これは面白くなってきたわね。

 これで、オネスト王太子が新王に即位しても、私を処刑するのは難しくなったわ」


 歴史上、ギララ魔導国と矛を交えた国は存在しない。

 未来を予知できる国家と戦争を仕掛けて勝てる気がしないからだ。

 実際、魔道具の開発技術では他国に二歩も三歩も抜きん出ていて、魔法の力が戦の勝敗を左右する現状にあって、ギララ魔導国と敵対しようとする国はなかった。

 宰相ガッブルリが、後ろ盾に担ぎ出そうと画策するのも良くわかる。

 チチェローネはバッと扇子を開いて、自らを仰いだ。


「これで、ようやく〈逆断罪イベント〉の舞台が整いそうね。

 私たちの側から、パーティーを開く口実が出来たんだから。

 そう、『魔導国皇太子ラオコーン様の歓迎会』よ。

 親交のある国家の皇太子様が来訪してくれたんだもの。

 パーティーを開催する、立派な口実よね。

 そこへ、オネスト王太子とリリアーナを招いてやるの。

 もちろん、あの二人は、自分たちが主催する即位式があるから、参加したりはしないだろうけど。

 ーーでも、良い気味だわ。

 あの二人が主催する式典か、私たちが催すパーティーか、どちらに多くの貴族が参加するか、見物よね。支持者の実数が、白日の下に晒されるのだから。

 新王に即位するなんてうそぶいても、ガラガラの会場ではガッカリするでしょうね。

 あははは。

 ヤツらが悲嘆に暮れる間に、私は、大勢の貴族や、諸外国から来訪した方々を前に、王太子と女狐を断罪してやるのよ!

 ヤツらが不在だろうと、構わないわ。

 まして、私が婚約解消できるとか、誰と結婚するか、なんて二の次。

 ヤツらに大恥をかかせられるなら、私はそれで満足よ!

 正式な〈逆断罪イベント〉は、その後でも開くことができますからね」


 おほほほ、とチチェローネは上機嫌に肩を揺らす。

 が、その陰で、宰相ガッブルリは、密かに頭を抱えていた。


(まずい。チチェローネ嬢をこのままギララ魔導国に渡してしまっては、ランブルト王国は大悪魔に呪われたままで滅亡しかねない……)


 宰相ガッブルリの目的は、あくまで〈大悪魔によるランブルト王国滅亡〉の阻止である。

 そのために、大悪魔の召喚主であるチチェローネと懇意にしてきた。

 濡れ衣を着せたオネスト王太子を廃嫡にすることで、彼女の機嫌を直し、その結果、大悪魔による呪いを発動させないよう腐心してきた。

 ところが、このまま魔導国の皇太子のところにチチェローネが嫁いでしまったら、彼女に汚名を着せたまま、外国に逃げられてしまう。

 我が国に対する彼女の怨みが消えずに、大悪魔が動きかねない。


 宰相ガッブルリの焦りを感知して、第一王子アレティーノは、真剣な面持ちで語りかけた。


「ガッブルリ閣下。

 私がチチェローネ嬢と二人きりになれるよう手配できないだろうか」


「どうするのですか?」


 頭を抱えながら問う宰相に向かって、王子は真顔で答えた。


「愛を告白します」


「え!?」


「躊躇している場合ではありません。

 私がチチェローネ様の心を射止めなければ、国が滅びますよ!」


「……」


 ガッブルリには疑いがあった。

 魔導国の皇太子を動かしたのは、チチェローネが召喚した大悪魔なのではないか、と。

 どうして魔導国の〈親水晶〉のみに、チチェローネと結婚する映像が映ったのか。

 大悪魔による力が働いたのではないか。

 第一王子の目が見えるようにできるほどの、人智を超えた力の持ち主だ。

 外国にある水晶であっても、どのような細工でも可能だろう。


 そして、かの大悪魔は、このランブルト王国を滅ぼそうとしていると見て間違いない。

 愚かなオネストが濡れ衣を着せたがゆえに、チチェローネ嬢は深く国を怨んでいた。

 なんとしても、彼女を宥めて、滅国をやめてもらうしかない。


 ガッブルリはアレティーノの肩を掴んで、真剣に懇願した。


「頼む。チチェローネ嬢の心を射止めるのは殿下しかおりません。

 決して、外国の皇太子などに彼女を奪われることのないように」


 アレティーノは無言でうなずく。

 荒唐無稽にみえながらも、第一王子アレティーノの求愛に賭けるしかないようだった。



 翌日、ランブルト王国の王宮奥深くの内廷ではーー。


 オネスト王太子がベッドから跳ね起き、声を張り上げた。


「な、なんだと!?

 あのギララ魔導国の皇太子がやって来て、チチェローネとの婚姻を希望している、だと!?」


 今まで有利に事を運んできたオネスト王太子も、寝床で、予言省職員からの書状を目にして驚愕した。

 今、同じベッドで薄目を開けた女性リリアーナが、「どうしたの?」と尋ねるが、即答できない。

 しばらく政治状況を鑑みて、眉間に皺を寄せる。


 まず初めに思ったことは、これで迂闊に、チチェローネの処刑は出来なくなった、ということだった。


 外国の、しかも自国と対等以上の国の皇太子が嫁に迎えようとしている女性を死刑に処したら、それを口実に戦争が勃発しかねない。

 しかも、相手は魔道具先進国のギララ魔導国である。

 ランブルト王国も大国だが、戦災は大きなものとなるだろう。

 負けるかもしれないし、勝てたとしても、いたずらに国力を消耗するに決まっている。


 オネスト王太子は歯噛みした。


「ま、魔導国までが介入してくるとは、聞いてないぞ。

 おそらくガッブルリの奴が暗躍しているんだろうが……ほんとうに大丈夫なのか?」


 オネスト王太子は、ベッドで寝そべりながら、両手で顔を覆う。

 鷹揚な態度が持ち味のオネストだが、不測の事態には極端に弱かった。   

 ガタガタと、小刻みに身を震わせる。

 それでも、ベッドを共にしたリリアーナは、彼の胸板に耳を当てて面白がった。


「あら、早鐘のように荒い鼓動ですね」


「わ、悪いかよ……」


「でも、心配いらないわ」


 相変わらずのゆとりを崩さない恋人に、オネスト王権代理は半身を起こして声を荒らげた。


「魔導国の水晶が、皇太子とチチェローネの婚姻を未来図として映し出したというのだぞ!?」


 王太子と懇意な予言省職員が、ラオコーン皇太子が口にしたセリフを、かなり詳細に伝えていた。

 リリアーナは王太子の太腿を枕に、あははは、と笑った。


「そのようなルートは存在しないのですよ、オネスト殿下。

 ラオコーン皇太子とチチェローネが結婚するはずがないんです。

 方針に変わりありません。

 ランブルト王国の滅亡を避けたいのなら、殿下はチチェローネを切り捨てるしかないわ」


「では、このまま、ラオコーン皇太子に好きにさせよ、と?」


「まさか。そんなこと、許しませんよ。

 一刻も早く、チチェローネを断罪して処刑しないことには、彼女の中から大悪魔が顕現して、滅国に至るのですから。

 とにかく、チチェローネを追い込んで殺すのです。

 魔導国の動きについては、無視して結構。

 どれほど魔道具の技術が優れていたとしても、現実世界でゲームをやり込んだ私以上に、イベントを知っている者は魔導国にだっていないわ」


「現実世界って……君は時々、訳の分からないことを言う。

 まあ、そこが魅力的なんだけどーーあぁ!?」


 オネストは枕元にあった、もう一枚の手紙を目にして、素っ頓狂な声をあげた。


「どうしたの?」


 身体にピッタリ貼り付くリリアーナに向けて吐き捨てた。


「ちくしょう、ガッブルリのやつ、狡猾な手を!

『魔導国皇太子が来たのを歓迎する』って口実でパーティーを開くようだが、その開催日時を、俺が新王に即位する式典の日取りにピッタリ合わせて来やがった!

 しかも、俺とリリアーナに対して連名で招待状を送って寄越すとは……」


 日頃から、宰相ガッブルリは、内廷にリリアーナを招くことに苦言を呈してきた。

 それでも王権代理の権限で連日、リリアーナと寝食を共にしていることを承知していて、嫌味で連名の招待状を送って寄越したのだ。


 オネスト王太子はグシャリと招待状を握り潰した。



 それからの五日間ーー。

 ランブルト王国の貴族たちの間では、動揺が広がっていた。


『オネスト王太子が王権代理に就任したお披露目パーティー』と、『魔導国皇太子ラオコーン様の歓迎パーティー』が、開催日時が完全にかぶってしまっていたのだ。


 すでに、王太子に出席の意向を示していた貴族たちは頭を抱えた。

 いまだ年若いオネスト王太子と、現役の宰相ガッブルリとが張り合ったとしたら、貴族はどちら側につくべきなのか?

 去就を決めかねていた。


 貴族たちは互いに会合を開いては話し合っていたが、やはり気になったのは、すっかり影が薄くなった国王陛下についてであった。


「国王陛下はいかがなさったのか。

 このような異常事態に際しても、お姿を見せないとは」


 国王夫妻が病を得て倒れたという噂が真実味を帯びてきた。


 その頃、バッファ辺境伯も頭を悩ませていた。

 娘のカスティリオーネから、王太子を弾劾する文書を受け取り、「オネスト王太子が新王に即位し、リリアーナを王妃にするのを阻止してもらいたい」と言われた。

 だが、バッファ辺境伯の領地は蛮国と国境を接し、絶えず紛争を抱えている。

 紛争地帯を抱える辺境にあって、ギララ魔導国から魔道具を供給されなくなったら、蛮国との戦争に支障をきたしてしまう。

 ゆえに魔導国皇太子を粗略に扱うわけにはいかなかった。


 二つのパーティーが開催される三日前、吐息を漏らしつつ、バッファ辺境伯は娘に言い渡した。


「私は魔導国皇太子の歓迎パーティーに出向く。

 カスティリオーネは好きな方へ出れば良かろう」


「それは困ります」


 可愛い娘の懇願に、父親は渋い顔をする。


「我が領地のことを思えば、仕方ないではないか。

 訊けば、おまえは王太子殿下を断罪しようというのだろう?

 それならば、おまえも魔導国皇太子の歓迎会に出席すれば良い。

 その場で、オネスト王太子の罪をあげつらってみれば良い。

 たとえ王太子本人が不在でも、こっちの方が参加者が多いはずだ」


 魔導国皇太子の歓迎パーティーは、宰相ガッブルリが主催するのだ。

 若造の王太子が主催する式典よりは有力貴族が集まるに違いない。

 現に、すでに多くの貴族家が、王太子側には代理の者を寄越すと決めていた。

 それでも、さらに多くの、しかも有力な高位貴族は、宰相の機嫌を損ねないよう、王太子側のパーティーに代理すら派遣しない不参加を決め込んでいるのが実情だった。


「おまえの見立てでは『新王の即位式になるはず』と言うが、それが事実なら、オネスト王太子殿下も、正直にそういう名目で儀式を挙行すれば良かったのだ。

『王権代理に就任したお祝い』などという、どうでも良い口実で、我ら高位貴族を集めようとしたのに無理があったのだ」


 順々と諭す父の言葉に、娘が力なくうなずいていたとき、執事からチチェローネ公爵令嬢の来訪が告げられた。

 バッファ辺境伯邸に、チチェローネが出向いてきたのは何度もある。

 もはや、邸内で勤める誰もが、彼女を脱獄犯扱いにはしていなかった。


 相変わらず、革鎧をまとう侍従を引き連れて登場したチチェローネ公爵令嬢は、扇子を大きく開いて、驚きの宣言をした。


「バッファ辺境伯様とカスティリオーネ様、ご機嫌麗しゅう。

 さっそくですが、近く開催されますパーティーでは、お二方ともども、ラオコーン皇太子様の歓迎会にいらっしゃってくださいな。

 私、皇太子からのプロポーズを受けるかもしれませんので」


「な、なんだとっ!?」


「そんなーーチチェローネ様、オネスト王太子への断罪は……?」


 目を丸くするバッファ辺境伯父娘に対し、チチェローネは侍女に勧められた席に着き、ティーカップを傾けながら答えた。


「そうそう。

 カスティリオーネ様とお約束した〈オネスト王太子とリリアーナを断罪するイベント〉は、皇太子様の歓迎会が開かれる式場ーー学園の舞踏会場で行ないますから、ご安心を。

 おそらくは、欠席裁判という形になりましょう。

 それでも、こちらのパーティーの方が多くの方々が出席なさっておりますからね。

 白黒つける舞台は後日、裁判のときでも構わないでしょうし、あるいはもっと良い断罪の舞台がセッティングできるかもしれませんから、その折にはご協力願います。

 が、とりあえずは、宰相閣下が主催する『皇太子様の歓迎パーティー』に出席してください。お願いします」


 ポカンとする娘をよそに、父親のバッファ辺境伯は固唾を飲んだ。

 チチェローネの背後にある、宰相ガッブルリの意図が透けて見えた気がしたのだ。


(相変わらず、食えない男だな、ガッブルリは。

 これを機会に、すべての貴族に、どちら側に就くか決めさせるつもりか。

 まさか、ランブルト王国で内乱を起こそう、ということではあるまいな!?)


 三日後に開かれる二つのパーティーのどちらに出席するかで、〈宰相派〉なのか、〈王太子派〉なのかを、宰相閣下は識別するつもりだ。

 やはり、宰相ガッブルリは多数の高位貴族を取り込んで、チチェローネを擁して王太子を追い落とすつもりらしい。

 ギララ魔導国の皇太子を呼び込んだのも、魔導国が後ろ盾になっていることを内外に向けて喧伝するためだろう。


 しかしーー。


 バッファ辺境伯は真剣な表情で、チチェローネに問いかけた。


「失礼ながら、チチェローネ公爵令嬢。

 いくら宰相閣下が後ろ盾となろうとも、貴女を一方の勢力の看板に据えるには問題が多すぎる。

 筆頭公爵家のご令嬢とはいっても女性でもあるし、なにより元死刑囚の脱獄犯だ。

 せめて、カインズ王子でも擁立していればーー」


 国家の実権を争う相手として、将来の国王と認定された王太子に対抗するには、チチェローネでは弱すぎる。当然の指摘だった。

 が、チチェローネ公爵令嬢はニッコリと笑みを浮かべた。


「バッファ辺境伯のご指摘、ごもっともですわ。

 ですから、いかに因縁があろうとも、私がオネスト王太子に対抗するのではありません。

 皇太子を歓迎する主催者は、私でも宰相閣下でもございません。

 もう一人の、私の婚約者候補であられます、アレティーノ第一王子様ですわ」


 バッファ辺境伯父娘は、思わず席を立って声を上げた。


「なんと!?」


「第一王子?? オネスト殿下に、カインズ王子以外のご兄弟が!?」


 チチェローネは澄まし顔で答える。


「ええ。オネスト殿下の二歳上のお兄様です。

 長らく目を患っておりましたが、この度、病が癒え、視力を回復なさいました。

 魔導国の魔術師による尽力の賜物だとか。

 宰相閣下は、アレティーノ第一王子こそが、次代の王に相応しいと太鼓判を押しておられます。

 僭越ながら、私、チチェローネも、同様の意見ですの」


 バッファ辺境伯の懸念材料が一気に払拭された。

 彼は、盲目の長男が王家にいることは知っていた。

 が、オネストが王太子となった時点で、王位継承権を剥奪されたものとばかり思っていた。

 だが、病が癒えたのだ。

 だとすれば、アレティーノ第一王子は、オネスト王太子に対抗する、この上ない御輿になる。


 バッファ辺境伯父娘は、揃ってチチェローネと握手した。


「わかりました。

 それでは、貴女様のお相手候補のお二人に面を通すためにも、そちらのパーティーに出席させていただきますよ」


「ほんとうに、チチェローネ様には驚かされましたわ。

 まさか、このような豪華な隠し球が二つもおありだとは。

 ですが、オネスト殿下は渡しませんし、あのリリアーナは追い払いますわよ。

 その計画に、変更はございませんわね?」


 チチェローネは強い力で、バッファ父娘の手を握り返した。


「ええ、もちろん。あなた方の参加を心待ちにしておりますわ。

 そして、できればお知り合いの方々に、私、チチェローネに求愛なさってくださるお二人について、お知らせしていただければ幸いです」



 ランブルト王国の政治中枢で、勢力が二分されようとしていた、その頃ーー。


 同じように、ランブルト王国のレフルト教会でも大騒ぎが起こっていた。

 王都の中央教会に勤める聖職者たちは、互いに顔を合わせてはささやきあっていた。


「教皇庁から詰問の使者がいらっしゃったとか」


「それを、司教様が追い返したというぞ」


「馬鹿な。中央のレフルト教皇庁と対立するおつもりか、べぺ司教様は!?」


 いくらランブルト王国が強国だといっても、今現在は国王陛下は姿をお見せにならないし、チチェローネ公爵令嬢にまつわる事件もあって、国がまとまりそうもない。

 さらに、近々開催されるパーティーを巡って、貴族たちが右往左往しているという。


 そんな非常事態の折に、教会までもが内部で争っていて、大丈夫なのか?

 それに、過日にあった修道院での虐殺事件についても、いまだに犯行首謀者が特定されておらず、未解決のままだーー。


 神父や修道士たちが額を寄せ合って語り合うのは、致し方ない状況だった。


 が、彼らの煩悶も、すぐに終息してしまった。

 残忍な暴力によってーー。


 ガチャと音がして、教会の大扉の鍵が開けられる。

 そして、何十人もの、白い甲冑をまとう騎士団が剣を掲げて押し入ってきたのだ。


 聖職者たちは、振り向きざまに悲鳴をあげた。


「あ、貴方がたは!」


「ま、まさか、聖騎士団!?」


 狼狽(うろた)える何十人もの聖職者たちを取り囲んだ武装集団は、剣を構えて取り囲む。

 そして、赤髪の鎧騎士が声高に宣言した。


「教皇様のご意向をお伝えする。

 悪魔崇拝者を討つべし!

 ランブルト王国の教会には浄化が必要だ」


 それから、数刻後ーー。

 司教べぺ不在の中央教会で、血の雨が降った。

 現場で居合わせた聖職者で、息をする者は一人としていなくなっていた。


 読んでくださって、ありがとうございます。

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