◆16 現状の不利は覆しがたくーー暗躍するリリアーナ!
レフルト教修道院での虐殺事件が、世間を騒がせ始めた頃ーー。
チチェローネ公爵令嬢の意識も完全に復活していた。
かけられた石化魔法が弱かったうえに、大悪魔の意識がピンピンしていて、石化を途中で押し留めてくれた。
だからこそ、チチェローネの心身への感染が弱まって助かったのだ。
あの日、リリアーナから、オネスト王太子の新王即位宣言をされてから、三日後ーー。
サットヴァ公爵邸では、オネスト王太子とリリアーナに対する〈逆断罪イベント〉を成立させるための作戦会議が開かれていた。
チチェローネ公爵令嬢は、テーブルをバンと叩いた。
「まずは、どうやって〈逆断罪イベント〉を開催するか、よね!
現状では、私の名を使っても、パーティーひとつ開けないから」
〈脱獄中の死刑囚〉が主催する舞踏会に参加する人間など、いるはずがない。
ガッブルリ宰相閣下によれば、公的には、私、チチェローネ公爵令嬢の処刑は延期されたらしい。
としても、その罪状認否は保留になったままだ。
結局、自分でパーティーを主催するのは諦めて、他人が別の名目で開催したパーティーに潜り込み、オネスト王太子やリリアーナが参加したところを、頑張って途中で乗っ取るしかないのか?
そもそも、復讐したいメンバーがこぞって参加する、そんな都合の良いパーティーが開かれるだろうか?
もし開かれたとしても、どうやって乗っ取る?
わからないことだらけだ。
私、チチェローネはとりあえず、現在、意のままに手足の如く使える配下を確認をする。
もとよりサットヴァ公爵家に仕える執事、侍女、下男下女などが数名いるが、彼らは父のサットヴァ公爵に仕えている人たちで、〈悪魔と契約したチチェローネお嬢様〉と平然と付き合える性格をしていない。
彼らには全員、当主たるサットヴァ公爵夫妻が昏睡状態にあることを理由に、暇を出していた。
その結果、現在、サットヴァ公爵家にいるのは、大悪魔の力によって眷属化した者がほとんどになっていた。
まず、飼犬から人間に変じたグループーー黒服の執事一人と、メイド服の侍女二人、そして革鎧を装着した護衛の男二人。
さらに、練兵場から選抜した、血塗れの騎士六人がいる。(一人は宰相館に駐在中)
とりあえず、元飼犬の、黒服執事にシェパードという名前を与えた。
「シェパード。
貴方にはお屋敷の管理を任せてるけど、〈逆断罪イベント〉を開催する手配はできます?」
シェパードは首をかしげるばかり。
チチェローネは肩を落とす。
(元飼犬だけに、外の世界を知らないだろうし、そもそも人間社会に疎いようね。
サットヴァ公爵邸内での作業か、直接的な命令にしか従えないかぁ……)
脳内で、大悪魔の声が響く。
「そう腐るな。戦闘力で考えれば、並の人間より、よほど使える者ばかりだ。
血塗れ騎士どもなんかは、さすがは殺し合いの渦中で生き残っただけはある。
対人間での戦闘力は抜群だぞ」
そうは言っても、今、チチェローネが欲しいのは肉体派の人材ではない。
頭脳派の配下だ。
大悪魔に、ダメ元で問うてみる。
「貴方の人外の手下とか、動員できないの?
ほら、今の貴方みたいに、人間の身体の中に入ってさ、好きに操れる系の……」
大悪魔は、少々呆れた口調で答えた。
「魔界には、そういった能力を持つ悪魔が無数におる。
が、契約が果たされた後でなければ、彼らをこの人間界へと召喚できぬ。
契約成就前は、其方を憑代として眷属化した人間しか使えんのだ」
「つまり、私の復讐が遂げられるまでは、貴方の呪いや魔力で手助けはしてくれるけど、人材はこの人間世界で現地調達するしかない、というわけね」
「そうだ」
ーー仕方ない。
〈逆断罪イベント〉で、私に都合の良い証言をしてくれる予定の人材に目を向けてみよう。
まず、執事ヴァサーリ。
彼は本来、サットヴァ公爵家に仕える、若手執事だ。
でも彼は、主人である私、チチェローネ公爵令嬢を裏切った。
かつてオネスト王太子によって仕切られた〈断罪イベント〉において、執事ヴァサーリは、「チチェローネが行なった悪事」を幾つもでっち上げた。
生徒会の募金を使い込んでアクセサリーを買ったとか、カンニングによって学年トップの成績を取り続けた、などと証言した。
が、当然、これらの証言は、すべて嘘。でっちあげだ。
とはいえ、書類を山と積んで、「これがカンニングペーパーだ」と称して「証拠」とした。
ヴァサーリには、そうした用意周到さがある。
生徒会の募金や主人のお金も私的に流用して、自分の服装や、飼犬の餌を購入した。
すぐに金銭を着服する、手癖の悪さもある。
よくよく考えてみれば、〈逆断罪イベント〉において、かつての告発が偽りであったと明言するだけで人間に戻してやると約束したのは、ちょっとぬる過ぎたかも。
ヴァサーリは弟のメルクや侍女のドルチェまでも、うまく唆して動かしながら、自分は責任から逃れられるよう配慮しつつ、あの〈断罪イベント〉に参加していた。
今から復讐計画のために動員しようにも、裏で、いかなる罠を張ってくるか知れない。
要するに、手癖の悪さから、信用できないのだ。
ヴァサーリの対策を考えるだけで、面倒だ。
やはり、ヴァサーリは犬のままにしておくに限る。
今現在、犬になったヴァサーリは、私に対して腹見せして、尻尾をフリフリしている。
足で踏んでやると、嬉しそうに舌を出す。
随分と犬の生活に馴染んでいるようだ。
ーーが、それも私を油断させる擬態かもしれない。
「犬のままでは、ヴァサーリも使いようはない。
かといって、迂闊に人間に戻したら、使えたとしても、いつ裏切られるか知れないわ」
足で蹴って、犬のヴァサーリを脇へ追いやる。
次いで、斜め後ろで控える侍女に、視線を向けた。
頬がげっそりとこけている侍女ドルチェがいた。
彼女が憔悴しているのも当然だ。
水以外、どんな飲食物を口にしようと、毒になるよう呪いをかけているのだから。
もう何日も、彼女は水だけ飲んで生きながらえている。
だから、私の意向を恐れ、身を震わせながら、這いつくばってる。
哀れに見えるけど、当然の報いだ。
侍女ドルチェは〈断罪イベント〉で嘘をついた。
私、チチェローネがリリアーナをお茶会に誘い、毒を盛らせようとしたと証言した。
でも、私はそんなことはしていない。
そもそも、リリアーナをお茶会に誘ったこと自体がない。
それなのに、私を毒殺未遂犯に仕立て上げた。
許せるものではない。
だから、何を食べても毒になる呪いをかけた。
呪いを解いて欲しければ、来る〈逆断罪イベント〉において、
「お嬢様が毒を盛ったというのは嘘でした。
濡れ衣を着せました。
本当は、毒を盛ったのはワタシです」
と証言しろ、と命じてある。
このまま行けば、死にたくない彼女は、私が言うことには必死で従うだろう。
「あなたは小間使い程度には使えそうね。役に立ちなさい」
そう言って、私は手近にあったリンゴを放り投げた。
ドルチェは目の前に転がるリンゴを、ジッと見詰めている。
「安心しなさい。ほんの一部、呪いを解きました。
貴女の好物であるリンゴだけは、食べられるようにしてあげました」
私の発言を耳にするや、リンゴを鷲掴みにして、ガツガツと頬張り始めた。
ドルチェは両目から涙すら流していた。
私は、床にうずくまってリンゴを頬張る侍女を眺め下ろして、溜息をついた。
(死にたくないだろうから、コイツは裏切らないでしょうね。
でも、一介の侍女では、お茶会ですら開催する力はない……)
今度は、反対側の後ろで、元飼犬執事シェパードにしがみつくようにしている存在に目を向けた。
サットヴァ公爵家の跡取りたるメルクである。
彼(彼女?)はどうか?
メルクは実弟でありながら、姉である私、チチェローネを断罪するイベントに参加した。
しかも、「姉に頼まれて暴漢を雇い、リリアーナを襲った」とまで嘘をついた。
そのじつ、夜陰に紛れて、リリアーナを襲ったのは彼ーーメルク自身だった。
偉そうな生徒会長オネスト王太子から、恋仲の女を奪ってやりたいと思ったことが動機だったらしい。
人気のない所ーー裏街でリリアーナに襲いかかった。
それなのに、オネスト王太子が姿を現わして殴り倒され、挙句、リリアーナから、
「メルクさん。貴方がワタシを襲ったのは、お姉様に頼まれてのことですよね!?」
と唆された結果、
「僕がしたくてやったんじゃない。姉上に頼まれたんだ!」
などと嘘の言い訳をしてしまった。
以来、メルクは、オネスト王太子とリリアーナの下僕のようにこき使われる。
姉である私、チチェローネを冤罪で死刑に追い込むまで、都合の良い駒として利用されたのだ。
到底、許せる話ではない。
だから、私はメルクを呪いで女に変え、呪いを解く方法はただひとつ、「リリアーナを襲うこと」にした。
リリアーナに抱きついたら、その瞬間、精力絶倫の獣のような漢になれるよう、設定したのだった。
(メルクについては、大悪魔が何やら隠し玉として利用しようとしているようだけど、よくわからない)
いまや妹になったメルクは、黒服の執事シェパードの後ろに隠れて、内股になってモジモジしていた。
自身の趣味なのか、今では女の子らしい、ひらひらのドレスを身にまとっている。
実年齢より、よほど幼なく見える。
「まあまあ、すっかり可愛くなっちゃって。で、役に立つの?」
隠れてばかりの妹の代わりに、今現在、メルクの面倒を見ている執事に問う。
が、シェパードは黙って首を横に振るばかり。
はぁ、と私は吐息を漏らした。
(たしかに、今の姿は女の子だもんね。
もともと殿方と令嬢の社交界はまったく異なるうえに、こんな女の子仕様じゃね。
今までの知り合いに会ったところで、相手はメルクとは認めてはくれないだろうし、悪くすれば手籠にされちゃうかぁ……)
結局、実家のサットヴァ公爵家絡みの人材は使えないヤツばかり。
使えそうなのは騎士の連中ぐらいか。
かといって、血塗れの騎士七名は悪魔の眷属と化して自我を喪失している状態だからこそ、護衛役に使えている。
(となると、手足となってくれそうなのは、騎士団長子息ロレンツォ(中身はハンス)と、その取り巻きか……)
外部の人間といえるが、今のロレンツォ(ハンス)は使い出があるかも。
彼は私、チチェローネを信奉している。
そして、騎士団長子息として、騎士団員を大勢動員できる立場にある。
大人の騎士は無理でも、騎士爵家の子息子女を丸ごと動員できるなら、かなりの数だ。
とはいえ、彼ら下級貴族は、高位貴族を招待するような舞踏会パーティーを主催できる身分ではない。
私は扇子を開き、口をへの字に曲げる。
(やはり、カスティリオーネ辺境伯令嬢の力を借りるしかないかしら?
ーーいや、彼女の力をもってしても役不足か……)
同世代の貴族令嬢に絶大な影響力を誇るカスティリオーネ辺境伯令嬢でも、女性同士のお茶会はできても、殿方を含めた舞踏会パーティーを開くことはできないだろう。
このままでは詰みだ。
視点を変えよう。
(具体的に、〈逆断罪イベント〉を私が開くなら、舞台はどこにする?
やっぱ、学園の舞踏会場か……)
あそこで卒業式後に舞踏会が開かれ、私、チチェローネは断罪された。
学園内施設を使うとなれば、教師フランは利用できるか?
現在、裏切り教師フランは、私の目の前に放り出されて、横たわっていた。
たびたび青い炎を出しては燃える教師フランを、血塗れ騎士が担いで、公爵邸まで運んできてくれたのだ。
フランは見るも無惨に大火傷を負っており、肌が赤黒く焼けて、全身をビクビクと痙攣させている。
そんな状態の彼女を、軽く爪先で蹴る。
ウッと呻き声をあげるだけで、顔すら上げない。
(これじゃあ、使い物にならないか……)
火炎地獄から解放してあげる条件は簡単だ。
「私に隷従を誓いなさい。
私のためなら、どんな嘘でもつけるぐらいに。
私のためなら、死刑になるのも厭わないぐらいに」
と、私は言明した。
だが、彼女、フランの心が、どうしてもこの条件を受け入れられないらしい。
私、チチェローネへの怒りを抑えられず、教師フランは何度も燃えているのだ。
いつまた燃えるか、わからない。
(まあ、炎で焼かれたあとに治癒魔法がかかる仕掛けだから、死なないんだけど、よくもまあ、しつこく怨み続けられるものね。
熱くて、文字通り、身を焼かれる痛みだろうに……)
反抗的なオンナを使おうとするのは危険だ。
別の場所を考える。
(ーーああ、学園内に設置されている教会なんかは、どうかしら?)
学園附属教会のかつての責任者は、私に黒ミサ主催の濡れ衣を着せた修道女ローレだ。
今現在、ローレは古巣の修道院で、石像になってしまった。
私、チチェローネは復讐として、老修道女ローレの額に、髑髏に蔦が絡まる紋章を刻みつけた。
黒ミサに参加した証ーー悪魔崇拝者の紋章を、彼女に焼き付けてやったのだ。
ローレによって、私が黒ミサの祭壇を築いた、とでっちあげられた報復である。
そして、その紋章を消してもらいたかったら、今後、やるべきことを彼女に伝えた。
「黒ミサを挙行していたのは、リリアーナだった、と証言するのです。
そして、リリアーナが黒ミサを挙行するのを、貴女が見咎めたら、逆に脅されてしまった。
リリアーナから、
『チチェローネ嬢が行なったことにしなさい。さもないと、悪魔の呪いをかけるわよ』
と言われてしまった。
だから、あのように証言させられたのです、と言いなさい。
いずれ開かれる〈逆断罪イベント〉でね」と。
老修道女ローレは、「わかりました」とうなずいていた。
ところが、ほんの一瞬、気を許した隙を突かれ、彼女の全身が赤く光り、真っ白な石になってしまった。
突如、姿を現わしたリリアーナによって、石化魔法をかけられたのだ。
その後、修道院にいた何十人もの聖職者が、身体を切り刻まれて皆殺しにされていた。
リリアーナか、彼女に加担する何者かによってなされた大虐殺であった。
修道院は凄惨な虐殺現場となり、私、チチェローネはふたたび濡れ衣を着せられた格好となった。
が、皮肉なことに、良い効果もあったといえる。
誰もが恐れて触れようともしないおかげで、あの黙想部屋で、石像になったローレはそのまま放置されているようだ。
(教会関係者からは、すっかり私、悪役令嬢チチェローネは忌避されてるようね。
でも、おかげで、教会施設を勝手に使っても、聖職者は誰も文句を付けてはこないかも)
学園内教会で〈逆断罪イベント〉を開く方が、実家のサットヴァ公爵邸などの私邸で行なうよりは、人を集めやすいだろう。
(でも、学園内や教会の中だけで赤っ恥かかせても、胸がスカッとしないわね。
オネスト王太子は、いまや王権代理なんでしょ?
もっと公的な舞台で、リリアーナともども、大恥をかかせてやりたいわ……)
だったら、やっぱり、宰相ガッブルリの力添えが必要かしら?
そんなふうに、「会議」と称しながら、結局は独りで考えてばかりの状態のところへ、宰相ガッブルリから急報がもたらされた。
執事シェパードが手渡した、宰相からの密書に目を通すと、私、チチェローネは、
「やられた!」
と、思わず声を出してしまった。
オネスト王太子が、国王の裁可を表わす印鑑ーー玉璽を内務省から奪った、という大事件の報告だった。
これで、公式文書においては、オネストがランブルト国王としての決定権を手に入れたこととなり、これをもって新王への即位を宣言するつもりらしい。
実際、すでに何通もの親書を諸外国に送付した形跡があったそうだ。
さっそく大悪魔と脳内会議を開いた。
大悪魔はボソリとつぶやいた。
「やはり、リリアーナめが動き出したか……」
たしかに、最近、私を陥れた連中がふたたび暗躍し始めてきたようだが、軽薄なところがあるオネスト王太子とは思えない慎重な行動ばかりだった。
いつもなら、声高に自分の正義を主張して、周りの人々を糾合するやり方をするのに、今回の玉璽強奪は、政治制度の隙を突いての実力行使といえる。
オネスト王太子らしくない動きだ。
かといってリリアーナが策謀主体者としても、平民上がりとは思えない手管でもある。
そもそも、平民でありながら、たいした後ろ盾もないのに、ブリタニカ子爵家の養女に収まったこと自体、異例のことだ。
私はついに直接、大悪魔に問いかけた。
「リリアーナ……あの女は、いったい何者なんですか?」
大悪魔は、リリアーナについて、私以上に、何かを知っているーーそう感じられてならなかった。
特に、石化魔法をかけられた際、大悪魔が表に出て、リリアーナと交わした会話を耳にしたとき、確信した。
大悪魔とリリアーナは、この王国にいる誰よりも、これから何が起ころうとしているのかを知っている、と。
私の問いかけに、大悪魔は困ったようにはぐらかした。
「余には当たりが付くが……今、其方に解説しようにも難しい。
いずれ、向こうの方から暴露してくるであろうよ」
どうやら、知っていることを吐いてはくれないらしい。
でも、いずれは明らかになる、と予測しているようだ。
だったら、今は、目の前の事態に対処すべきだ。
なんとしても、リリアーナと王太子に好き勝手にされたくない。
「さしあたっては、どのように対処すれば……」
私のつぶやきに、大悪魔、〈リリアーナの秘密〉の一端を開示してくれた。
「ヤツは次の展開を、先読みできているのだ。
その展開シナリオに沿った動きをしてくる」
「シナリオ? それは、どういう……」
「この世界を内部から規制している法則とでもいうべきか。
その展開するルートは多様に枝分かれしておるが、数々のイベントを踏まねばならぬ。
そのイベントが発生すること自体は避けられぬ。少なくとも、出だしはな。
だから、できることといえば、途中から自分に都合が良くなるように軌道修正するのみ」
「つまり、リリアーナは正確に未来を先読みして動く。
けれど、それを途中から主導権を奪って、自分の計画にイベントを載せてしまえ、と?」
「そうだ」
どうにもリリアーナの有利な状況が覆せないようだ。
でも、私、チチェローネは負けるつもりはない。
もともと、断罪イベントを喰らって、死刑判決を受けた身だ。
これ以上、堕ちようもない、最悪な状態からのリベンジを仕掛けているのだ。
結局、現状では、自分には有効な駒がない。
だから、宰相ガッブルリの協力は不可欠らしい。
そもそも、オネスト王太子やリリアーナを引っ張り出さないことには〈逆断罪イベント〉は開けないのだから、彼、彼女を引っ張り込む口実をもったイベントを開催する能力があるのは、現状、宰相閣下しかいない。
幸い、宰相ガッブルリは私に協力的で、いつでも呼んで欲しいとすら言ってくれた。
が、犯罪者と世間で思われている私、チチェローネ公爵令嬢の呼び出しに、宰相閣下が応じるわけにもいくまい。
「今すぐ、宰相閣下と話がしたいわ。リリアーナを出し抜くために!」
密書を受け取ってすぐ、私、チチェローネの方から、宰相館に向けて馬車を走らせた。
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