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探偵キリコ

ロハスの街での聞き込みは、驚くほどあっさりと実を結んだ。情報をくれたのは、人間に混じりながら静かに暮らしている魔族たちだ。彼らが小声で教えてくれた内容に、私は耳を疑った。


「メイラちゃんがこの街にいる……しかも宿屋で働いているって?」


信じがたい。あの、わがままで自由奔放、何でも自分の思い通りにしないと気が済まないお姫様が……「働いている」だって?


「嘘だ。メイラちゃんが?仕事をしているなんて……」


頭の中に、メイラちゃんがホウキを持っている姿や、皿を洗っている姿が浮かぶが、どれも想像しにくい。むしろ、途中で遊び始めたり、仕事を放り出して駄々をこねるメイラちゃんの姿の方が現実味がある。


「一体、どういうこと……?」


しかし、彼女がこの街にいるなら話は早い。どうやら「クライヤード」という宿屋でアルバイトとして働いているらしい。メイラちゃんの安全を確認するためにも、私はこの宿屋を訪ねるしかなさそうだ。


クライヤードの入り口で、私は一度深く息をついた。ここにメイラちゃんがいるというのなら、たとえこの宿がどれだけ人気でも関係ない。私は彼女を守るためにここまで来たのだ


通りを歩く人々の噂話が耳に飛び込んでくるたびに、私の胸は締めつけられる。「幼いのにとっても可愛い」「あの小さな子が接客してくれるだけで、宿の価値が上がる」などと、まるでメイラちゃんを人形のように語っている

許せん、人間ども、、、


今は昼時だ、客も多いだろう、とりあえず窓から偵察をする事にした

 


食堂は大忙しの昼時。マリーとハナは、手際よく料理を運んだり、オーダーを取ったりと、あちこちを駆け回っている。まるで舞台裏のプロフェッショナルたちが、次々とシーンを変えていくかのような華麗な動きだ。その中で、ひときわ自由なペースで動いているのが、メイラだった。


メイラは、小さな体を精一杯使って、食堂の「お客対応係」を務めている(本人はそう思っている)。テーブルの隅から隅まで、呼ばれた方へと意気揚々とテクテク向かっていく。


お客が手を振ってメイラを呼ぶ。「メイラちゃん、こっちおいで!エビフライがあるよ!」


「うむ、今行くのだ!」と元気よく応え、テーブルの上のエビフライをまるで自分のご褒美のようにホークでカプリ。口に含んだ瞬間、目をキラキラさせて「うまいのだ!」と心からの感想を漏らした。小さな舌でエビフライの旨みをしっかり堪能し、満足気に頷いている。


すると、今度は反対側のテーブルでお客が手を振り、「メイラちゃん、こっちも!アイスクリームだよ!」と、これまた甘い誘惑を差し出してくる。


メイラはちょっとだけ得意げに「ふむふむ、すぐ行くのだ!」と向かい、アイスクリームを見て歓声を上げた。そして、スプーンを持つと、ひとさじすくって口に入れる。冷たいアイスが口の中に広がると、「甘いのだ!」と目を細め、満足げに笑顔を浮かべた。


しかしメイラは食べることに集中しているわけではない(本人は)。一応、彼女なりに仕事をしているつもりなのだ。そんなメイラの姿を見て、マリーが苦笑しながらも、そっと手を振っている。


ふと、メイラはお客に囲まれている自分に気づき、両手を腰に当てて、堂々と言い放った。「ふー、今日は忙しいのだ!働き者の私は、休む暇もないのだ!」


周りのお客たちは思わず吹き出し、ハナもその様子に笑いを堪えながら、小さく肩をすくめた。「ふふっ、メイラちゃん、今日も食堂の『お手伝い』ご苦労さまね。」


メイラはそれに気づくと、胸を張って「うむ、任せるがいいのだ!」と、またお客の元へ向かう。まるで自分が食堂の主役であるかのように、誇らしげに動き回るメイラに、食堂の雰囲気がますます和やかになった。


窓の外から、こっそりと食堂の様子を覗き込むキリコ。その鋭い角と黒髪が、影の中で少しゆらめいている。普段は恐れられる彼女だが、今はまるで別人のように、目尻に涙を浮かべていた。


「うう…大きくなりましたね、メイラちゃん…偉いですよ…」と、つぶやきながらその瞳は輝いている。


メイラがテーブルの間を元気に行き来しながら、お客たちに可愛がられ、まるで主役のように振る舞っている姿。キリコはそれを見て、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。


「こんなに小さかったあの子が、ちゃんと働いているなんて…立派になりましたね…お姉ちゃん感動です…」とつぶやくと、キリコはそっと袖で涙を拭いた。彼女の中でメイラはいつまでも守りたい大切な存在であり、こんな風に他人と関わり、笑顔を分かち合っている姿を目にすることが、思いがけず嬉しくてたまらなかった。


「えらいですよ…ちゃんと社会に出て…人間とこんなに仲良く…」と、また涙があふれてくる。キリコは気づかれないように窓の影に隠れながら、ただその様子を見守り続ける。


その姿は、周囲から見れば強面の「夜叉鬼人」が泣いているようには到底見えない。しかし、心の中で愛情深くメイラを思う気持ちは、まぎれもなく優しく温かなものだった。


レオンがふと窓の外に目を向けると、視界の隅で黒く長い髪と白い肌、そして鋭いツノがふたつ揺れているのが見えた。


レオン:「こわっなんだ?あれ……」


その奇妙なシルエットに気づいたレオンは、窓越しにさらに目を凝らす。どうやら何かを覗き込んでいるようだが、その動作があまりに堂々としている。妙な予感がして、すぐさま外に出て確認することにした。


外に出てその正体を確かめると、そこには窓から身を乗り出して宿の中を覗き込んでいる魔族の姿があった。レオンはそっと近づき、注意を引くように声をかける。


レオン:「おい、お前なにしてんの?」


魔族がハッと驚いて振り返る。その表情には、焦りと戸惑いが浮かんでいる。窓の中をじっと見つめていたのは夜叉鬼人・キリコだった。彼女は涙をぬぐっていたことに気づかれまいと、急いで腕で顔を拭い、冷たい視線でレオンを睨み返した。


キリコ:「何だ貴様は!邪魔をするな!」


その言葉とともに、キリコは鋭い爪を振りかざし、すかさず手刀を突き出した。その一撃には、怒りと焦りが渦巻いているようだったが、レオンは間一髪で体をひねり、軽くその攻撃を避ける。


レオン:「あぶねっ!ちょっと、いきなり何すんだよ!って……お前、もしかして泣いてんの?」


レオンの言葉に、キリコの目が驚きと戸惑いでわずかに見開かれる。涙の痕が残る顔には、まだ少し動揺が浮かんでいる。


キリコ:「気安く喋りかけるな!この、ゴブリンめが!」


キリコは鋭い爪を振りかざし、冷ややかな眼差しでレオンを睨むと、空気が一気に張り詰める。彼女は一瞬の迷いもなく、手刀を突き出した。その一撃には、彼女の怒りと焦りが込められていた。


レオンはその手刀を間一髪でよけ、まるで軽く受け流すようにステップを踏んだ。


レオン:「おい、落ち着けって。いきなり何すんだよ!」


キリコはなおも睨みつけ、爪を揺らす手には震えが走っている。怒りと不安が交じり合い、レオンに冷たく刺さるような視線を向けた。


レオンは口元にわずかな苦笑を浮かべると、気取らない様子で言った。


レオン:「おい!やめろって、ん?お前、キリコか?」


キリコの目が一瞬大きく見開かれた。怒りの中にかすかに動揺の色が浮かび、その視線は鋭さを保ちながらも、どこか揺れているようだった。


キリコ:「……私の名前を気安く呼ぶな!ふざけるな!ゴブリン風情が、私に近づくな!」


彼女は再び攻撃の姿勢を取り、レオンに向かって拳を振りかざした。しかし、レオンは素早く身をひるがえし、軽くキリコの手をつかむと、そのまま冷静に彼女の目を見つめ返した。


レオン:「落ち着けよ、キリコ。俺だよ、勇者レオン!わかるだろ?」


キリコはその言葉に一瞬戸惑った。レオンの手は、思いのほか穏やかで、キリコに向けられる眼差しも、敵意を持たない静かなものだった。


キリコ:「ふん……ゴブリンが、信じられると思うか?あと、泣いてなんかいないもん、ところで、お前、人間やめたのか?」


レオンは軽く笑って肩をすくめた。


レオン:「違うし、やめてねーし、ハゲただけだし!」

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