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マリーの楽しみ

私の朝は早い、起きて顔を洗い、歯を磨く、そして長い髪が料理の邪魔になるので三つ編みにする

身支度が済んだら裏口に向かう、扉を開けると早朝に配達してもらう、玉子や牛乳や野菜が入った箱を厨房に運ぶ

料理はあんまり上達してない、でも作る事は大好きで、お昼にクライさんが、「まかない」作ってと、味見をしに来てくれる、お菓子作りはメキメキと上達していく

暇をみてはメイラちゃんが、「今日は何なのだ、ケーキか?」と、遠回しに要求してくる、とても可愛い

新作のお菓子を作るのは夕食後の、プライベートの時間だ、味見してくれるのは、ハナさんとメイラちゃん、2人はいつも美味しいとだけしか言ってくれない

正直男性の意見も聞きたい、ザグスさんもクライさんも甘い物は苦手だから、すすめられない

貴族時代の、優雅にお茶をする日々より、今の毎日がとても楽しい

そんな私に転機が訪れる

数週間前のこと、クライヤードに新しい従業員さんがやってきた。その人は、私より少し年上の男の人で、やけに堂々としていて……そして、ハゲている。最初はその頭の輝きに少し驚いてしまったけれど、今では彼の一番の「特徴」として親しみすら感じている。帽子を脱いでキラッと光る頭を見ていると、何だかその明るさが彼自身の人柄と重なるようで、思わず微笑んでしまうこともある。


この人は、一言でいえば「不思議な人」だ。自分のコンプレックスも隠さずに、堂々とみんなの前にさらけ出して笑いを誘っている。最初はからかう人もいたけれど、レオンさんの飾らない態度を見て、いつの間にかみんなの笑いの輪の中心に彼がいることに気づいた。ハゲを隠さず、むしろ自ら笑いのネタにして場を和ませるなんて……。わざとなんだろうな、と思うと、レオンさんの優しさが胸にじんわりと広がる。なんて人なんだろう、なんてあたたかい人なんだろう、と自然に感じてしまう。


それに、レオンさんは私のお菓子の「毒味役」にもなってくれたのだ。まだ修行中の私は、お菓子作りに日々奮闘しているけれど、どうしても一番最初に味見してくれる人がほしかった。クライさんやザグスさんも励ましてくれるけれど、レオンさんの率直な感想はいつも私に勇気をくれる。レオンさんは遠慮せず、でも私を思いやりながら感想をくれるから、心がふんわりと温かくなるのだ。


ただ……私はまだ直接お礼を言う勇気が出なくて、毎回こっそり新作のお菓子を作っては、メイラちゃんに託している。小さな箱に詰めたお菓子をそっとメイラちゃんの手に渡し、レオンさんの反応を待つ。メイラちゃんは天真爛漫な笑顔を浮かべながら「わかったのだ!」と小さな手でしっかり箱を握って、楽しそうにレオンさんの部屋にテクテクと向かう


そして、数日後。メイラちゃんが小さな手にぎゅっと握りしめた手紙を持って帰ってくる。「ほら、これ!」と少し得意げな顔で渡してくれるメイラちゃんの姿にほほえみながら、私の心臓はドキドキと音を立てる。おそるおそる手紙を開くと、レオンさんの大きく丁寧な字で、感想が書かれている。


「今回のお菓子、最高だったよ!ちょうどいい甘さとふわっとした食感が絶妙で、思わず一気に食べちゃった。次も楽しみにしてる!」


その文字を追うごとに、彼の言葉がまるで砂糖のように心に溶けて、じんわりと広がっていく。レオンさんの笑顔が頭に浮かび、胸が熱くなる。この一言がどれほどの勇気を私に与えてくれるだろう。思わず手紙を抱きしめ、メイラちゃんにお礼を言うけれど、レオンさんに直接感想をもらうのはまだ恥ずかしくて……。だけど、この温かい気持ちは、間違いなく私の中に深く刻まれていく。


それからというもの、私はレオンさんのために新しいお菓子のアイデアを考えるのが楽しくてたまらない。甘さは控えめにしたほうがいいか、それともクリームを少し増やしてみようか……。彼が食べてくれたときに、どんな表情をするんだろう?そんな想像をしながら、キッチンで生地をこねる時間が、これまで以上に愛おしいものになっていく。


焼き上がったお菓子をそっと箱に詰めるとき、私はこっそり「ありがとう」と心の中でつぶやく。新しいお菓子を作るたびに、少しずつ成長できる自分が嬉しい。そして、それを一番最初に食べてくれるレオンさんがいることが、私にとってどれほど幸せなことなのか――そんな気持ちが、箱の中のお菓子にこもっている気がする。


レオンさんの感想が届くたび、私は心の中で小さくガッツポーズをする。このささやかな交流が、私の中に小さな幸せの種を植え付け、毎日少しずつ花を咲かせているようだ。


誰にも気づかれない、静かでやさしい私たちだけのひととき。

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