目覚める、勇者の正義
メイラが胸を張って、少し得意げに言う。
「さぁ、勇者よ!我に続くのだ!」
そう言うと、テクテクと前を歩き出す。俺はそんな彼女に付き従い、まるで魔王に従う部下のような気持ちで食堂へと向かった。
食堂に着くと、誰もいない。……あれ?マリーさんはどこにいるんだろうか?辺りを見回していると、食堂の奥から「カタカタ」という軽い音が聞こえてきた。誰かが何かを作っているのか?
音のする方に耳をすませると、クライの声が聞こえてきた。
クライ:「へーいいじゃん、マリーいいじゃん、だいぶ上手くなってきたじゃん」
うわ、クライがいるじゃないか。しかもマリーさんも一緒にいるみたいだ。俺はつい聞き耳を立ててしまった。
クライ:「もう少し振ってみなよ、そうそう……けっこう振れるようになってきたな、そう」
……ん?何を振っているんだ?俺はますます気になって、さらに耳を澄ませる。
クライ:「声が小さいな。まぁこれだけ振れれば、宿泊客に出しても恥ずかしくないだろ、ハハ、な?ザグス?」
ザグスとか言う奴の声も聞こえてくる。
「そうですね、俺が毎日たっぷり叩き込んで教えましたからね、おい!マリー最後に、こっちも入れろ、仕上げは振らずに回すように、そうだ」
……おいおいおい!俺の、俺のマリーさんに何を「叩き込んで」教えたって?あの可憐で細身の子が何を「振って」るんだ?しかも最後は回すように...だと...
胸がモヤモヤとする中で、何か叫び出したい衝動を必死に押さえつけていると、隣でメイラが不思議そうに首をかしげて、俺を見上げた。
「どうしたのだ?勇者?顔が赤くておかしいのだ」
俺は思わずメイラにハッと気づかれ、すっかり動揺してしまった。
クライの声が聞こえてきた。
「よし!じゃあいただこうかなっと」ズバズバジュル、ズバッ!
ダメだ!マリーさんに何かまずいことが起きる前に止めなくては……!俺は元勇者として聞き耳を立てていたけど、こんな蛮行は許せん!元勇者の意地がある!
ザグス
「マリー、次俺も味見してみてもいいか?」
俺はのその言葉を聞き、勇者の血が、いや元勇者の血が騒いだ、メイラの持っていたホウキを取り上げて、走り出す
ダメだ、マリーさん!今行きます!
俺は勢いよく厨房に飛び込むと、胸を張って叫んだ。
「貴様ら!やめ……ろ……」
厨房の空気が一瞬にして凍りつく。マリーさんが驚いて「きゃあー!」と小さな悲鳴を上げた。クライは、あまりの勢いに驚いたのか、パスタを吹き出しながら噴き出した。
「ブフォッ!びっくりした!吹き出しちまったじゃねーかよ。何なんだお前は?」
その時、ザグスが俺をじっと見て、ハッとした顔で言った。
「あ、俺知ってるぞ。お前……狩人だろ!」
「ちげーし!」思わず反論してしまった。……ん?なんだこの状況?俺が飛び込む必要なんてなかったのか?
メイラがすかさずフォロー(?)に入る。
「狩人じゃないのだ、ホウキ振り勇者なのだ!」
いやいやいや、どっちも違うんだって。俺は勇者だよ、ただの勇者だったんだよ……ていうか、これ、完全に俺の勘違いだったか?
クライが俺を見て、薄ら笑いを浮かべながら言う。
「ん?お前、こないだの……あー、あの時幼女のメイラをボコって『俺つえー』してたあいつか」
「怖い……」マリーさんが小さく呟く。
「してねーわ!俺つえーなんてしてねーから!」俺は反論するも、クライの嫌味ったらしい発言に、心がズタズタにされそうだ。マリーさんに変な誤解をされてしまうだろうが!あと声ちっさ